【 FR(L)AG-ILE-MENT 】 ≪ Disney Sea 第2話 ≫


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あたし達はその後、ケープコッドに向かってダッ フィーと一緒に写真を撮り(匠くんが「ダッフィーって何?」って言うので、また訳知り顔でひとしきり説明してあげた)、ドナルドのボートビルダーを見なが ら朝食にハンバーガーを食べた。(あたしとしてはアメリカンウォーターフロントにある「ニューヨーク・デリ」のサンドイッチも捨て難くて大分悩んだんだけ ど。)ミッキー達のショーを間近に見ながら飲食ができるっていうシチュエーションに匠くんはびっくりしていた。あたしも初めてここに来たときは同じように びっくりしたし感動した。なにしろ、休憩時間を挟んで舞台が繰り返し上演されるので、ここに来ればミッキー、ドナルド、グーフィーに必ず会えるんだもん。
朝食を済ませるとポートディスカバリーに移動してアクアトピアに乗った。くるくる回りながら予想もつかない動きで水上を進むアトラクションに匠くんは「す ごい」ってしきりに感心していた。あたしはこれがお気に入りで、匠くんも気に入ってくれてとても嬉しかった。7月から8月にかけては夏のウォータープログ ラムがスタートして、びしょぬれコースができるんだよって話したら、匠くんはじゃあ是非来ようって乗り気で話していた。
アクアトピアのすぐ近くにあるストームライダーは長い列が出来ていて、スタンバイだと70分待ちだった。もう次のファストパスが取れる時間になっていたので、これもファストパスで乗ることにした。
続いてミステリアスアイランドに行き、海底2万マイルに乗った。スタンバイで25分待ちと短かったので列に並んで順番を待った。あたし達の順番が来て、小 型潜水艇の形をしたビークルに乗り込むと、間もなく潜水開始を告げるアナウンスと共に船窓が水に覆われ、細かな気泡が窓の外を上(のぼ)っていった。本当 に水中に潜っている訳ではなくて、窓が二重ガラスになっていて、そのガラスとガラスの間の部分に水が流れ込んで来て、水位が上昇して気泡がぼこぼこって泡 立つことで潜水艇がまるで本当に潜水しているかのように見せているんだった。この仕掛けにも匠くんは「よく出来てるなあ」って心底驚いていた。思いがけず 興奮した様子で目を輝かせてあっちこっちに視線を巡らせている匠くんを見て、9歳も年上の相手に対して、何だか“男の子”っていう感じがして微笑ましく 思ってしまった。

そろそろ朝イチでファストパスを取ったタワー・オブ・テラーの時間が近づいていたので、アメリカンウォーターフロントに一旦戻ることにした。
途中、匠くんにアトラクションの内容を説明したら、意外とわくわくしている感じだった。匠くんはジェットコースターとかのスリル系の乗り物は大丈夫みた い。パパはこのテのがからっきし駄目だし、男の人でも結構こういう乗り物が苦手っていう人がいるみたいだけど、匠くんは平気なようだった。
それはあたしにとっても朗報だった。だって二人でジェットコースターとか乗れなかったら詰まらないもん。って言うのも、あたしは匠くんにも意外そうな顔を されたけど、スリル系の乗り物が大得意だった。友達にもよく「見えない」って評されるけど、ジェットコースターとか大好きなのだ。このタワー・オブ・テ ラーは落ちるとき、フリーフォール状態になって胃とかがふっと浮くようなあの感覚がたまらなかった。そう話したら匠くんに「うーん、意外な一面」って神妙 な顔をされてしまった。そうかな?自分だとよく分からないんだけど。
ファストパス専用の入口から入り、スタンバイなら何十分も待たなければならないところをするすると通過し、控え室みたいなところまであっという間に辿り着いた。
ここで、あたし達ゲスト(ディズニーではお客さんのことを「ゲスト」って呼ぶのだ)一行は観光スポットとなっている朽ち果てたホテルを巡る観光客っていう 役回りを与えられていることを、そのガイド役に扮したキャストの人から説明され、今や廃墟と化したこのホテルのオーナーが、かつて財力にものを言わせて世 界中の貴重な宝物を略奪して来た人物で、そのひとつシリキ・ウトゥンドウっていう神様の像を強引に持ち帰って来たことから呪いを受けてしまうことになった 事情を知らされる。そして観光気分でホテルを訪れたあたし達ゲストもまた、今この呪いに巻き込まれてしまうっていう筋書きなのだ。
自分の番が近づいてくるにつれ、期待で胸がどきどきして来た。繋いでいる匠くんの手を握り締めて「うー、どきどきしてきた」って漏らしたら、匠くんに苦笑された。
「怖いの?」って匠くんが聞くから、口を尖らせて「違うよ、武者奮いだよ」って抗議したら余計笑われてしまった。
いよいよ順番がやって来て、あたしと匠くんは長椅子が何列か並んだ形状の座席に隣り合って座り、腰のシートベルトを締めた。キャストの人の注意が告げられたあと扉が閉められてアトラクションがスタートした。
あたし達の前方に今や行方不明になっている呪われたホテルのオーナーが現れ、このままだと自分と同じ運命を辿ることになるっていう不吉な予言を残して姿を消した。
するとシリキ・ウトゥンドウの像が現れて、光り輝いて不気味な笑い声を上げたかと思うと、突然暗かった前方が開けてメディテレーニアンハーバーを一望する光景が飛び込んで来て目を奪われる。
その眺望に目を瞠ったのも束の間、次の瞬間床が抜けたようにあたし達の座るシートが急激なスピードで落下した。
ものすごい高さから落下する恐怖に全身が硬直し、鳥肌がたつ。周囲の席から悲鳴が上がる。
髪が逆立つ感覚を味わいながら自由落下状態が数秒続いた。
制動がかかって落下が停まったと思う間もなく、エレベーターが上がってゆくように急速な上昇を始める。数秒の上昇の後、再び落下が始まる。
みぞおちの辺りが浮くような感覚になんとも言えないスリルを味わいながら、それでもやっぱり高所からの落下っていう現実に身体が本能的に感じる恐怖で、匠くんの手を強く握り締めていた。
幾度もの上昇と落下を繰り返していた座席がやっと停止して、シートベルトを外したお客さん達がぞろぞろと出口に向かう列に混じって、あたしと匠くんも出口 へと歩いた。あのなんとも言えない浮遊感がまだ身体に残っていて、歩く足取りも何だかやけにふわふわしているみたいに感じられた。
隣で匠くんがちょっと興奮した感じで笑いながら「面白かった」って感想を言ったので、あたしも「でしょ?」と得意満面に答えた。そして、これが楽しめたな ら是非センター・オブ・ジ・アースとレイジングスピリッツにも乗らなきゃ、ってアドバイスした。因みにインディ・ジョーンズ・アドベンチャーも人気あるけ ど、あたし的にはあまりスリルを感じられないのでいまひとつの評価だった。

その後、あたしはこれもお気に入りのビッグバンドビートに匠くんを連れて行った。タイミングよくあと20分ほどで始まるところだった。これをお目当てにし ている人も結構いて、開始20分前だとかなりの行列が出来ていたので、後ろの方の席にしか座れそうもなかったけど、仕方ないかなって思いながら列の最後尾 に並んだ。
何て言ったってあのミッキーのドラム演奏は一見の価値あるものだってあたしは思っていて、是非とも匠くんに見せてあげたかった。
「結構本格的なジャズのショーなんだよ。外国人の歌手とダンサーが出演していて。それとね、何て言っても後半ミッキーのドラム演奏からタップダンスに入るクライマックスが凄いんだから」
列に並びながら匠くんに熱弁を振るった。
匠くんはそんなあたしにしきりに感心していた。
「本当にディズニー好きなんだね。今日もしっかりポイントを押さえて回ってるって感じがして、萌奈美ちゃんの案内のおかげだよ」
「そう?」
「うん。ディズニーって今迄ランドに一回しか来たことなかったけど、すごく面白いし楽しいんだね」
「よかった、楽しんでもらえて」
匠くんの言葉が嬉しくてたまらなかった。

ビッグバンドビートは思ったとおり匠くんにも好評だった。
「萌奈美ちゃんの言ったとおり凄く面白かったよ。本当、あのミッキーのドラム演奏とタップダンスは凄いよね」
「うん、流石、ミッキー。何だって出来ちゃうんだから。もう最高のエンターテイナーだよね」
あたしもショーの余韻で興奮気味に答えた。
匠くんが歩きながらペットボトルを飲んだので、あたしも喉が渇いてたことを思い出した。
「あたしも」って言ったら、匠くんは自分が飲んだペットボトルをあたしに手渡してくれた。朝にはあれだけ慌ててた匠くんもすっかり慣れたもので、そう言う あたしも朝の内は匠くんには平然とした姿を見せてたけど、本当のところはどきどきしまくりだったのに、今は当たり前のようにごく自然に振る舞えていた。

次にあたし達はアラビアンコーストに向かった。その途中で、ミステリアスアイランドにあるヴォルケイニア・レストランっていう中華料理のお店でちょっと遅めのお昼ご飯を食べた。
食後、あたしはテーブルにパークのガイドマップとショーの上演時間が載っているガイドブックを並べて広げて、眉間に皺を寄せてにらめっこしていた。そして 諦めて溜め息をついた。とても今日一日で全部のアトラクションを制覇するのは無理そうだった。マーメイドラグーンシアターのミュージカルショー「アン ダー・ザ・シー」も絶対面白いし、ロストリバーデルタのハンガーステージで上演される「ミスティックリズム」も幻想的なステージで捨て難い。「レジェン ド・オブ・ミシカ」も今日は観られなかったし。
あたしがそう言って残念そうな顔をしたら、匠くんは「また来ればいいんだから」って慰めてくれた。
「ほんとに?一緒にまた今度来てくれる?」
思わずあたしは念を押すように確認した。
匠くんは「いつでもいいよ。今度の土曜だっていいよ。来る?」って本当に今度の土曜も来る気満々って様子で答えた。
いくら何でも二週続けてディズニーリゾートに来るなんて匠くんにすごい出費させちゃうことになるので、それは遠慮した方がいいと思って、はっきりとは答えずにいた。
アラビアンコーストはディズニーのアニメ映画『アラジン』の世界を作り出していて、ここも目を瞠(みは)るような素晴らしい光景が広がっていた。匠くんも美しいモスクを模した建物に感嘆の声を漏らしていた。
「シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ」は大抵空いていて、ほとんど待ち時間無しで観ることのできるアトラクションのひとつだった。
少し前に一度改装されていて、登場する巨人やセイレーン、怪鳥が改装前は恐いイメージのキャラクターで、シンドバッドが前人未踏の秘境を冒険するっていう ストーリーだったのに、改装後は悪者としての盗賊が登場する一方、巨人や怪鳥はみんな優しいキャラクターになってしまい、妙に勧善懲悪のはっきりした分か りやすいストーリーになってしまって、あたしとしては改装前のコンセプトの方が好きだったので少し残念に思っていた。匠くんにそう説明したら、「なるほど ね」って納得した様子だった。
それから「キャラバンカルーセル」に乗った。二階建てのメリーゴーランドで、グリフォンとかアラビアンナイトに登場する怪獣の木馬に混じって『アラジン』に出てくるランプの精ジーニーの木馬もあって乗ることができる。
匠くんはメリーゴーランドに乗るのがちょっと恥ずかしいみたいだった。ディズニーではいい年した大人の人でもみんな楽しそうに乗ってるんだから全然恥ずかしくなんかないよ、ってあたしは教えてあげた。でも効果は余りなかったみたいだけど。
「マジックランプシアター」に行くとスタンバイで40分待ちだった。これ位だったら短い方かなって思ってスタンバイの列に並ぶことにして、匠くんにアトラ クションについて説明してあげた。『アラジン』のランプの精ジーニーが登場して、ステージ上の生身の役者さんと映像のジーニーが競演するお芝居型のアトラ クションで、入り口でもらう眼鏡をかけると映像の様々な物が3Dで飛び出して見えるというものだ。ランドの「ミクロキッズアドベンチャー」と同じ技術だけ ど、こちらは舞台上の役者さんと、アニメ映像のジーニーが共演するっていうところがミソになっている。3Dでは「ミクロキッズアドベンチャー」の方がよく できてると思うけど、「マジックランプシアター」の方はとにかく舞台上の役者さんのお芝居がコミカルでついつい笑ってしまう。あたしの隣で匠くんも楽しそ うに笑っていた。

ファストパスの時刻になり、あたし達は「ストームライダー」に乗るためポートディスカバリーを訪れた。
「ストームライダー」はスクリーンに映し出される映像に合わせて、ゲストが座った座席が揺れたり動いたりするバーチャル型アトラクションだ。ストーリーは 探査用の飛行機に乗りこみ嵐の真っ只中に飛び込んでいくっていうもので、映像に合わせて座席が激しく揺れ動いたり、雨に降られてるみたいに水滴が飛んでき たりしてなかなかスリリングなのだ。
乗り終えて匠くんは、ディズニーのアトラクションは本当に人を飽きさせないようによく練られて作られてるなあって、アトラクションのひとつひとつにしきりに感嘆していた。
匠くんが分析するように話すのを、あたしはもっと素直にアトラクションを楽しめばいいんじゃないかなあって首を傾げて聞いていた。

◆◆◆

匠くんと一緒だと、いつだって時間が経つのをとても早く感じるけど、殊に今日はあっという間に一日が過ぎていくように感じられた。
照りつけるような眩しい陽射しは影を潜め、傾きかけた太陽が長い影を路上に落としている。
夢と魔法の世界はオレンジ色に染め上げられ、メディテレーニアンハーバーはきらきらと黄金の波頭を散らしていた。
午後5時を過ぎて、少し早かったけどメディテレーニアンハーバーに戻ることにした。ナイトスペクタクルショー「ブラヴィッシーモ」を絶好の場所で匠くんに見せてあげたいって思ったから。
「ブラヴィッシーモ」は何度観ても感動しないではいられない程、幻想的で美しくてマジカルなショーだった。あたし達はメディテレーニアンハーバーのミラコ スタ側、カフェ・ポルトフィーノの前の湾を望む塀に腰掛けた。ここからだと柵で視界が遮られることがないし、座ってても前に背の高い人がいたりして人の頭 で見えなかったりってことが絶対ないので、リドアイルとかから見るよりもこっちの方がベスト・ビュー・ポイントだってあたしは密かに思っていた。それだけ に結構早くに埋まってしまうので、大分待ち時間で費やしてしまうのは勿体なかったけれど、早めに場所を確保して待つことにした。
夕陽に照らされて黄金色に水面を輝かせたメディテレーニアンハーバーは茫然としてしまう位に美しかった。そして一日が終わってしまうもの哀しさを帯びていた。とても感傷的な光景に映ってあたしは急に寂しくて哀しい気持ちに襲われた。
頼りない気持ちで、隣にいる匠くんの肩に頭をもたせかけた。
匠くんはちらりとあたしの方を向いたけど、何も言わないであたしの頭をそっと抱き寄せてくれた。匠くんの手は温かくて、寂しさに沈んだあたしの気持ちを柔らかい温もりで包んでくれた。

ブラヴィッシーモが始まるまで、あたし達はメディテレーニアンハーバーを望んで二時間余りを過ごした。その間、交代でエンポーリオにお土産の下見に行った り、マンマ・ビスコッティーズ・ベーカリーでサンドイッチを買ってきて食べたり、寄り添って腰掛けながら星が瞬き始めた夜空と同じ色に染まっていくメディ テレーニアンハーバーを眺めて、とりとめもない話をしたりした。
匠くんに寄り添いながらその温もりを感じていると、とても穏やかで温かい幸せに包まれていられた。
午後7時を回ってブラヴィッシーモを観ようとする人達が集まり出して、メディテレーニアンハーバーの周辺は人垣で埋まってしまった。あたし達の後ろにも沢山の人が何重にも列を作っていた。
星空の下でメディテレーニアンハーバーの水面は灯された明かりを映して揺れていた。背後のホテルミラコスタの照明がきらびやかに夕闇に輝いている。
湖面を流れてくる風がひんやりと肌に冷たく感じるようになってきた。
メディテレーニアンハーバー全体がこれから始まるスペクタクルショーへの期待に包まれていた。
やがて。
ブラヴィッシーモの開演を告げるアナウンスが流れ、それまでざわついていたメディテレーニアンハーバーにしんとした静けさが訪れた。
そして静まり返った湾に法螺貝を吹き鳴らす音が響き渡り、ミッキーを乗せた船が現れた。ミッキーは観客に火の精と水の精とのマジカルで幻想的な出会いを語り始める。
燃え立つ炎と美しく流れる水が織り成す、そのドラマチックな出会いには何度観ても心を奪われた。対照的で相反しながら、でも惹かれ合う火と水。その幻想的 で神話的な光景を息を詰めて見つめ続けた。燃え上がる炎に照らされた匠くんの横顔をそっと見上げたら、目の前で繰り広げられている火と水の邂逅の物語を食 い入るような眼差しで見つめていた。
火と水の出会いは、やがて幾つもの花火が打ち上げられて眩(まばゆ)い祝祭の内に幕を閉じた。終わった瞬間どよめくように拍手が鳴り響いた。あたしも匠くんも心からの拍手を贈った。
「いやあ、凄かった。なんか圧倒された」
匠くんがはあーっと大きく息を吐きながら言った。
「萌奈美ちゃんがイチ押しするだけのことあったね」
「本当?」
匠くんが満足そうな笑顔をしているので、すごく嬉しくなった。
そして周りの人達が動き始め、あたし達もその場から立ち上がった。

閉園まであと一時間余り。さて、どうしようかって考えた末に、「センター・オブ・ジ・アース」に乗ることにした。
プロメテウス火山の内部の洞窟を巡るジェットコースタータイプのアトラクションで、ディズニーシーを代表するアトラクションのひとつだ。入り口に到着したら60分待ちって表示されていた。言うまでもなくファストパスは終了してしまっているので、60分を並んで待った。
地底探査艇を模したビークルに乗り込むと、始めは地底世界の美しくも奇怪な光景が次々と眼前に現れた。やがて探査艇は急勾配を猛スピードで下り、一瞬洞窟 が切れてプロメテウス火山の中腹から夜のメディテレーニアンハーバーの眺望が視界に広がった。けれども猛スピードで落下するほんの一瞬の出来事で、とても 夜景の美しさに見とれている暇なんてなかった。落下の間、乗り合わせた他の女性達と一緒に悲鳴を上げながら匠くんにひしとしがみついていた。
「センター・オブ・ジ・アース」を乗り終えた時には、閉演時間が間近に迫っていた。あたし達は大勢の人と一緒に、メディテレーニアンハーバーへと向かって 流れて行った。閉演時間が近づきみんなパークエントランスやショップを目指して、メディテレーニアンハーバーへと戻りつつあった。途中、ミステリアスアイ ランドを出てすぐの高台から夜のメディテレーニアンハーバーが一望できるビューポイントで、沢山の人が記念撮影をしていてちょっとした混雑になっていた。
「すみません。シャッター押してもらえませんか?」
通り過ぎようとしていたあたし達に向かって、一組のカップルが声を掛けて来た。
「いいですよ」
匠くんは快く頷いた。そして男性からデジタルカメラを受け取って、液晶を見ながらカップルにカメラを向けた。二人とも大学生かな?お似合いのカップルだった。
「じゃ、撮りますよ」
匠くんが声をかけると、夜の漆黒の中で紫色に奇怪に浮かぶタワー・オブ・テラーをバックに、大学生らしいカップルは肩を寄せ合ってにっこりと微笑んだ。
「はい、チーズ」って言って匠くんはシャッターを押した。フラッシュが瞬いた。
撮り終えて匠くんは「撮れてるか確認してみて」って言ってデジカメを手渡した。男性は受け取ったデジカメを操作して、モニターに今撮影した写真を表示して確認し、笑顔になった。
「あ、大丈夫です。どうもありがとうございました」
お辞儀をして離れようとする男性に向かって、隣の女性が小声で囁いていた。
男性は彼女に頷いて匠くんに向き直った。
「あの、よかったらお二人の写真撮りましょうか?」
「え?」
少し戸惑って匠くんはあたしを見た。あたしはこっくり頷き返した。折角だしお願いすることにした。よく気がつく優しい彼女さんだなあって感心してしまった。
匠くんは自分のデジカメの電源を入れて撮影モードを確認すると、男性にカメラを渡してシャッターボタンを教えていた。
男性がカメラを構える前で、あたしと匠くんは夜のメディテレーニアンハーバーを背にして手を繋いで寄り添って立った。あたしと匠くんはこの二人みたいにお似合いに写っているだろうか。匠くんの隣に立ってふと思った。
あたし達も暗闇に不気味に浮かぶタワー・オブ・テラーをバックにすることにした。
男性から声がかかり、あたしと匠くんは笑顔を作った。フラッシュが瞬き、消えてからも網膜にハレーションのような残像を残して少しの間周囲がよく見えなかった。
匠くんは男性からデジカメを受け取ってお礼を言った。
匠くんに合わせて、あたしも「ありがとうございました」ってお辞儀をした。
カップルと別れ、あたし達はメディテレーニアンハーバーへ向けて再び歩き出した。

エンポーリオはお土産を買う人達でものすごく混雑していた。
あたしも聖玲奈やママにお土産を期待されている手前、商品棚の前に群がる人達に負けじとお土産を物色して回った。匠くんも恐らくは麻耶さんに要求されているみたいで、真剣な眼差しでお土産を見て回っている。
人いきれでくらくらしそうになりながらあちらこちらと見て回った結果、聖玲奈にはミニーちゃんのお洒落な感じの携帯ストラップ、香乃音はスティッチが好き なのでスティッチのメモ帳と6色セットの香りつきサインペン、ママにはエプロンとドナルドの携帯ストラップを選んだ。(ママはドナルドが大のお気に入り だった。なんでもドナルドの短気で落ち着きのないところが可愛いんだって。最近人気の青いエイリアンの存在に影が薄くなっている感があるけれど、ママはあ んな新参者、ドナルドの足元にも及ばない、って鼻息を荒くしていた。この点ではママと香乃音は意見が相反するところでよく言い争いになっていた。)パパに はミッキーマークの付いたタオルハンカチ、あと春音達にあげるので5個入りのメモ帳のセットを選んだ。自分にはミッキーマークのついた可愛い携帯ストラッ プとブックマークを買った。
匠くんは麻耶さんにだと思うけどミニーちゃんのちょっと大人っぽいチョーカーと、匠くんが使うにはちょっと可愛らしい携帯ストラップ(これも麻耶さんにあ げる用なのかな?)、6本入りのフリクションボールペンのセット、それからあたしとお揃いのブックマークを選んだ。(あたしがこれを見つけたとき、「あ、 それいいなあ」って言って匠くんも同じのを買うことにしたのだった。)
エンポーリオを出ると既に閉演時間の10時をちょっと回ってしまっていたけれど、まだ沢山の人達がお土産を買っているのをいいことにして、コンフェクショナリーへ行ってお菓子を買うことにした。
あたしはアソーテッドクッキーとお煎餅を買い、匠くんはお煎餅とおこし、チョコクランチを買った。お土産が入った袋を両手に持って、あたしと匠くんは目一杯ディズニーシーで遊んで、楽しんで、沢山のお土産も買って、この上無く満足だった。
 


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