【 FRAG-ILE-MENT 】 ≪ Magic Time (1) ≫


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雨はザアザアと、バケツをひっくり返したどころかまるでダムが決壊したかの様な猛烈な勢いで降り続いている。
またカーテンを捲(めく)って、厚く空を覆い尽くしている鈍い灰色の雲から、地上へと降り続ける雨粒を恨めしそうに見つめて、溜息をつかずにはいられなかった。
「ねえ、匠くん。明日本当に大丈夫かなあ?」
既に今日何度目になるのか、繰り返される同じ質問に匠くんは呆れ顔だった。
「天気予報では今日いっぱい降り続けるけど、明日は晴れるって言ってたでしょ?」
それはそうなんだけど。今日一日こんなに激しく降り続く雨が、明日には止むなんて何だか信じられなくて。天気予報はどんなデータや分析からそう導き出して いるんだろう、間違いなくそう言い切れるものなのか、もし万が一にもはずれでもしたら気象庁を訴えてやりたいって完全にやつ当たりな心境になりながら、性 懲りもなく窓の外を見上げた。
後ろから音もなく手が伸びて来て、優しく抱き締められた。
顔を寄せた匠くんの吐息が頬にかかる。
「そんなに憂鬱そうに空を見上げてたって仕方ないんだから。天気予報を信用して今日はもう気にしないの」
あたしだってそうしたいんだけど。
でも、明日はみんなでディズニーランド行くんだよ。雨降りのディズニーランドじゃやっぱり楽しさ大幅ダウンだよ。ショーだってパレードだって中止になっちゃうし。
心の中でそんなことを考えてしまって、素直に匠くんの言葉に頷けないでいた。
「それはそうだけど・・・でも、気になっちゃうんだもん」
そう返事をしたら、匠くんから提案された。
「何か他の事やって気を紛らわせるとか」
「他の事って?」
ちらりと匠くんを振り返りながら聞いた。
「勉強とか、読書とか、DVD観るとか」
「雨の音が気になっちゃって集中できないよ」
溜息交じりに答えた。
「じゃあ、どっか出かけるとか?」
「でも明日早いから遅くなるの嫌だし」
せっかく匠くんが提案してくれる傍(そば)から、文句ばっかり言ってしまった。
匠くんはそのことに気を悪くしてはいなかったけれど、流石に苦笑している。
「じゃあ、どうしようか?」困ったように匠くんに聞かれた。
「どうすればいい?」あたしも困って聞き返した。
「二人一緒なら雨の音、気にならないと思う?」
匠くんは耳元で囁くように聞いた。
「うん、一人よりかは」
何だかもやもやとした気持ちになりつつあった。心臓が期待と興奮でドキドキ高鳴った。

あたし達の周りの空気が急に密度を増したような気がした。
匠くんの腕の中でくるりと向きを変えた。向き合って匠くんの瞳を見上げる。
匠くんもあたしの瞳を覗き込んだ。お互いの気持ちが手に取るように分かった。
まるでスイッチが入ったかのように、あたしも匠くんも淫らな欲望に捕われていた。
匠くんがあたしへと屈みこむ。あたしも匠くんの身体に手を回しながら背伸びするように匠くんへと身を寄せる。目を閉じた。
唇に優しく柔らかく押し付けられる感触。それだけで溜息が出そうになる。甘くとろけそうな快感が広がる。
でもすぐにそれじゃ物足りなくて、もっと欲しくなる。もっと激しく求めてしまう。
待ち切れなくてあたしから舌を差し入れた。匠くんの歯並びをなぞり、隙間から中へと忍び込ませる。匠くんの舌を探して匠くんの口腔を彷徨う。
濡れた匠くんの舌に触れ、素早く絡ませる。やっと探し当てたのを離すまいと激しく絡ませて舐(ねぶ)る。
ぐいぐいと押し付けあうように重ねあう唇から、苦しそうに喘ぎが漏れる。呼吸すらもどかしく感じながら激しく唇を擦り合わせ、舌をしゃぶり合い、唾液を啜り合った。
やっと唇を離し、見つめ合った。二人の口から長い吐息が漏れた。離れた二人の唇の間に一筋の糸が引いていた。ぺろりとそれを舐め取った。
匠くんの瞳が激しい情欲に濡れているのが見えた。あたしの視界も潤んで霞んでいた。
あたし達は一言も交わさないまま窓際を離れ、ベッドに倒れ込むとお互いの身体をまさぐった。
匠くんがあたしの耳や首筋に荒々しく口付けをし、舌を這わせた。匠くんの触れた部分からぞくぞくとした喜びが立ち昇っていく。溜息とも喘ぎともつかない声が口から漏れていく。
匠くんの手があたしのTシャツの裾から内側へと差し入れられ、胸を揉んだ。鋭い快感がびりびりとあたしの身体を貫いた。あはあっ。思わず喜びの声を上げてしまう。
匠くんの掌は荒々しく胸をこね回し、硬く尖った乳首を指で摘んでくりくりと弄んだ。
「はあっ!やあっ」
強い刺激にあたしは叫び、ぶるぶると頭を振った。
匠くんがもたらす快感に身を捩(よじ)りながら、あたしも匠くんの硬くいきり立ったものをズボンの上から擦り立てた。硬いデニム越しに、匠くんのがびくび くと弾むのが分かった。ズボンのジッパーを下ろして手を中へと忍び込ませた。手探りしながら更に下着の中へと手を忍ばせ、匠くんのペニスを直に掴んだ。
うくっ!匠くんは強い快感に呻いた。
握ったペニスをごしごしと擦り立てた。怒張したペニスはあたしの手の中でびくびくと激しくのたうった。
「あううっ」
匠くんは強烈な快感から逃れるかのように腰を引こうとする。だけど、あたしはそれを逃さずに更に激しくペニスを刺激し続けた。もっともっと匠くんに感じて欲しかった。もっともっと匠くんに感じさせて欲しかった。
あたしの欲望が伝わったかのように、匠くんは快感に悶えながらあたしのスカートを捲り上げるとその手を下腹部へ伸ばした。
下着は既に溢れ出たもので恥ずかしい位に濡れていた。匠くんは濡れてぬめりを帯びた下着の上からあたしの秘唇に触れた。
匠くんは中指でぬるぬると陰唇をなぞるように擦り立てる。
くうんっ。抑えようもなく甘い声が喉の奥から漏れる。
ぎゅっと固く目を閉じて、匠くんがもたらしてくれる快感を少しも逃すまいと意識を研ぎ澄ます。
匠くんの指の動きが物足りなくて、もっと強い刺激が欲しくて、思わず匠くんの手に押し付けていた。下着の上からじゃなくて直に触れて擦り立てて欲しかった。
自分の手にぐいぐいとその部分が押し当てられて来て、匠くんはあたしの淫らな望みを理解して下着の中へと手を滑り込ませた。
匠くんの手がぬるりとあたしの陰唇をなぞった。ぞくぞくとした快楽への期待に息を詰めた。
ぬぶり、って感じで匠くんの指があたしの中に潜り込んだ。
はああ!待ち焦がれた快感に、あたしは全身を震わせながらよがった。
根元まで差し入れられた匠くんの中指は、その指先であたしの内側を擦り立て、そのまま膣壁をずるずると指の腹で擦りながら引き抜かれていく。ひあっ!背筋を貫いていく強い快感に、身体を仰け反らせて悶えた。
匠くんは中指を第一間接まで引き抜くと、また一息にぴんと伸ばした指を膣の奥深くまで突き立てた。
あ、ひっ。匠くんの指の動きに応えるかのように、あたしの口からは淫らな喘ぎ声が放たれ続けた。
匠くんはあたしの膣を指で激しく擦り立てる一方で、あたしの胸を口唇で愛撫した。乳房全体を歯を立てないようにもぐもぐと食むように口に含んで揉み立て、硬く尖った乳首をすぼめた唇で挟んでちゅうっと強く吸った。そうかと思うと尖らせた舌先で乳首をくりくりと転がした。
とろとろと止め処もなく溢れ出る愛液に塗れてぬめった匠くんの中指は、あたしの膣をぬるぬると出入りを繰り返し、指の腹で膣襞を擦り立て、指先で膣の奥深 くをずんずんと突き上げた。中指を激しく膣に突き立てながら、匠くんは掌でクリトリスを包皮の上からぐりぐりと揉み立てた。
胸と性器の両方を激しく責められて、あたしは強い快感にもう正気もなく惑乱した。
「やあっ、あふっ・・・ひあっ!はうんっ!・・・くうっ、あっ、あはあっ!」
頭を激しく振りながら、留めようもなく快楽に濡れたよがり声を上げ続けた。
でも、快楽に染まった意識の片隅でこのままじゃ嫌だと思っていた。このままイクのは嫌だった。匠くんの硬く屹立したもので貫かれたかった。
「あっ、はあんっ・・・た、くみ、くんっ!やあっ・・・この、ままじゃ、や、なのっ!・・・あふうっ!あんっ、匠くんのっ、入れて、あひっ・・・入れてっ、欲しいのっ!」
絶え間なく襲い来る強烈な快感に眉間に皺を寄せて耐えながら、切なく濡れた眼差しで匠くんを見つめながら、途切れ途切れに匠くんに懇願した。匠くんのペニスであたしの奥深くまでいっぱいにして欲しかった。
あたしの淫らなおねだりに、匠くんは一瞬歪んだような表情をした。そして一端あたしから身体を離した。あたしは引き抜かれていく指を感じて淋しくて「いやあ!抜かないで!」って心の中で叫んでいた。
欲情と切なさで濁った眼差しで匠くんを追うと、匠くんは引き出しからスキンを取り出して、自分の股間で硬く屹立しているものに装着した。その様子は何となくもどかし気に見えた。
準備を終えた匠くんはあたしへと覆い被さって来た。あたしの上に圧し掛かるように迫る匠くんの顔には、何処か切迫したような余裕のなさが感じられた。匠くんもあたしと同じ気持ちだって分かった。
これからあたしの身体を貫く狂おしいまでの快楽への期待に、あたしは笑みを浮かべていた。
「入れるよ」
あたしの瞳を真っ直ぐに見つめながら匠くんが言った。
匠くんの瞳を見つめ返したまま頷いた。
「うん。来て」
両腕を開いて匠くんを招き入れる。
匠くんは自分のペニスに手を添え、位置を確かめながらあたしの入り口へと狙いを定めた。
ぬるりとあたしの陰唇を擦る感触があった。それだけであたしはびくりと身体を悶えさせた。膣内がきゅうっと収縮するのを感じた。はああっ。期待に大きく息を継いだ。
ズブッ。あたしの膣を押し広げながら太くて固い感触が侵入して来た。
「あああっ!」
その狂おしい快感に一際大きな喘ぎ声が漏れる。
匠くんの怒張したペニスが膣壁を一杯に押し広げながら奥深くへと突き進んで来る。太い幹にずりずりと膣襞を擦り立てられて、鋭い快感が背筋をぞくぞくと震わせて脳天へと突き抜けていく。
「くふうっ!うっ、ふあっ、ひうっ」
自分の意志ではどうにもならないほどに、甘く蕩けた淫靡な声が漏れてしまう。
匠くんのペニスに膣を貫かれながら、比類ない快感に酔いしれていた。たまらなく気持ちよかった。蕩けきった思考の片隅でそれだけを感じていた。
匠くんのペニスの先端があたしの奥深くをズン!と強く突き上げた。「あっ、ひいっ!」
ずしりとした一際重い快感が駆け抜ける。
そして匠くんのペニスはあたしの膣の奥深くまでを貫き、根元まであたしの中に埋まった。
「はああっ・・・」
「くうっ・・・」
二人の口から同時に切ない吐息が漏れる。
あたし達は身体の奥深くで繋がったまま、ぎゅうっと強く身体を抱き締めあった。一ミリの隙間もなく肌を密着させ、口付けを交わした。激しく舌を絡めて舐り合った。激しく喘ぎ続けて乾いた喉を潤すように匠くんの唾液を啜った。
匠くんの反り立ったペニスがあたしの中でびくびくと跳ねた。匠くんのペニスが弾む度にあたしの膣壁をぐいぐいと押し上げ、その刺激に膣がひくついて戦慄(わなな)いた。
匠くんに身体の奥深くまで貫かれて、こうして身体を重ね合いぴったりと寄り添っていると、たまらなく満ち足りた気持ちになる。肉体で繋がり合いながら、同時に心の深い場所でひとつに繋がっている気持ちがした。
閉じていた目を開けて匠くんを見上げた。匠くんが優しさと切なさの入り混じった色の瞳であたしを見下ろしていた。あたしの中で匠くんは切なそうだった。とても愛しかった。
「匠くん、動いて」
そうお願いした。声が激しく欲情しているのが分かった。匠くんと一緒に何も考えられなくなるほど溶け合いたかった。
匠くんは頷くと腰を引いた。ずるずると膣襞を擦り上げながら、匠くんのペニスが引き抜かれていく。
「くはああっ・・・ああんっ・・・」ぬめった内側をペニスでぬるぬると擦られる気持ちよさに、だらしない声をあげてしまう。
匠くんのペニスは先端の張り出した部分まで引き抜かれ、膣の奥深くがぽっかりと空いてあたしが一瞬淋しさを覚えた次の瞬間、匠くんは激しく腰を打ちつけ、ペニスは一気に膣の奥深くを抉り、子宮口を突き上げた。ズンとした重い快感が襲い、身を仰け反らせた。
「ぐうっ!」苦しさにも似た快感に苦悶の表情を浮かべ、悲鳴じみた喘ぎを漏らした。
匠くんはやがてリズミカルに動き始めた。膣に埋まったペニスを先端近くまで引き抜いたかと思うと、素早く一息にペニスの根元まで膣に突き入れた。身体の奥 深くを屹立したペニスの先端で突き上げられる度に、気が狂いそうなほどの強い快感に貫かれた。匠くんの腰の動きは段々とスピードを速めていき、すごい速さ で怒張したペニスに膣襞を擦り立てられ、激しく奥を突き上げられ、あたしは加速度的に激しい快楽に飲み込まれていった。
「あっ、ああっ、あんっ・・・はあんっ、あふんっ、あっ、はっ、はうっ、はあっ・・・」快楽に溺れた甘ったるい喘ぎ声が、途切れることなく口から漏れた。自分のだらしないよがり声が耳に届き、羞恥で身悶えせずにはいられなかった。
全身を快楽に染めながら、激しく昂ぶっていった。匠くんのペニスに荒々しく貫かれている膣から間断なく届けられる激しい快感に、あたしは絶頂へと急きたてられていった。
「はあっ、はあんっ、あふっ、ああっ、やんっ・・・だめ、もう、だめにっ、なっちゃうッ!やあっ!くふうっ・・・あっ、イっ、いいっ・・・」
あたしの切迫した声を聞いて、膣を突き上げる匠くんの動きに変化が生じた。奥深くにペニスを突き入れたまま、激しく腰を打ちつけて膣奥を抉るように突き上げ、子宮口をズンズンと押し上げた。
「はっ、はあっ、萌奈美っ、くっ、ふっ」
匠くんの切なげな呻きがあたしの耳朶を熱く打った。匠くんの切ない喘ぎを聞いたあたしは昂ぶり、激しく欲情した。
一番奥を激しく突き上げられて、もう訳も分からず惑乱し身悶えた。
「あぐっ、あひっ!・・・やあっ、いいっ、スゴイっ、イイのっ!・・・やあん、奥が、イイのっ!スゴイっ、イイっ!すごくっ、いいのっ!やあ、やんっ!あっ、ああんっ、やっ、やああっ・・・あっ、ダメっ!イクっ!ひっ!イクっ、イッちゃうっ!」
悲鳴のような張り詰めたよがり声を聞いた匠くんの動きが一層速く、激しさを増した。
「あっ、あひっ、ひっ、いっ・・・イクっ!あっ、あああ、ああああああああーっ!」
がくがくと全身を戦慄かせながら叫んでいた。激しい絶頂に貫かれながら、固く閉じた瞼の裏で眩い閃光が激しく何度も弾けた。意識が真っ白になる。
遠のく意識の中で、匠くんの強張りが未だに激しく膣奥を突き上げているのを感じた。弾けて麻痺した意識に更に膣の奥を抉られる快感が捻じ込まれて来る。自 分では真っ白になってもうこれ以上感じることができないって思っているのに、麻痺しきったはずの意識の中で激しい快感が爆ぜ、幾つもの眩いフラッシュが瞬 き、微かに残った意識を飲み込んだ。
思考が途切れる寸前、「くうっ、イクっ」っていう匠くんの張り詰めた声が遠く聞こえたような気がした。
身体を弓なりに仰け反って硬直したまま、びくびくと全身を震わせていた。
やがて硬直が解け、あたしの身体は糸が切れた操り人形のようにどさりと重くベッドに沈んだ。手足がだらしなく投げ出されている。呆けたようにだらしなく緩 みきった顔を晒していた。喉の奥でひゅうひゅうと息を吸い込む音を立てていた。胸が大きく上下動を続けている。時々、意識しないままに太腿がぴくぴくと痙 攣していた。

少しずつ意識があたしの中に戻ってきた。
何度も瞬きしてぼやけた視界の焦点を合わせる。まだ身体がふわふわとしていて実感が戻らなかった。重苦しさを感じた。あたしの上に匠くんが覆い被さるよう に圧し掛かっていた。それでも下になっているあたしへ全体重をかけるのを避けて、あたしの横に身体をずらして体重を逃がしていた。
肩で息をしている匠くんの荒い息遣いが聞こえた。
意識を向けると匠くんのペニスはあたしの中に収まったままだった。時々思い出したように、ひくん、ってひくつくのを感じた。まだその硬さは失われていな かった。匠くんのものを飲み込んだその部分はあたしの意識とは関係なく、まだ物足りないかのように艶めいた収縮を繰り返していて、匠くんのペニスを刺激し て淫猥な誘惑を続けていた。
投げ出していた両腕を匠くんの身体に回し、そっと抱き締めた。匠くんの胸に顔を寄せて匠くんの匂いを嗅いだ。そっと口づける。激しく動いた後で匠くんの身体は少し汗ばんでいた。
匠くんがゆっくりと身体を起こしてあたしの顔を覗き込んだ。
さっきまで激しくあたしを責め立てていた時の思い詰めたような苦しげな眼差しはもうなくて、満ち足りた優しさと愛しさの籠もった眼差しがあたしを見つめていた。
「萌奈美」
匠くんはそっとあたしの名前を呟いた。
あたしの瞳をじっと覗きこんでいる匠くんがすごく愛しくて、にっこり微笑んだ。匠くんに回した両手にきゅっと力を込めて引き寄せた。匠くんの顔が降りてく る。あたしからキスした。激しさが過ぎ去った後のたゆたうような余韻の中のキス。優しくて甘くて満ち足りたキス。柔らかく唇を触れ合い、啄ばむ。ちゅっ、 と小さな音を立てて唇を離した。
部屋に流れる空気をなんだかくすぐったく感じていた。
「雨の音は気にならなくなった?」
匠くんが悪戯っぽい目をして問いかけた。
もお。そんなの聞くまでもないでしょ?匠くんを軽く睨みつける。もちろん目は笑っていた。
匠くんも笑った。
答える代わりにあたしはもう一度キスをした。
今度は舌を深く差し入れて絡めあう。重ねた唇からくぐもったぴちゃぴちゃと濡れた音が漏れて、すごく淫靡な感じに聞こえた。ぞくぞくとした官能が燻(くす)ぶり始め、すぐに首の後ろから身体全体に燃え広がっていく。
繋がったままの部分からずきずきとした快感が這い上がって来る。
まだ日は長かった。もっともっと窓の外のことなんかすっかり忘れきってしまうくらいに、匠くんと二人だけの濃密な時間に溺れていたかった。
あたしの欲情が匠くんにも伝染したように、あたしの中で強張ったままのものをびくびくとひくつかせた。
匠くんのものがびくんって弾む度にあたしの膣襞を擦り立て、ぞわりとした快感に腰をくねらせた。
「あはあっ」
匠くんから唇を離し思わず喘いだ。まるで自分のものではないように甘ったるい、媚態のこもった声。
我慢できなくなって自分から腰を振って、熱くぬめりを帯びた粘膜の中に咥え込んだ匠くんの怒張したもので自分の襞を強く擦り立てた。激しい快感があたしの中を駆け巡る。
「あううっ、はあんっ、あふっ・・・あっ」
快楽に染まった喘ぎ声を上げながら、濡れた瞳で匠くんに訴えた。もっと匠くんの硬く屹立したペニスで激しく突き上げられ、掻き回されたかった。
匠くんはあたしの眼差しに頷いて応えると、両手で自分の上体を支えて腰を引いた。ずるずると膣壁を引きずりながらペニスが引き抜かれていく。
「はううっ!」びくりと身体を震わせて鋭く喘ぎ、頭を仰け反らせた。
先端近くまでを引き抜いたペニスを、匠くんは次の瞬間ずぶりと根元まであたしの中に突き入れた。熱く蕩ける膣を太いペニスでいっぱいに満たされ、一番奥深い部分を張り出したペニスの先端で突き上げられて、ズン!と重い快感が膣の奥から脳内へ突き抜けていく。
「あっ、ひっ!」身体の中を電気が流れたかのように身体を硬直させて、大きく仰け反った。
匠くんは自分の身体の下で淫らに惑乱するあたしを見て、自信を得たかのように腰を強く激しく振り立てた。
匠くんが怒張したものを引き抜いては突き入れる度に、あたしと匠くんの繋がった部分からは、淫猥な音が漏れてその濡れた響きはあたしの性感を激しく煽った。
匠くんは腰の動きを次第に速め、荒い息を吐く合間に切れ切れに苦しげな喘ぎを漏らしながら、猛って反り立ったペニスを荒々しくあたしの膣深くへと突き立て続けた。
ずちゅ、ぐちゅっ、ぐぷっ、たまらなく淫靡な音を立てて素早く出し入れされる反り立った太いペニスで膣をいっぱいに押し広げられ、内側の襞を激しく擦り立てられながら、身体の奥からせり上がってくる熱い塊の気配にあたしは身体を戦慄(わなな)かせた。
熱いぬめりで溢れる膣を太いペニスできつく責め立てられ、全身を襲う絶え間ない快感に翻弄されながら、あたしはもっとあたしの深い場所で匠くんを感じたいって思った。あたしの身体の一番奥深くに匠くんのものを導き入れ深く繋がり合いたかった。
殆ど無意識に匠くんの下半身にあたしは自分の両足を絡ませて結合部を強く密着させた。匠くんはあたしの行為に少し驚いたみたいだった。それを感じて、自分 の行為がひどく淫らであさましいもののように思えて激しい羞恥を覚えた。まるで獲物を逃さないように触手を伸ばして絡みつき捕らえる捕食者のようだった。
あたしの足が匠くんに絡みつき、激しく腰を振り立てることができなくなって、匠くんはペニスを根元まで深くあたしの中に埋(うず)めたままで、更に奥深く を抉るように腰を強く突き込んだ。ズン!ズン!と身体の奥深くを激しく突き上げられ、電流のような鋭い快感が身体を貫いていく。匠くんのペニスの先端があ たしの膣の最深部をごつごつと突き上げ、子宮口にもその突き上げを感じズキズキと疼いた。
匠くんにしがみつきながら頭を激しく振り立てた。匠くんに身体の最深部を強く突き上げられるたび、その一突きごとに、あたしの身体の奥底からどろどろとした熱いマグマのような官能の塊が激しく沸き立って来る。
「あっ、はううっ、く、ひっ、あっ、ひあっ、あひっ・・・あふうっ、ひいっ、ひっ、ああっ・・・」
全身をうち震わせながら悶え、糸を引くかのような欲情に濡れた喘ぎ声を上げ続けた。匠くんの首に両手を回し、両足を匠くんの下半身に絡みつかせて全身で匠 くんにしがみつきながら、肉欲の虜になっていた。ただただ、匠くんのものを身体の奥深くに咥え込んだまま、激しい絶頂に至りたかった。もう限界がすぐそこ まで迫っていた。
「あふうっ、あはあっ、うくっ、もおっ、ダメっ、なのおっ!もう、ダメえ!やっ、やあんっ、たく、みっ、くんっ!もおっ、いっ・・・いくっ・・・」
切羽詰った声で切れ切れに、匠くんにすさまじい快楽の波があたしを連れ去ろうとしていることを知らせた。
匠くんはあたしの差し迫った声を聞いて更に腰を振る動きを加速させ、あたしの中を抉るように突き上げる動きも激しさを増した。
ずちゅ、ぐちゅ、ぐぽっ、二人の繋がり合うところからは、とても淫猥な音が聞こえ続けていた。匠くんの荒々しい息遣いと途切れ途切れの切ない喘ぎ声が耳を打った。
匠くんの怒張したペニスで乱暴に膣の中を掻き回され、子宮口に届くまで身体の奥を激しく突き上げられながら、激しく熱い奔流に呑み込まれていった。
「あっ、ああっ、やあっ、ヤダっ、ひっ、イクっ、もうっ、くひいっ・・・ダメっ、いっちゃうっ!・・・ひっ、あっ、あふっ、あひっ、ああっ、ああっ!」
もう限界だって思った。
次の一瞬、マグマのような熱い塊が爆ぜた。頭の中で幾つものフラッシュのような眩い閃光が炸裂してあたしの意識を焼き切った。
「あ!あああああああーっ!」
獣のような叫びを放ちながら、すさまじい快楽の波に呑まれて、全身を仰け反らせたまま硬直した。仰け反った身体を戦慄(わなな)かせ続けた。
匠くんの猛々しい剛直はあたしが全身をぴんと張り詰めたままその動きを静止しても、まだその蹂躙を止めなかった。匠くんはきつく歯を食いしばったまま苦しげな顔をしながら、凄まじい勢いであたしの熱く蕩けた粘膜の奥にペニスを突き立て続けた。
遠のく意識の中で、あたしの中に深々と突き刺さったペニスは、身体の奥まった突き当たりを凶暴に抉った。怒張した先端が子宮口をごつごつと突き上げ続けた。
声にならない悲鳴を喉の奥で放って、あたしを攫っていく更なる絶頂に恐怖さえ感じながら、これ以上ない程に大きく身体を仰け反らせ硬直させた。ひくひくと喉がひくつき、声もなくよがり狂った。
「うっ、くっ!出るッ!」
匠くんの鋭い声が遠くに聞こえた。僅かに残る感覚の中で、匠くんのペニスの先端があたしの奥深くを貫いたまま、一瞬膨らんだかのように感じられて、次には どくどくと脈動していた。激しく精液を迸らせているのを感じることができて嬉しかった。その感覚が最後の引き金になったかのように、あたしは再び激しく絶 頂に達し、蕩けるような熱い快楽の底へと溺れていった。微かに残っていた意識を繋ぐ糸がぷつりと断ち切られた。

静かな部屋の中で、熱い吐息と淫靡に粘ついて濡れた音だけが聞こえていた。
全裸になって、ベッドに横たわった匠くんの上で逆向きに四つん這いになっていた。大きく足を広げて匠くんの顔を跨り、濡れた股間を匠くんの視線に曝け出していた。
匠くんの怒張したペニスをさんざん突き立てられ、だらしなく口を開けたままの膣口やぐちゃぐちゃに乱れて充血した陰唇を、恥ずかしいほど見つめられてい る。そう思っただけであたしの身体の奥がじくじくと疼き、どろりとした熱いぬめりが止めどなく流れ出て溢れ、匠くんの顔に糸を引いて滴り落ちそうだった。
自分のあさましい格好を想像して激しい羞恥を感じながら同時に昂ぶってもいた。顔を火照らせながら匠くんの屹立したものを口と手で嬲(なぶ)った。舌を伸 ばし先端の裏側の敏感な部分を尖った舌先でくすぐる。先端だけを咥えて熱い唾液に塗れさせ、舌で張り出したかり首の周りをぐるぐると舐め回す。そのまま唇 で挟みながら強く先端を吸い上げる。幹に舌を這わせて根元へと辿り、太い幹と陰嚢の付け根を舌先でくすぐる。陰嚢に優しく舌を這わせて、中の睾丸を舌先で 突付く。睾丸を口に含むと歯を立てぬように唇で揉むように食む。ちゅっと咥えた睾丸を吸い上げる。再びペニスへと戻り、大きく口を開けると深々と飲み込ん でいく。ペニスの大部分を咥えると熱い唾液にどっぷりと浸す。唇を強く引き締め、きつく締め上げながらゆっくりと引き抜いていく。濡れた唇で幹をぬるぬる と擦り立てる。かり首の手前で停めると、強く吸引しながら唇にかり首をひっかけるようにすぽんって引き抜く。今度は軽く咥えると速く浅い動きで頭を上下さ せ、ぬめった唇で太い幹をマッサージする。
あたしがペニスを様々に刺激する度に、匠くんは呻き、或いは喘いで身悶えた。切なそうに太腿を捩じらせたり、ぴんと爪先まで反り返ったりした。びくっと腰が跳ね、腹筋が引き締まった。
もうすっかり匠くんの感じる部分を熟知してしまっていた。あたしを貫き、あたしの中を荒々しく掻き回し激しく責め立てていた凶暴なペニスは、いまやあたしの思うがままに切なげにひくついてはびくびくとのたうっている。そう思うととても可愛くてたまらなく愛しかった。
愛しさを込めてペニスを舐めしゃぶり、根元を握って擦り立て、陰嚢を優しく撫で擦(さす)った。
「くううっ・・・」
匠くんが切なげに喘ぎ、びくんと腰を浮かせた。睾丸がせりあがり、あたしの口の中のペニスがびくびくと跳ねて暴れた。もう我慢できない位に性感が高まっているのが分かった。
少しでも気を逸らせようとして、匠くんは目の前ではしたなく蜜を滴らせているあたしの膣に舌を伸ばして溢れる愛液を舐め取り、ぬらついた陰唇に指を這わせぬるぬると擦った。
下腹部から這い上がってくる快感に、強張りを咥えたままくぐもった喘ぎ声を漏らした。腰を悶えさせた。
もっと匠くんに気持ちよくして貰いたいっていう欲望に負けそうになりながら、何とか持ち堪えたあたしは一層激しく熱のこもった口での愛撫を再会した。
限界の近い匠くんのペニスを射精に導こうと、あたしはペニスを咥えると速いスピードで頭を振ってぬめった唇で幹の部分を擦り立てながら、張り出した先端の裏側の敏感な部分を舌先で舐め回したり擦ったりした。根元を握ってきつく擦り上げ、陰嚢をやわやわと揉み擦った。
「うくっ・・・うっ、あううっ」
匠くんが苦しそうに呻いて顔を仰け反らせた。より強い快感を求めるように腰が浮き、ぐっと押し付けられる。切羽詰った気配を感じ取った。匠くんの手があた しの頭を優しく押さえた。もっと深くペニスを咥えて欲しいって望んでいた。もうあとほんの少しだった。喉の奥を突かれる苦しさに堪えながら、必死に匠くん のペニスを根元まで咥えた。かり首まで引き抜くと今度は根元まで深々と飲み込み、頭を激しく上下させ口でのピストン運動を続けた。
「あ、くっ・・・萌奈美っ、イクっ!」
匠くんが叫んだ。
その刹那、口の中のペニスがぐっと膨らんだようになって、その先端から凄まじい激しさで精液が迸った。その最初の一撃を喉の奥に受けて危うく咳き込みそう になりながら何とか堪えて、慌てて舌を先端に当てて引き続く激しい射精の勢いを受け止めた。そうしながら舌で先端を舐め回したり舌先でくすぐったりして刺 激を加え射精を促した。そうしながらペニスを握って擦り続け、陰嚢を優しくくすぐった。
あたしの口の中で匠くんのペニスは何度も激しくびくびくとひくつきながら、激しい迸りはもう収まったものの、それでもまだどくどくと精液を放っていた。大 量の精液があたしの口の中に吐き出されていた。最後の一滴までも搾り出そうとして、舌と手による愛撫を続けた。やがてペニスは小刻みにひくつくばかりに なって、激しい射精を終えたようだった。
口の中に大量の粘ついた精液が溢れ、鼻腔を独特の生臭い香りが満たした。
口の中に溜まったどろりとした精液を、もう何回も経験して慣れた要領で飲み込んだ。ぐびりって喉が鳴った。匠くんの濃い精液は粘ついて喉に絡みつき、一度で嚥下できず何度も飲み込まなければならなかった。白濁した粘液を唾液で薄めながら飲み干した。
嚥下する度に口蓋がペニスを挟み、射精直後の敏感なペニスは何度もびくびくとのたうった。
口の中をいっぱいに満たしていた精液を飲み終えると、口の中のペニスを強く吸い立てた。強い吸引にペニスはまたびくびくと跳ねた。そのまま唇で強く挟むと 強く吸いながら引き抜いた。そのまま先端まで引き出すと、精管に残った精液まで一滴も残さず全部吸いだそうとして先端部分を強く吸い立てた。敏感な部分を 強く吸引されて匠くんは苦悶の表情を浮かべ呻いた。吸引しながら先端部分をすぽんと音を立てて離した。温かい口腔から冷たい空気に晒されてペニスはひくひ くと震えた。
やっと仕事を終えた気分でひと心地ついた。はあっ、深く息を吐いた。ずっとペニスを咥えていたせいか顔が火照っていた。
ちらりとあたしの足の方で荒い息をついている匠くんの様子を窺ったら、匠くんは放心した様子で全身を投げ出していた。強い快感の余韻がまだ身体に燻り続けているのか、目を固く閉じたままで荒い呼吸を繰り返していた。
全てを吹き飛ばすかのような激しい射精に匠くんを導くことができて、すごく満足していた。少し誇らしかった。
もっともっと匠くんを夢中にさせたかった。もうあたしなしではいられない位に匠くんを溺れさせたかった。あたしの身体の虜にしたかった。
その一方で、匠くんの悶える姿を見てそして匠くんのペニスをしゃぶりながら、あたしの身体の奥底はずきずきと疼き、激しい欲情が心を焦がしていた。匠くんを愛しながら、あたしは熱いぬめりをとろとろと溢れさせていた。
「匠くん・・・」
熱に浮かされたうわ言の様な声で呼びかけた。
匠くんがのろのろと頭を上げてあたしの方を見た。頭を巡らせて匠くんを見ていたあたしの視線と匠くんの視線が交わる。欲情に濡れた瞳で匠くんに訴えた。言 葉に出そうとして、でもその言葉の響きはとてもいやらしくて淫らで声にはならなくて、身体はもう我慢できない位激しく疼いて切なくて、泣き出しそうに顔を 歪めて匠くんを熱く見つめた。そしてあさましく腰を沈めた。
匠くんは無言であたしの腰を引き寄せ、自分も首を伸ばしてあたしの下腹部へと顔を近づけた。訪れる快感への期待に心を震わせた。
匠くんの舌先があたしのぬらついた入口を舐め上げた時、たまらなく甘美な刺激にびくりと頭を仰け反らせて、鼻にかかった声で喘ぎながら強く股間を匠くんの顔に押し付けていた。
匠くんは待ちかねていたように夥しく蜜を漏らしてぬるぬるに濡れそぼった秘唇に口づけをし、強く吸った。匠くんの口が密着し、あたしの膣の中をどっぷりと 浸している愛液を啜る「ズズッ」っていう淫靡な音が、異様なほど大きく響いた。あううっ。敏感なところを強く吸引されて、鋭い快感に貫かれびくびくと身体 を悶えさせた。
匠くんは陰唇に両手を添えると左右に広げようとしてぬめりに滑って何度か指を当て直しながら、ぐいっと大きく押し広げた。そして尖らせた舌先で口を開けた膣を抉った。弾力がありながら柔らかな感触の舌で、敏感な粘膜を突付かれ襞を擦り立てられて、あたしは惑乱した。
「あっ、ひっ、あううーっ、くっ、ううっ・・・」
匠くんはあたしが激しいよがり声を上げて悶えると、一層激しく舌を膣に出し入れした。まるでペニスのような動きで舌が膣に突き立てられた。
「はあんっ、あふうっ、あっ、ああっんっ」
がくがくと身体が震え、あまりの快感に上体を支えていられなくなって匠くんの下腹部に顔を押し付けた。頬に匠くんのずっと屹立したままのペニスが当たり、あたしの頬をぬるぬるとしたぬらつきで濡らした。
「あふっ、あっ、はあっ・・・あっああっ、くっ、ううっ・・・」
身悶えしながら急激に昂ぶっていった。
絶頂の予感が頭を過ぎった。熱い快楽の塊がむくりと鎌首を持ち上げた。
ああっ、もうっ、もうすぐ!ああんっ、あっ、あとっ!もう、すぐっ!・・・はふうっ、あくっ、はあ、んっもっ・・・もう、あとっ、少しっ!ッ、なのっ!
匠くんに膣を舐め回され舌で抉られながら、より強い快感を求めてあたしは夢中で秘所を匠くんの顔に押し付け、腰を揺すった。
もう、もうっ、ダメッ!
頭の中で限界を告げようとして、あともうほんの僅かな刺激で絶頂に達しようとした、その時だった。
匠くんはあたしの膣口から口を離すと、素早くあたしの下から抜け出した。
えっ!?胸の中で驚愕の叫びを上げた。
もう今しも激しい絶頂に貫かれようとしていたのに、突然匠くんは口での愛撫を中止して身体を起こしてしまって、あたしの身体は高みに攫われるもうあとほん の少しのところで放り出され、ほったらかしにされた。ズキズキと激しく疼く身体が切なくて淋しくて、顔を歪めて、泣き叫んだ。
いやあっ!ダメえっ!匠くんっ!やめないでえっ!
あたしが身体を起こして追い縋るより一瞬早く、匠くんはあたしの腰を両手で抑え、猛々しく反り返ったペニスで後ろからあたしを一気に貫いていた。
不意打ちのように一番深い所まで匠くんの硬く逞しいもので貫かれて、あたしは狂乱した。
ひいっ!
匠くんはあたしに息をつく余裕さえ与えず、激しく腰を前後に動かし始めた。凄まじい勢いで腰を振り立て、いきり立ったモノを半ばまで引き抜いては再び根元 まで深く突き入れた。乱暴に出入りする太いペニスに内側の粘膜を強く擦り上げられ、ズンズンと膣の最深部を抉られた。先端部が子宮口をごつごつと押し上げ てくる。
ベッドに顔を擦りつけながら、半狂乱みたいになってよがりまくった。だらしなく開け放したままの口元から涎が流れ落ちシーツを濡らすのさえどうでもよくなっていた。
匠くんにきつく掴まれ高く掲げられたままのお尻に匠くんの腰が打ちつけられる度に、二人の繋がった部分から粘ついた音が響いて欲情を煽り立てた。匠くんの 手がお尻の肉を荒々しく揉みしだく。匠くんには硬く屹立した匠くんのペニスを深々と咥え込んでいるあたしのその部分が丸見えの筈だった。
あっ、ひいっ、あぐっ、ひっ、ひああっ、すごっ、凄い、のっ!・・・あっ、はっ、激しいっ!くうっ、ううッ・・・匠、くんのっ、あっ・・・凄いっ、いい のっ!・・・あっ、いいっ!あ、ひっ!あふっ・・・やあっ、気持ちっ、うくっ、気持ちイイッ!あっ、ああっ、あはあっ!・・・いいっ、いいっ!あっ、はあ あ、いいのぉ・・・
上半身をベッドに投げ出して腰だけを高く掲げ、後ろから激しく突き立てられている自分の姿を快楽に霞む頭で思い描き、その動物のような行為がたまらなくあさましく思えて、それがあたしの劣情に火を注いだ。
一度は絶頂寸前まで昂ぶっていたあたしの身体はいとも容易く快楽に呑み込まれた。
あっ、はああっ、いいっ、匠、くんっ、もっとっ!・・・あひっ・・・もっと、強くっ!奥っ、奥までっ、ひっ、突いてっ!ああっ、あ、はっ・・・あんっ!
快楽に染まる声で恥ずかしげもなくおねだりした。
あたしの淫らな要望に匠くんの腰を突き入れるスピードが増した。凶暴に反り返ったペニスはあたしの膣を滅茶苦茶に突きまくった。ごりごりと乱暴に掻き回さ れ、繊細な襞をずりずりと擦り立てられ、膣の深い部分を子宮口に届くまで突き上げられながら、身体を仰け反らせて硬直した。
視界に火花が散った。白濁に霞む意識の中で、猛然と膨れ上がってくる熱くてどろどろのマグマのような塊が爆ぜ、あたしを焼き尽くした。全身をばらばらに引き裂くような激烈な絶頂があたしの中で弾けた。
快楽の虜になりながら激しい絶頂に達し、強張らせたままの全身をがくがくと震わせた。
気が遠くなるほどの凄まじい絶頂に膣が激しく収縮し、匠くんのペニスをぎゅうぎゅうと締め上げた。
匠くんは激烈な快感に顔を歪め、食いしばった歯の隙間から苦しげな呻き声を漏らしながら腰を振り立て続けた。
収縮している粘膜を更に貫かれ続けて、あたしは何度も絶頂に達した。絶頂に達してもまた新たな絶頂の波が訪れ、それが何度も何度も繰り返された。無限に続 くような絶頂に支配されながら、仰け反って強張らせたままの身体を弛緩することもできずに、呼吸もままならない状態でわなわなと小刻みに震え続けた。
激しく腰を振り立ててペニスを突き入れ続けていた匠くんが鋭く叫んだ。一際強くペニスを突き入れて、膣の奥深くに怒張し切ったものを収めた。あたしの中をいっぱいに満たしながら、匠くんのペニスはびくびくと断末魔のようなひくつきを見せた。
ぐっ、ううっ・・・うあッ、出るっ!萌奈美っ!
激しい快楽に焼き切れかかった意識の中で、匠くんがあたしの名前を叫ぶのを聞いた。そして膣をいっぱいにしているペニスがドクンドクンって脈動するのを感 じた。スキンに隔てられた中で匠くんは激しく精を迸らせた。そう感じつつ、やがてあたしの意識は快楽の奈落へと落ち込んでいった。

気が付くとあたしと匠くんは固く抱き合いながら、横向きにベッドに横たわっていた。
まだ快楽が身体の奥で燻ぶっていて、ぼうっと頭を霞ませていた。視界もどこかぼんやりとしていて、何度か瞬きを繰り返した。
間近で固く目を閉じている匠くんの顔を見つめた。何かに耐えるかのように少し眉間に皺を寄せ、微かに口を開けて荒い呼吸を繰り返している。触れ合っている胸が呼吸に合わせ大きく上下動している。
「・・・匠くん」
自分の声を何処か遠く感じながら、匠くんの名を呼んだ。
匠くんは、ゆっくりと瞼を開けた。何の色も浮かんでいなかった瞳が、あたしを映して柔らかな優しい色を帯びる。
愛しさと嬉しさで胸がいっぱいになって、優しい気持ちで微笑んだ。
匠くんも顔を綻ばせた。
匠くんの笑顔が大好きだった。たまらない気持ちになる。ただただ愛しくなる。自分の中が愛しさで満ちて幸せに包まれる。
「萌奈美?」
匠くんは不思議そうな顔であたしに呼びかけた。
いつの間にか少し涙ぐんでいた。
まだあたしと匠くんは深く繋がったままだった。強く結ばれてるっていう実感があった。
「嬉しいの。すごく幸せで、すごく嬉しいの」
うっとりと答えた。
匠くんもあたしの言葉に本当に嬉しそうな、幸せいっぱいの笑顔を見せてくれた。
「うん。僕もだよ」
匠くんは温かい声で言って、あたしを胸に抱き寄せた。ぴったりと身体を寄せ合うと匠くんの温もりがあたしを包み込んだ。その温もりはあたしの中に染み渡っていった。とても温かい気持ちになる。
とても満ち足りた心で、あちこちに情欲の余韻が残っていて気だるさを感じる身体で、匠くんにくるまりながらこのまま少し休んでいたかった。
匠くんの胸に頬を摺り寄せると、匠くんの匂いに包まれながら目を閉じた。
匠くんもしっかりとあたしを抱きかかえるようにして、顔をあたしの髪に寄せて動かなくなった。
匠くんに守られるように抱き締められて安心し切った気持ちになりながら、安らいだ眠りに落ちていった。

目が覚めると部屋の中は薄暗かった。何時頃なんだろう?ぼんやり思いながら耳を澄ませたら、窓の向こうではまだ雨が降り続いているみたいだった。そう思ってももう気にはならなかった。
匠くんもぐっすりと眠ってしまっていた。無防備な寝顔を見ると、可愛くて微笑ましくて顔が綻んできちゃう。
下腹部に視線を移したら、匠くんのは普段の大きさに縮んですっかりスキンに隠れてしまいながら、辛うじて膣口にひっかかるように潜り込んでいた。まだあたし達は繋がったままでいられた。
どうしてこんなにも激しい感情が湧き起こってくるんだろう?自分が不思議で、驚いてさえいた。
一度(ひとたび)匠くんと肌を触れ合わせてしまうと、激しい情欲に捉われてもうどうしようもなく快楽に支配されてしまう。ただただ匠くんとの淫楽に溺れてしまいたくなる。匠くんと繋がり合ったまま、身も心も果てしなく肉欲を貪っていたくなる。
たまらなく匠くんをあたしだけのものにしたくなる。匠くんを支配したくなる。匠くんを虜にしたくて、あたしの欲望の虜囚にしたくてたまらなくなる。身も竦むような激烈な欲望。それがあたしの中に間違いなくあるのを、今のあたしは知ってる。
それでも、凄まじいまでの淫欲と同時に、それに負けない強さであたしの中には、匠くんへの愛おしさが絶えず眩(まばゆ)く輝いているのを知ってる。その思 いはあたしの心をお日様の陽射しのように明るく照らしてくれる。色とりどりにきらきらと眩しく煌(きら)めいては、あたしを真新しく目覚めさせてくれる。 あたしの心に降り注いでは、優しく柔らかく潤し温めてくれる。
まるで天使と悪魔のようにあたしの中でたゆたっては、激しく揺らいであたしを翻弄し続ける。天使と悪魔?ううん、そうじゃない。それは多分、同じ一つのものの双貌(ヤヌス)なんだ。決して分かつことの出来ない一枚の表と裏なんだ。
匠くんを愛するまで知らなかった、とても苦しくて切なくて歯痒くてもどかしくてあさましくて醜くて昏くて、それなのにとても優しくて温かくて柔らかくて穏 やかで心地よくて愛しくて眩しくて、そんな相反する激しい想い。それを知ってあたしは損なわれてしまったんだろうか?匠くんを愛する以前の静謐な世界から は決定的に追放されてしまって、二度とそこには戻ることはできなくて。禁断の果実を口にして楽園を追われたアダムとイブのように?それは悲しむべきこと?
不安になって、匠くんに問いかけるようにその寝顔を見つめた。不安はたちまち掻き消えてしまうのを感じた。手を伸ばせばすぐ触れられる、こんなにも近くの確かな存在が容易く気付かせてくれる。
余剰もなく欠如もない円環に閉ざされた満たされた楽園。
そこは確かに、ある完全さで満たされた楽園なのかも知れない。傷つくこともなく、争うこともなく、憎むこともない、平穏で満たされた楽園。けれど、欠ける ものがない代わりに溢れるものも何もない均質さに支配された楽園。全てが予め用意され設えられたとおりの調和と静謐と平穏に律されたエデン。心を突き動か す激しい情動も、胸を揺さぶる焼けつくような熱情もそこにはなくて。
匠くんと一緒にいると、匠くんの優しい声を聞く度、匠くんの温かい笑顔を見る度、それだけでもうたまらなく幸せな気持ちになる。こんな幸せな気持ちをあたしは知らなかった。
何だかたまらなく匠くんに触れたくなって、寝ている匠くんの鼻筋をなぞり、唇に触れ、頬を撫でた。
大好きだよ。匠くんといるともう不安なんて百億光年の彼方に吹き飛ばしちゃうくらい恐いものなしの、ものすごく幸せな気持ちになれるんだよ。心の中で匠くんに語りかけた。
その声がまるで聞こえたみたいに。
匠くんがぱちりと瞼を開いた。まるで今迄寝たふりしてたんじゃないの?って思うくらいに、きっぱりとした目の開け方だった。それから、やけにしっかりした眼差しであたしを見つめた。
何だか唖然として、目を丸くして匠くんを見返した。
「萌奈美?」
あたしのきょとんとした様子を不思議に思ったのか、匠くんがあたしの名を呼んだ。
うん、って頷いた。
「匠くん起きてたの?」
思わず聞いてみた。
匠くんは「いや」って首を振った。
あたしの髪を優しく梳きながら、あたしの額に額を寄せた。こつん、って二人のおでこが触れ合った。
それだけで匠くんの温かい思いが、あたしに伝わってくるようだった。じんわりと心に沁みてきて、そっと目を閉じた。
「萌奈美がいてくれる」
匠くんは内緒話をするように囁いた。触れるような近さにある匠くんの唇から息遣いが伝わってくる。
待っていても匠くんの口からは次の言葉は伝えられなかった。
でも多分、なんとなく分かった。それだけで十分な気がした。
「いるよ」揺るがない気持ちで言った。「ずっと、いつまでも、いつだって、ずっといるから」
無言で匠くんは頷いた。匠くんからの限りない感謝の気持ちが、触れ合ったおでこから伝わってくる。嬉しくて匠くんに頬を寄せて擦りつけた。
あたしだってそうだから。匠くんがいてくれる、それだけであたしの世界はきらきらと輝き出して、無限の広がりを見せてくれる。生まれ変わった新しい朝が やって来る。どうしようもなく不完全で、限りなく不条理なこの世界でも、好きだって言う勇気をあたしは失わないでいられる。
楽園から遠く隔てられたこの世界で、あたしは匠くんと繋いだ手を離さないようにして明日へ歩いていくんだ。
匠くんとじゃれ合うみたいに二人で顔を擦りつけながら、そんな風に思った。

静かな部屋に携帯のコール音が鳴り響いた。あたしの携帯だった。
誰だろうって思いながら携帯を開く。画面を見たら麻耶さんからのメールだった。電話して欲しいって知らせていた。
一体なんだろう?メールを見て思った。
「どうしたの?」
匠くんに聞かれて、画面を見せながら「麻耶さんから電話して欲しいっていうメール」って伝えた。
「ふうん」匠くんも首を傾げた。
少し不思議に思いながら麻耶さんの携帯へ電話をかけた。何回かのコールで麻耶さんの声が「もしもし?」って応答した。
「あ、麻耶さん、メール見たよ」
あたしが話すと、麻耶さんは少し申し訳無さそうなニュアンスを忍ばせながら、笑って訊いて来た。
「ごめんね、わざわざ。あのさ、FLOでケーキ買って帰ろうと思うんだけど何がいい?」
なんだ。拍子抜けしたように思いながら、匠くんに「麻耶さんがFLOでケーキ買うけど何がいい、って」って伝言した。
匠くんは少し思案顔をして答えた。
「じゃあ、マンゴーのタルト」
頷き返して麻耶さんに「匠くんがマンゴーのタルトで、あたしはシフォンケーキをお願いします」って伝えた。
「OK」
そう麻耶さんは告げて電話を切った。
携帯を畳みながら、何となく釈然としない感じが残った。何でだろう?
でもそれを深く追求する暇もなく、はっとした。もうじき麻耶さんが帰って来ちゃう!
「匠くん、もうすぐ麻耶さん帰って来ちゃうよ!」
慌てる声で匠くんに訴えた。なにしろあたし達はさんざんエッチしまくっていて、二人とも全裸のままだった。こんなところ絶対見せられないよ。
匠くんもやっと気が付いたみたいで、がばっとベッドから跳ね起きた。
考えてみたらあたしと匠くんはすっかり行為にのめりこんでしまって、午後の何時間もの間エッチをしていたのだった。自分のことながら呆れる思いだった。匠くんとのエッチへの欲望は尽きることがなかった。
時々、ふと思ったりする。本当に飽きるまで匠くんと抱き合ってみたい。何時間でも何日でも。食べることも忘れて寝ることも惜しんで、ずっとベッドの上で二 人で裸で抱き合って、じゃれ合って、触れ合って、感じてきたら繋がって、果てて、また二人でいちゃいちゃして、高まってきたらまた挿入して、達して、思う 存分味わって、お腹が空いたらそこら辺にあるものを食べて、疲れたら眠って、また目が覚めたらエッチして、お互いの隅々まで確認し合って、色んな体位で繋 がり合って、思いつく限りのいやらしい事をして。もう満腹です、食べられません、ごめんなさいって思えるくらいまで突き詰めてみたいって、ぞくぞくしなが ら想像してみたりする。自分がこんなにエッチだなんて思ってもみなかったって驚きを覚えながら。
薄暗い部屋の灯りをつけ、二人して慌てふためいてそこら辺に脱ぎ散らかしてある下着やら服やらを着込んだ。乱れてぐしゃぐしゃの髪をブラシで梳かしたり、部屋には事後の独特の匂いが何となく籠もっているようで、慌てて窓を開けて空気を入れ替えたりした。
晩御飯の支度もまだ全然してなかった。何て言い訳しようか思いっきり悩んだ。
頭の片隅では、もうちょっと余韻に浸りたかったのに、って残念に思ったりした。

とりあえず何とか痕跡を消せてほっとしているところへ、「ただいまー」って告げる陽気な声と共に麻耶さんが帰って来た。間一髪、危ないところだった。
「お帰りなさい」
何となく声が上ずってしまうのを自分で感じながら、どうか気がつきませんようにって祈った。
すっかりうたた寝してしまったことにして、まだ晩御飯の支度ができていないことを謝ったら、麻耶さんは少しも訝しんだりせず「いいよ、いいよ」って笑って答えた。あたしと匠くんは、心の中でほっと一安心した。
だけど、後で事の真相を知って、これ以上ないほど激しく恥ずかしい思いをすることになった。
三人で遅い夕食を終え、匠くんと並んで洗い物をして(今や食べた後の後片付けは、あたしと匠くんが二人並んで仲良くするのがキマリになっていた。あたしが 食器を洗って濯ぎ、匠くんが洗い終えた食器を拭く役回りがすっかり出来上がっていた。他愛ないことを喋りながらだったり、二人して鼻歌を歌いながらだった り。最初の頃、麻耶さんは特に匠くんのそんな様子を、世にも奇妙な光景を目撃したかのような目つきで見ていたものだったけど、それもすっかり見慣れたもの になって、どうぞお好きなようにっていう感じで、缶ビール片手にソファに寝転がってテレビを見るようになっていた。)食後少し経ってから麻耶さんが買って 来てくれたケーキを食べようと、あたしが冷蔵庫からケーキの箱を取り出し、取り皿とフォークを用意していたら、紅茶を用意しに来てくれた麻耶さんがあたし にこそっと耳打ちしたのだ。
「これからはさあ、早く帰って来て欲しくないときはメールちょうだいね」
一瞬何のことかって目を丸くした。すると麻耶さんは溜息まじりに喋り始めた。
「まさかさあ、帰って来てやけに部屋が薄暗いし静かだなあって思ったら、ベッドの上で二人で裸で抱き合って眠ってるんだもんね。困っちゃったわよ」
麻耶さんでも流石に恥ずかしいのか、視線を逸らして頭をがしがし掻きながら言った。
でも本当に恥ずかしいのは言われたこっちの方だった。やっと真相を理解した途端、本当に顔から火が出るんじゃないかって思うくらいに顔が火照って、全身ま で真っ赤に染まってしまった。恥ずかしさの余り眩暈がした。立ったまま一瞬気絶してたかもって思うくらい、意識が遠くなりかけた。まさかエッチして疲れて 寝てる姿を見られたなんて!思わず、麻耶さんの口を封じなきゃ!って結構本気で、一瞬だけだけど思ったりした。
それで麻耶さんはわざわざもう一度部屋を出て、帰っても大丈夫か探りのメールを送って来たんだった。何となく釈然としない理由がやっと解けた。でも、できることならそのまま解けないでいた方が良かった、今更後悔交じりにそう思った。
その後、まさか匠くんに話すことも出来なくて匠くんの不審げな視線を感じつつ、動揺しまくりながらシフォンケーキを紅茶で喉の奥へと流し込んだ。匠くんと味見しあうのもすっかり忘れてしまってた。

お風呂から上がってもまだショックから立ち直れずにしょげているあたしに、匠くんが言った。
「明日持って行くものは?もう出してあるの?」
匠くんに言われて思い出した。すっかり忘れきってた。夜になってすっかり雨も止んでいた。
「そうだ!」叫んで慌てて立ち上がった。何てこと、ディズニーに行く準備を怠るなんて!ディズニーランドに行く前日に何でこんなバタバタしなきゃなんないの?殆ど八つ当たり気味に思ったりした。
大きめのショルダーバッグをクローゼットの奥の方から引っ張り出した。ウォータープログラム対策でタオル、濡れてもいいサンダル、バッグが濡れないように 被せる大きなビニール袋、暑さ対策の団扇、レジャーシートっていったものを詰め込んだ。今月の『ディズニーFAN』もしっかり持って。
匠くんもデジタルカメラとデジタルビデオのバッテリーを充電している。
支度をしていたら、やっとワクワクする気持ちが募って来た。
朝になってから迷わないように明日着ていく服を用意しておくことにした。部屋のドアを開け放したまま、どれを着て行こうかってクローゼットから服を引っ張 り出してあれこれと思案していたら、通りかがった麻耶さんが覗き込んで「楽しそうねえ」って笑顔であたしの様子を評した。
さっきのことがあって、麻耶さんと顔を合わせるのは恥ずかしくて仕方なくて、出来れば逃げ回っていたい気持ちではあったけれど、ディズニーランドへ行く高揚感が相殺してくれて、弾む声で「だって明日はディズニーランドに行くんだもん」って答えた。
「それ可愛いね」
言いながら麻耶さんは部屋へと入って来た。クローゼットから出して並べてある服をあちらこちらと持ち上げて見較べたりしている。モデルをしているだけあって麻耶さんのファッションセンスは抜群だったので、あたしは麻耶さんにコーディネートをお願いした。
麻耶さんは上下の組み合わせを思案しつつ喋り始めた。
「でもさ・・・」
唐突な感じに「は?」って聞き返した。
「ん?だから、裸で抱き合って寝てる二人を見た時はすごくびっくりしたし、うわーどうしようって感じになっちゃったんだけど・・・ねえ、親しい人のそんな場面に出くわしたら、何とも気まずいことこの上ないじゃない?」
麻耶さんの話に、うわー、またですか?って顔を赤らめた。もうこの話題は許してもらいたかった。
でも麻耶さんが言いたかったのはそういうことじゃなかったらしい。
「でもね、ちょっと悪戯心で二人の顔覗き込んだみたら、もう二人ともなんて言うの?この上なく幸せそうな顔して寝てるのよねえ。仲良く寄り添って」
麻耶さんは少し照れて気恥ずかしそうにしながら、だけど優しい笑顔を浮かべて話を続けた。
「何かまるでアダムとイブみたいな感じ、って言ったら伝わるかなあ?見てるだけでこっちまで温かくて幸せな気分になっちゃいそうな、そんな素敵な寝顔だったよ。ちょっと羨ましかったし、すごく微笑ましかった」
麻耶さんの話を聞いて、偶然とは思えないような符合に内心驚いていた。楽園、エデン、アダムとイブ。あたしと匠くんが共鳴し合って、二人から漏れ出したイメージが麻耶さんにも伝わったみたいに。シンクロニシティ、とか?
そして、麻耶さんが本当に優しい眼差しであたしのことを見ながらそう話すのを、すごく嬉しく思った。
ちょっと違うかな?って思いつつも、あたしは「ありがとう」って言った。
「まだ支度終わらない?」
声に振り向いたら匠くんがドアから顔を覗かせていた。明日は朝が早いから早めに寝ようって匠くんと決めていたんだった。
「あ、うん。もう、すぐ終わるから。今、明日着てく服決めとこうと思って」
あたしが言うと、匠くんは「うん。そろそろ寝ないと」って言った。
聞き分けよく「はーい」って返事したら、匠くんは「先ベッド入ってる」って告げて行ってしまった。
「いいなあ。楽しそうだなあ」
麻耶さんが羨ましそうに漏らしたので、麻耶さんの方を振り返った。
「そーいえば、最近行ってないなあ」
「じゃあ、今度は一緒に行こうよ」
そう言ったら、麻耶さんは少し眉を顰(ひそ)めた。
「萌奈美ちゃんと匠くんと三人で?・・・それって何か絶対淋しいことになりそうな気がする。萌奈美ちゃんと匠くんとでいちゃいちゃしてて、あたしはお邪魔虫になるに決まってる」
「そんなことないよ」
いじけたように言う麻耶さんに笑いながらそう答えたけど、でも自分でももしかしてそうかも、って心の片隅でちらっと思ってしまった。

既に灯りを消した暗い寝室で、匠くんが寝ているベッドに潜り込んだ。すぐに匠くんに身を寄せて匠くんのパジャマに顔を擦り付ける。匠くんに抱きつくと顔を 擦り付けるのがすっかり癖になっていた。一度匠くんが呆れたように、ひょっとして前世は犬だった?って聞いたことがあった。なるほど。犬って確かに嬉しく て顔をごしごし擦り付けるもんね。もしかしたらそうだったかも、ってその時思ったものだった。
匠くんに身を摺り寄せたら、匠くんもあたしを両手でぎゅっと抱き締めてくれる。匠くんの体温が心地よくてうっとりと目を閉じた。
「明日の準備はOK?」
匠くんが囁いた。
「うん。バッチリ」
あたしも声を潜めて答えた。匠くんはそう、って頷いた。
暗い部屋の中でベッドで身を寄せ合ってこんな風に内緒話みたいに声を潜めて囁き合っていると、二人の周りの空気が濃密なものに変わるような気がいつもす る。ほんの数時間前ここであんなに激しく淫らに求め合っていたんだって思い出した途端、身体の奥底が鈍く甘く疼くのを感じた。その気持ちを紛らわすように 誤魔化すように、匠くんに強く身体を摺り寄せて匠くんの匂いに包まれた。


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