【 FRAG-ILE-MENT 】 ≪ Happy Song (2) ≫


PREV / NEXT / TOP
   
漆原さんが歌い終えて小さな静寂が生まれる。
そして流れ出した少しゆっくりめの静かなイントロに、どきんって胸が躍った。
匠くんが動くよりも早く、テーブルの上に置いてあるマイクを取って匠くんに手渡す。匠くんはちょっと苦笑を浮べてそれを受け取った。
栞さんが期待に顔を輝かせて小さく拍手しているのが視界に映る。負けないくらいあたしも拍手した。
おっ、いよいよ?そんな感じで九条さん達が口元に笑みを浮べて匠くんを見ている。
何だろう?何だかルーム内の空気が期待に膨らんでる、そんな印象を感じた。匠くんの歌を聴いたことのある人がみんな、匠くんの歌うのを期待してる?
匠くんはそんな視線をやり過ごすみたいに素っ気無い顔をしている。何だかよく分からない期待に包まれているこの部屋の雰囲気に、わくわくと心が躍った。匠くんがどんな歌を歌うのか、すごく胸がドキドキした。
そして匠くんの第一声がスピーカーから聞こえた。
よく知ってる歌詞。鼻歌で歌えるくらいまるごと全部暗記してる。だけど、口ずさむことなんて出来なかった。多分匠くんの歌を初めて聴いた人全員が、今あたしが抱いてるのと同じ気持ちでいるんじゃないかって思った。
その場のみんなが匠くんの歌に聞き入ってた。
歌の上手さで言ったら、竹井さんの方が多分上手だと思う。声やブレなさ、高音部の伸びのよさ、抜け感、そういった点では竹井さんの方が優っているんじゃないかって気がした。だけど、匠くんの歌はあたしの心を掴んで離さなかった。
歌声。栞さんが「匠さんの歌声、好きだな」って思わず呟いてた、その理由がすごくよく分かった。歌声に魅了された。
桜井さんの歌声とはもちろん全然違う。なんだけど、伸ばす部分で微妙にビブラートがかかる歌い方とか、竹井さんとはまた違った高音部の伸びとか、低音部も普段の喋る声とはまた違ってて魅力的だし、そこから高音部へとオクターブが上がるトコとか、聴いててすごく心地いい。
うーっ、あたし全然音楽詳しくないし、音楽理論も声楽理論も知らないから詳しくはどこがどうすごいのかわかんないし説明も出来ないけど、でもとにかく、匠 くんの歌声、匠くんの歌ってるトコまるごと全部、もう言葉で言い表せないくらい素敵だった。匠くんの隣で聞いていて、特別エアコンが効き過ぎてる訳でもな いのに、感動でゾクゾクして鳥肌が立った。あたし以外の人に見せる普段の素っ気無い口調や無表情さとは全く違った、すごく情感の籠ったその歌声。真っ直ぐ で、切なくて、優しくて、柔らかくて、激しくて、色んな複雑な感情がない交ぜになった、そんな魅力的な歌声を匠くんは持っていた。何だかとんでもない宝物 を隠し持ってて、それを今の今まで知らされずにいた、そんな感じがした。だけどそのことに腹を立てるのも忘れるくらい、もう匠くんの歌声が素敵で魅了され てしまって、夢中で聴き入ってた。一音だって聴き漏らすまいって気持ちで、匠くんの一番近くで、匠くんに身体を寄せるようにして、ずっと匠くんの歌うのを 見つめ、聴いていた。
最後のファルセット気味に絶唱する部分を歌い終え、エンディングでボレロ調のドラムのリズムがフェードアウトして行き、ギターが締めくくるラストまで、みんな固唾を飲むように聞き入っていた。
歌い終えた匠くんはそそくさとマイクをテーブルに戻した。
ルーム内に沈黙が落ちる。みんな圧倒されてるのか、しばらく誰も何のアクションも起こせずにいるかのようだった。
ぱちぱちと拍手が鳴る。
「素敵」栞さんがうっとりとした瞳で拍手をしている。
遅れて由梨華さん、千晴さんも感激した表情で拍手を叩き始めた。
やってくれるなあ、とでも言いたげに飯高さん、竹井さん、漆原さんが笑っている。九条さんに至っては呆れ果てたって顔つきだった。
「すごーい」
「感動しました」
感動できらきらと瞳を輝かせて、由梨華さん千晴さんが匠くんに賛辞を告げる。
匠くんはだけど、照れ隠しなのかムスッとして不満げだった。
「何かいつもより気合入ってたんじゃねーの?」竹井さんが敵わないって顔で指摘した。
「萌奈美ちゃんがいるからねー」麻耶さんがさもありなんって感じで答える。
みんな匠くんの歌にやいのやいの言ってたけど、あたしは何一つ言葉に言い表せなかった。伝えたい感情はこの胸の中に収まりきれなくて、溢れ出してしまっているのに。
「萌奈美」戸惑う声で匠くんに名前を呼ばれた。心配げな眼差しがあたしの瞳を覗き込む。その匠くんの顔さえ滲んでしまってた。
こんな人前で、特に麻耶さんと九条さんの前で泣いたりして、何言われちゃうかってそう思いながらも、溢れる涙を抑えられなかった。
伝えたい思いが沢山あり過ぎて、だけどそれをどんなに言葉にしたって言い尽くせないように感じられて、匠くんに伝え切れないように思えて、無言のまま、ぎゅうって匠くんにしがみ付いた。
「流石、マイク越しの女たらし」九条さんが茶化して言う
「誰がだ!」不機嫌な声で匠くんが言い返す。
「まったく、女の子泣かすなんて男の風上にも置けないわねー」麻耶さんが憤然と言う。
「どうしてそうなる!」しがみ付くあたしを気にしながら、とんだ濡れ衣に匠くんが抗議の声を上げた。
しがみ付いたまま動かずにいるあたしに、匠くんは遂に諦めたようにそっと抱き締めてくれた。周囲の目と冷やかしを怖れて、幾分ぎこちなく、遠慮がちに。
「全く、これだから近頃の若いモンは・・・」
「人目も弁えず、恥ずかしくないのかねぇ・・・」
自分達だって変わらない年齢の癖して、そんな年寄りじみた事を言う麻耶さんと九条さんの声が聞こえてきた。絶対、匠くんとあたしをからかっての発言だっ た。匠くんにしがみついてるのをいいことに、赤らむ顔を見られる心配もなく聞こえないフリをした。だけど、多分匠くんは知らん振りを決め込む訳にもいかな いだろうな。
「やかましいわ!」
あ、やっぱり。
「やっぱりさあ、一組だけカップルってゆーのがバランスを欠いてると思うんだよね」
麻耶さんが不平を唱えた。
何を今更なんだけど。あたしと匠くんがひっついてるのなんて、いつものことだし。麻耶さんに不平を言われる筋合いないじゃん。
「不満があるんだったら帰るが?」
匠くんがボソリと告げる。別に居たくてここにいる訳じゃない。言外にそう匂わせる匠くんの声色だった。
そーだ、そーだっ!って言うか、匠くんと二人だけで別室でカラオケってゆーのもいいかも知れない。心ゆくまで匠くんの歌聴けるもんね。それで他の誰にも匠くんの歌、聴かれずに済むもんね。(匠くん一人に歌わせて、自分が歌うつもりは全くなかった。)
「その提案は却下だ」
ふてぶてしい声で九条さんが匠くんの発言を斬り捨てる。
どういう光景が繰り広げられているのか、匠くんにひっついてるあたしには見えてないんだけど、何だか匠くんと九条さんの間が緊迫してるような気配を感じた。大丈夫だろうか?ちょっと心配な気がした。
「いい加減にしなよ、大悟も麻耶ちゃんも」
その時、見かねたかのように飯高さんが二人を嗜(たしな)めてくれた。
「そうです。二人共、大人気ないんだから。からかって、萌奈美ちゃんが可哀相です」
栞さんも口添えしてくれた。敢えてなのか、匠くんには触れず、あたしのことだけ可哀相って言ってくれている。匠くんも十分可哀相だけどね。みんなからは冷 やかしとからかいを浴びせられるだろうことは分かりきってて、でもあたしのことは放っとけないだろうし。あたしがこの事態を引き起こしてる原因であること には目を瞑って、匠くんに同情したくなった。
飯高さん、栞さん、二人が注意してくれたお陰で、麻耶さん、九条さんからそれ以上の追撃を受けることはなかった。
ルーム内の雰囲気を変えようとしてくれたのか、或いは単純にただ自分が歌いたかっただけなのか、竹井さんが曲を入れて歌い始めた。ちなみに曲はゴールデン・ボンバーの「女々しくて」だった。・・・絶対、自分が歌いたかっただけだろうな。
ノリノリの曲にすぐに千晴さんが反応して、他のみんなも釣られるように、部屋全体が盛り上っていった。
賑やかな部屋の中で、少ししてやっと匠くんから身体を離して顔を上げた。みんなからの視線が恥ずかしくて「ちょっとトイレ行ってくるね」って言って部屋を逃げ出した。涙の後も拭きたかったし。
レストルームに入る前に名前を呼ばれた。匠くんが心配して追いかけて来てくれた。こんな風に後を追っかけて来たりしたら、絶対また冷やかしとからかいを受 けるの分かりきってる筈なのに。多分そう聞いたら「大したことじゃない」って、気にした風もなく匠くんは言ってくれるんだろうな。
「大丈夫?」気遣う眼差しがあたしの瞳を覗き込む。
「うん。ゴメンね、泣いたりして」もう全然大丈夫だから。そう匠くんに分かるように元気な笑顔で答える。
「いや、別に、それはいいんだけど・・・」何だか自分が泣かせたって負い目を感じてるのかな?ちょっと気まずげな様子だった。
少しイジワルしたくなった。
「匠くん、ズルい」拗ねた顔で匠くんを責める。
「えっ、な、何が?」突然非難の言葉を向けられて、匠くんはうろたえた。
「あんなに歌上手なのに隠してて」口を尖らせて上目遣いで問う。
「別に隠してた訳じゃないよ。今まで、たまたま披露する機会がなかっただけで。それに特別上手くもないと思うし・・・」
「嘘。あんなに上手なのに」匠くんは自分が歌上手だって分かってないのかな?
「いや、萌奈美がそう言ってくれるのは嬉しいんだけど・・・竹井とか麻耶の方がずっと上手いと思うけど」
麻耶さんと竹井さんが上手なの、匠くんもよく分かってるんだ。確かにね。二人共すごく上手だって思う。匠くんの言葉に頷く。
「うん。麻耶さんも竹井さんも上手だよね。麻耶さんが上手なのは予想出来てたけど、竹井さんもすっごく上手なんだね。初めて聴いて、びっくりしちゃった」
だけど、匠くんはただ上手っていうのとはちょっと違う。それはね、匠くんを好きなあたしだから特にっていうのもあるのかも知れないけど。けれどね、間違い なく匠くんの歌声は聴いてる人の心を揺さぶるんだよ。知ってた?あの部屋にいた人みんな、匠くんの歌声を聴いた人全員、絶対あの時感動で胸を震わせてた よ。
普段は素っ気無くてぶっきらぼうで無口で無表情を崩さないで。あたし以外の人にはね。それがあんなに、情感の籠った声で、切なげに、真っ直に、激しく、優 しく、歌われたら、気持ちをぎゅっと掴まれて、激しく揺さぶられて、普通にしてなんていられなくなっちゃうよ。他の誰にも聴かせたくないって思っちゃう。 こんな魅力的な匠くんの歌声。あたしにだけ、あたしのためにだけ聴かせて欲しい。そんなワガママ言いたくなる。
「すっごく感動しちゃった。ううん、感動、なんて一言で言い表せないくらい、胸の中にもう色んな感情が湧き起こって、それなのに言葉が出て来なくて何も言えなくて、溢れてくる気持ちをどうしようもなくって、ただ涙が零れて来ちゃった」
何だかまた瞳がうるっとなりそうだった。揺れる瞳で匠くんに微笑んだ。
「ありがとう」照れて少し落ち着きない様子で匠くんが言う。「萌奈美がそう言ってくれて嬉しい」
そんなはにかんだ顔見せられたら、あたしの方が嬉しくなっちゃうってば。
人が近くにいないのを確かめてから、背伸びして素早く匠くんにキスをした。とても幸せなキス。
「もっと歌って欲しいな」
そうお願いをした。
「えっ・・・うん、萌奈美が聴きたいんだったら・・・」少し後ろ向きな声で匠くんが言う。出来ればやりたくないって言いたそうな声。
「うん。どうしても聴きたい」期待を笑顔に込める。匠くんの退路を断つように、“どうしても”って所を強調する。あたしにこう言われたら、匠くんは嫌とは言えなくなってしまう。
観念した顔で匠くんは溜息を吐いた。
「じゃあ、さ」
匠くんがささやかな抵抗を見せる。「萌奈美も一曲歌ってくれたらね」
えーっ。ずるーい。交換条件提示してくるなんて。下手なのに。
だけどやっぱり匠くんにどうしても歌って欲しくて、渋々匠くんとの取引に応じることにした。

匠くんが教えてくれたところでは、匠くんの歌声は不安定っていうか、調子のいい時と悪い時でムラがあって、それに喉もあんまり丈夫じゃなくて、三、四曲も 歌ってるとあっという間に調子が悪くなって来て、高音部が擦れたり声が嗄れて来てしまったりするのだそうだ。今日の「Cross Road」は歌ってて、 自分でも調子いいなあって感じてたみたい。うん。本当、すごい感動した。
もしかしたら、そういうところが麻耶さんや九条さんが敵わないって思うところなのかも。ふと、そんなことを思った。
輝きとしては麻耶さん、九条さんの方が、ずっと長い時間に亘って明るい光を放っていられるのかも知れない。だけど、瞬間的に放つその光の強さ、眩さ、一瞬 の閃光の中に見える煌めきの美しさで、匠くんは一緒にいる人を魅了しないでは置かないんじゃないだろうか。多くの人達は麻耶さん、九条さんの一定した明る さ、強さで光り輝く様に目を惹かれ、優っているって考えがちだけど、そしてそれは確かに考え方として一つの正答でもあるんだろうけど、麻耶さんや九条さん 本人は、匠くんと自分との差っていうもの、その質の違いをよく分かってて、そんな匠くんに心の何処かで敵わないって思いながら、ずっと魅了され続けている のかも知れない。そんな風に思った。

二人して部屋に戻ったら、丁度千晴さんが歌い終わったところだった。
「あ、やっと戻って来た」悪気のない千晴さんの指摘が引き金になって、あたし達は案の定、冷やかしとからかいの言葉を浴びることになった。
「おーっ、二人して消えてて怪しー」
「何だ何だ、よろしくやって来たのか?」
もおっ。無視無視。
「二人して戻って来ねえからバックれたかと思ったぜ」
九条さんがニヤニヤした顔で言ってくる。バッグ置いたまま消えちゃう訳ないじゃん。そーゆーこと言うなら、いっそ匠くんと二人で消えちゃうつもりで、バッグ持って出てけばよかったって思った。
さっきまでの優しさ溢れる匠くんは何処へやら、部屋に戻った途端、面白くなさそうに仏頂面を浮べている。
あたし達が戻って来たのと同じタイミングで、麻耶さんがリモコンで何か曲を予約していた。麻耶さんが使い終わってテーブルに戻したリモコンを手にした。歌 手名検索でミスチルを検索し、一覧表示されたカラオケに登録されているミスチルの曲名を順番に目で辿りながら、何を匠くんに歌ってもらおうかな、なんて考 えを巡らせてた。
その時スピーカーからイントロが流れ始めた。
聞き覚えのある曲だった。って言うか、ミスチルじゃない。え、誰が歌うの?そう思って注目していたら、テーブルの上にあったマイクを手に取ったのは麻耶さんだった。
麻耶さんが歌うの?それは麻耶さんもミスチル好きだし、カラオケで女性が男性歌手の歌を歌うのだってよくあることで、何も不思議なことじゃない。
だけど次の瞬間、麻耶さんは手にしたマイクを匠くんに差し出したのだった。
「は?」
匠くんは差し出されたマイクを見つめて、訳が分からないって顔をした。
「何だよ?」
匠くんはマイクから視線を上げて麻耶さんを睨みつける。
「匠くん、歌って」
その要求がさも当然であるかのように、麻耶さんはにっこり笑った。
「何で俺が・・・」
「いーじゃん、たまには」
「何が、たまには、だ」
匠くんは断固拒否の姿勢を取るつもりらしかった。
イントロが終わっちゃう。もう、仕方ないなあ。
それは麻耶さんなりのリクエストの仕方だった。麻耶さんってば、ズルイ。何歌ってもらおうかすっごく頭悩ませてたのに、出し抜かれちゃった。
麻耶さんの手からマイクを受け取り、それを改めて匠くんに差し出す。
「はい、匠くん」
匠くんはこの展開に目を丸くしている。
「・・・萌奈美?」
理由を説明して欲しそうだった。
「あたしも聴きたいな。『つよがり』」
これで十分だった。あたしが聴きたいってお願いすれば、それが匠くんにとっての最大の理由なんだもんね。
そして匠くんは諦め顔で、それでも微かな抗議を示してか、恨みがましい視線をちらりとあたしに送って来て、仕方なさそうにマイクを受け取った。
匠くんを挟んで向こう側にいる麻耶さんと目が合った。あたしが麻耶さんからマイクを受け取って匠くんに渡したことが少し意外だったみたいで、ちょっと目を見開いてあたしを見つめてた。仕方ないじゃん。協力してあげるの、特別だからね。そんなメッセージを笑顔に込めた。
サンキュー、萌奈美ちゃん。そんな言葉が聞こえそうな笑顔が麻耶さんから返って来た。
「つよがり」が麻耶さんは特にお気に入りらしかった。ひょっとして自分自身になぞらえてたりするのかな?確かに、麻耶さんと重なるところがあるかも知れな い。歌のタイトルそのままに、「つよがり」なトコとかね。凛としてるトコだとか、いつも平気な顔して笑ってるトコだとか。そして、そんな本当の麻耶さんに 気付いてくれてて、心の中に作ってる壁のことを知っててそれを壊してくれる、そんな誰かを求めてるんだよね。その人の前ではありのままの麻耶さんを見せら れる、つよがりなんてしなくてもいい、そんな誰かをずっと待ってるんだよね。歌のように、カッコ悪く不器用に、だけど真実の愛で自分を愛してくれる誰か を。
あたしも「つよがり」は大好き。桜井さんの切なげな歌声とか、もう胸がきゅうって締め付けられそうになる。

 笑っていても僕には分かってるんだよ
 見えない壁が君のハートに立ちはだかってるのを

匠くんの歌声が部屋のスピーカーから響く。少し喉の奥で歪(ひず)ませるような歌い方をしてる。「Cross Road」の時とは又違ってて、匠くんのこういう声もいいなあって惚れ惚れしちゃった。
少し気になって様子を窺ったら、何だか麻耶さんもじっと聞き入ってる感じだった。すごく真摯な眼差しだった。

 「優しいね」なんて 買被るなって
  怒りにも似てるけど違う

ここの歌詞の気持ち、すごくよく分かる気がした。
もどかしいほど切ない気持ち。自分自身に対するもどかしさと、どうして気付いてくれないのっていう相手に対する切なさで、苛立たしくて、悲しくて、淋しくて、震えてる気持ち。
今にも溢れて弾け出しそうな想いを匠くんに伝えたくて、届けたくて、だけどなかなか出来なくて、とてももどかしくて、居ても立ってもいられなくなってた、あの頃の自分のことのように感じた。

 愛しさのつれづれで かき鳴らす六弦に
 不器用な指が絡んで震えてる

サビの部分、裏声になる部分に匠くんはちょっと苦戦してたけど、でも良かった。

 あせらなくていいさ 一歩ずつ僕の傍においで
 そしていつか僕と 真直ぐに
 向き合ってよ 抱き合ってよ
 早く 強く あるがままで つよがりも捨てて

ラスト、情感の籠った切なげな歌声で匠くんは歌い終えた。静かな余韻が部屋に漂う。
マイクをテーブルに戻す匠くんに、この余韻を壊さないように控えめに拍手を贈った。すごく良かった。ジンと来ちゃった。桜井さんは別に置いとくとして、最高に感動しちゃった。
拍手が重なる。栞さんもこの雰囲気を壊したくないのか、そっと拍手していた。
「この曲、初めて聴きました。すごくいい曲ですね」
感動してるのか、少し声が上ずってるような感じだった。
「うん。本当にすっごくいい曲です」太鼓判を押すように頷く。
「シングル曲?」
「ううん、『Q』っていうアルバムに入ってる曲です。ベストにも入ってたかな?」
「そうなんだ。今度聴いてみよう」
「うん。是非」
俄然興味が湧いて来たらしい栞さんに、自信を持ってお勧めした。
「あたし、ちょっとトイレ」
曲が終わってから今までやけに物静かだった麻耶さんが、突然ソファを立って部屋を出て行った。
慌てて席を立つような素振りの麻耶さんを見上げたら、何だか少し目が潤んでるように見えた気がした。もしかして、麻耶さんも感動してグッと来ちゃったのかな?

部屋の壁についている電話が鳴った。
「もしもし?」
九条さんが受話器を取った。
「あと15分だってよ。どーする?延長するか?」
フロントからの連絡に九条さんがみんなに問いかけた。
「いや、明日も仕事あるし、女の子もいるんだし、あんまり遅くならない方がいいんじゃないかな。今日はもういいんじゃない?」飯高さんがみんなを気遣うように言ってくれた。
「ん、分かった」そう飯高さんに答えた九条さんは、受話器に向かって「分かりました。ええ、いいです。延長なしで」って伝えて電話を終えた。
「あと三、四曲くらいか?歌えんの。歌い足りてねーヤツ、歌っとけよ」
九条さんがみんなに追い込みをかけた。
「んー、何歌ってもらおうかな?」呟きながらリモコンを操作して曲名を探す。
「ちょっと待った。今、歌ったでしょ?」聞き捨てならないって顔で匠くんに問い返された
「だって、あれは麻耶さんのリクエストだもん。あたし、まだ選んでないよ」
そんなことは当然って顔で説明したら、匠くんは言葉を失っていた。それからはっと気がついたように、
「そんなこと言って、萌奈美、まだ歌ってないじゃん」あたしのことをズルいと言いたげに匠くんが指摘した。
もう、てっきり忘れてると思ったのに。
「歌ってねーヤツいたら優先的に入れろよー」あたし達の会話が耳に入ったらしい九条さんが、そんなことを喚いた。だから、別に歌いたくないんだってば。
「あ、麻耶さん、あと15分ですって」
トイレから戻って来た麻耶さんに千晴さんが伝えた。
「何?それは大変!」
まだ歌い足りてないのか、千晴さんから残り15分と伝えられて、麻耶さんは一大事とばかりに慌ててリモコンを操作し出した。
歌う曲はもう決めてあったのか、麻耶さんの操作は素早かった。麻耶さんがリモコンの送信ボタンを押すと、間もなくスピーカーからイントロが流れ始め、テレビ画面に映像が映った。
あたしは聴いたことなかったんだけど、映像に表示された歌手名と曲名を見たら、大塚愛さんの「Cherish」って曲だった。
「いい曲ですよね」
さっきも大塚愛さんの曲を歌ってて、愛ちゃんのファンらしい由梨華さんが嬉しそうな声で告げる。マイクを持った麻耶さんが笑顔で頷く。由梨華さんはこの曲 と「プラネタリウム」とどっちを歌おうか迷ったのだそうだ。でも、「Cherish」の方がリズムの取り方とか全体的に難しそうなので、「プラネタリウ ム」を歌うことにしたんだって後で教えてくれた。一方、麻耶さんは麻耶さんで、由梨華さんが「プラネタリウム」を歌うのを聴いて、「Cherish」が歌 いたくなったのだそうだ。何か面白い、そうゆーの。

麻耶さんの歌が上手いのももちろん大きいんだけど、由梨華さんが言ってたとおり、すごくいい曲だった。とてもドラマティックっていうか、ロマンティックっていうか、すごく引き込まれる曲だった。
それから、何だか何処か麻耶さんのアンサー・ソングっていう、そんな印象を受けた。
深い、とても深くて、その深淵に恐れを感じてしまいそうな程の深い愛。幸せと喜びをもたらすと同時に、不安と痛みをも伴う、そんな深くて激しい愛。そんな愛の形を、この曲を聴いて思った。

 愛情は なんてこわいもの
 だから 逃げたり 求める
 大人だとか 子どもだとか もう関係ないよ

 もしも 2人 出会えなければ
 こんな風に 笑えなかった
 今年 1番 幸せなのは
 あなたのそばに いれたこと

ここのフレーズが、ジンって胸に響いた。本当にそうだって思えた。
あたしの匠くんへの愛情。あたしが子供だとか、そんなの関係ないって、すごくそう思う。あたしが大人になったら、もっと深く匠くんを愛せるとかそういうことなんじゃない。
匠くんと出会えてなければ、あたしもこんな風に笑えてない。こんな風に、温もりと優しさと安らぎに抱かれて、心からの満ち足りた幸福の中で匠くんの隣で、 匠くんと一緒に笑っていられる。去年も、今年も、それから来年も再来年も、何年も何十年先も、毎年毎年、最高の幸せを感じられる。
この曲を聴いて、そう感じた。
歌い終わった麻耶さんは少し気恥ずかしそうに見えた。少し身体を縮めるように、そおっとマイクを戻していた。普段はふざけてばかりで冗談や軽口ばっかり 言ってたり、或いは何でも相談に乗ってくれて、真摯に話を聞いてくれて、とっても頼もしかったりする麻耶さんの、素顔をそっと覗き見たような気がした。本 当はこんなに可愛らしい一面がある女性なんだって、ふとした時に垣間見えて、すごく愛おしく感じる。
本当、とってもいい曲だね、麻耶さん。

それからやっぱりと言うか、カラオケ大好きな千晴さんと竹井さんが黙ってられる筈がなく、二人に曲を入れられてしまって、もう無理かなあ、なんて思ってた。
リモコンを手に持ったままでいたら、「萌奈美ちゃん、入れちゃいなよ」って飯高さんに言われた。
「でも、もう時間ないですし・・・」
「大丈夫、大丈夫。五分、十分だったらオーバーしても問題ないから。ラスト一曲、入れちゃいな」
そう飯高さんは言ってくれた。
どうしようか躊躇していたら、「萌奈美、歌わないの?」って匠くんに聞かれた。
歌うのは歌わなくても全然構わないんだけど・・・匠くんに歌ってもらおうと思ってたのが聴けなくて、それが心残りだった。だから。
「じゃあ、匠くん、一緒に歌ってくれる?」
そう匠くんにお願いすることにした。
「は?」まさかデュエットするとは考えてなかった匠くんは、間の抜けた声を上げた。「・・・何を?」恐々としながら匠くんが聞いて来た。もしかしたら女性歌手の歌を一緒に歌わされることになるのかも知れない、とか怯えてるのかも知れない。
「ミスチル。『sign』歌おう?」あたしがそう伝えたら、匠くんは幾分、ホッとした顔を見せた。
「萌奈美、一人で歌いなよ」遠慮気味に匠くんが言ってくる。
「一人でだったら別に歌わなくていい。本当は匠くんに歌って欲しいんだけど」
本音を言うあたしに匠くんは溜息をついた。
「おい、匠、入れちゃえよ」タイムリミットを気にしてか、九条さんが急かしてくる。
「ね、いいでしょ?」もう一度匠くんを誘う。
また小さく溜息をついた匠くんが、諦め顔で小さく頷き返す。
ぱっと明るい笑顔を浮べて、リモコンで「sign」を選択し送信ボタンを押した。
先に入力してた千晴さんと竹井さんの曲がまず先に流れた。千晴さんはいきものがかりの「じょいふる」、竹井さんはGReeeeNの「キセキ」を歌った。ど ちらも大ヒット曲だし、あたしもCMやテレビの音楽番組で耳にしていて、馴染みのある曲だった。「じょいふる」は千晴さんに合った元気一杯の曲で大盛り上 がりだったし、「キセキ」はこういうラップ調の曲も竹井さんは難なく歌ってて、それにGReeeeNって結構キー高いって思うんだけど、それも竹井さんは 軽々って感じで、本当に上手なんだなあって感動してしまった。みんなからも大賞賛を受けた。特に千晴さん由香里さんは大絶賛してて、竹井さんは大照れだっ た。
まだ竹井さんの歌の盛り上がり覚めやらぬ中、イントロが流れた。ピアノの独奏で始まるイントロ。イントロクイズじゃないけど、出だしの1、2秒でもうあた しの大好きな「sign」だって分かる。もう何十回、ううん百回以上、ひょっとしたら何百回だって聴いてる、あたしの中で、それから多分、匠くんの中で も、すっごく大好きな、とっても大切な一曲。
テーブルの上に置かれてた二本あるマイクを持って一本を匠くんに差し出す。匠くんは苦笑いでそれを受け取った。
匠くんとアイコンタクトで歌い出しの合図を取り合う。やってみてわかったけど、こういうの嬉しい。

 届いてくれるといいな 君がわかんない所で 奏でてるよ

この「sign」が収録されている『I Love U』は、ミスチルの曲の中で、匠くんと出逢って匠くんに教えてもらって初めて聞いたアルバムだった。そ の中でも「and I love you」と「sign」は特に大好きな曲だった。どっちも大好きで、どっちが一番かなんて決められない程、同じくらい大 好きだった。大好きな曲ばかりのミスチルの曲の中でも、1、2位を争うくらい。ミスチルのマイ・ベストを作るとしたら絶対ラストはこの二曲になるって分 かってる。なんて自信たっぷりに言って、本当に作る段になったらメチャクチャ悩みまくっちゃうんだろうけど。
あたしは匠くんの歌声が聴きたいから控えめに歌った。そしたら、匠くんにツン、って肘で軽く小突かれた。ちゃんと歌えよ、って匠くんの目が語っている。口 を大きく開けて、ちゃんと歌ってるよってアピールする。なんて、ホントは口パクみたいに口だけ動かして、殆ど声は出してなかった。ついつい匠くんを見る目 が笑っちゃった。
そしたら匠くんがマイクを離しちゃって歌うの止めちゃうんだもん。えーっ!一人で歌うのぉ?急に一人だけで歌うことになって慌てた。
仕方ないので真面目に歌うことにしたけど、自分の声がスピーカーから流れるのが何だかすごく恥ずかしくて、感情を込めたり大きな声で歌うのをどうしても躊 躇ってしまってた。歌いながら何だか情けない気持ちになった。みんなあんなにちゃんと歌ってて、麻耶さんや竹井さんや匠くんは歌上手だから、もちろん歌う のに躊躇ったり恥ずかしがったりなんてそんなことないんだろうけど、飯高さんとか、漆原さんとか、由梨華さんだって、決して上手って訳ではないけれど、す ごく堂々とっていうか、しっかり歌ってて、それに引き代え自分はなんてダメなんだろうって気持ちになった。こんな今にも消え入りそうな声で自信なく歌って たって、絶対みんなだって聞いててつまんない筈だ。ラストがこんなんじゃ、みんなに申し訳なかった。
そんなことを考えながら、もうすぐ一番目のサビに入るのを気が重く感じてた。
そしたら。

 ありふれた時間が愛しく思えたら それは「愛の仕業」と小さく笑った

突然スピーカーから響く声が大きくなった。
それより隣からの匠くんの声が直接耳に届いていた。
びっくりして視線を向けたら、匠くんがマイクを口元に当て歌ってくれてた。あたしの視線に気付いて、ちらりとあたしのことを見返した。
心細かった気持ちが安堵に変わった。不安げだったあたしの瞳の色を読み取った匠くんの手が伸びて来て、ぐしゃぐしゃってあたしの髪を掻き乱した。もう、しようがないなあ、そんな感じだった。そのまま、ぎゅうって頭を抱き寄せられて、あたしは匠くんの胸に頭を預けた。
今の今まで頼りなくて心許なかった気持ちなんてどっかに吹っ飛んじゃって、嬉しさが胸に溢れた。今度はあたしも精一杯声を出して歌った。

 僅かだって明かりが心に灯るなら 大切にしなきゃ、と僕らは誓った
 めぐり逢ったすべてのものから送られるサイン もう 何ひとつ見逃さない そうやって暮らしてゆこう

何だかすごく心が温かくなって、楽しく感じた。一人で歌うのはあんなに心細くて全然楽しくなかったのに、匠くんとこうやって心を通わせて歌ってると、歌の上手い下手なんて全然問題じゃなくって、とても幸せな気持ちで歌えた。
大好きな「sign」だから尚更だったのかも。

 もう何ひとつ見落とさない そうやって暮らしてゆこう そんなことを考えている

匠くんとこんな風に暮らしていきたいって、いつも、ずっと思ってて、匠くんともこんな風に暮らしたいね、暮らせたらいいね、暮らしていこうねって話してて、この歌は匠くんとあたしの道しるべみたいな歌だって感じてる。
匠くんからのサインを見落とさないで、見過ごさないで、生きていきたい。生きてゆこう。匠くんもそう同じように思ってくれてる。
あたし達は「sign」を歌いながら、しっかりと気持ちを確かめ合った。

カラオケ店を出ても雨は相変わらず降り続いていた。新宿の街の雨の夜は淋しさなんて何処吹く風で、もう11時近くだっていうのに、歩道にはひしめき合うように色とりどりのパラソルが行き交い賑わっている。あたし達も駅に向かう道を笑いさざめきながら歩いていた。
歌った後って何だか身体を動かした後に似てる感じがした。ちょっと気持ちが高揚してて身体が温かくて。でもそれって、或いは匠くんと一緒に歌ったからなのかも。
「今日は匠にしてやられた感じだったなあ」
竹井さんがボヤくように言った。
「まーね、萌奈美ちゃんへの初披露だったからね。気合入りまくりだったんでしょー」
如何にもって顔で麻耶さんが同意を示した。
「あー、リベンジしてーっ」
夜の雨空に向かって竹井さんが大声を上げた。
「じゃあ、また一緒にカラオケ行きましょうよ」千晴さんが竹井さんを誘った。
「え?え?ホント?」思ってもいなかった展開に、竹井さんは信じられないって顔で千晴さんに確かめている。
「ええ。竹井さん、歌上手いし、ノリノリで楽しかったですもん」
楽しいの大好きって感じの千晴さんは、決して社交辞令じゃなさそうだった。
「是非!お願いします!」これからすぐにでも行きましょう!そう言い出しかねない勢いの竹井さんだった。
「こちらこそよろしくお願いしまーす」屈託なく笑って千晴さんはぺこりとお辞儀をした。全然気取ってなくて親しみやすくて、ホントにいい人だって思った。
「よーし、第2弾企画すっかー」俄然ノリだした感じの九条さんが気勢を上げた。
「匠、抜きでな」竹井さんがすかさず条件を付けた。
「勝手にやってろ」話のネタにされた感のある匠くんは、ムッとした顔で言い返した。
先を歩く竹井さんは、何だかこのまま天にも舞い上がらんばかりの浮かれた調子で千晴さんと喋っている。好きなミュージシャンの話とか、意外と(なんて言ったら失礼かな)二人の間は盛り上がってそうに見える。これはもしかしたら、竹井さんにチャンス到来、かも?
賑やかにぞろぞろと歩く九条さんや麻耶さん達に少し遅れて、匠くんと二人でみんなの後をくっ付いて行った。隣を歩く匠くんの手をそっと引っ張る。
匠くんがこちらに視線を向けた。内緒話をするみたいに匠くんに顔を近づける。匠くんもあたしの方へと屈んで顔を寄せた。
匠くんの耳元でそっと囁いた。
「今度は二人きりで、匠くんの歌聴かせてね」
匠くんはちょっと思案する風だった。
「萌奈美も歌ってくれるんだったらね。一人でずっと歌わされたら敵わないから」そう匠くんは条件を付けた。
「うん、モチロン。ちゃんと歌うから」
匠くん、まださっきのこと根に持ってるのかなあ?ごめんなさい。あたしが悪かったです。口には出さなかったけど、心の中で謝った。
頷くあたしの表情に反省の色を読み取ってくれたのか、匠くんは「じゃあ、いいよ」って首を縦に振ってくれた。よかった。
九条さん達がいるのも気にせずに、さっき引っ張った時から掴んだままの匠くんの手を、きゅっと握った。匠くんもあたしの手をしっかりと握り返してくれた。
繋ぎ合った手は、夜の雨の冷たさなんて全然気にならないくらい温かかった。
「萌奈美ちゃん」
控えめに名前を呼ばれて視線を上げた。
「あのね、また麻耶さんにお小言、言われちゃうよ」
遠慮がちに栞さんが忠告してくれた。
栞さんに言われて視線を更に前方に向けたら、振り返った麻耶さんがこちらにジト目を向けていた。その尖らせた口元からは、仲良く顔を寄せ合ってひそひそ話をしているあたし達への不平が、今にも飛び出してきそうだった。
匠くんと顔を見合わせる。ふふっ。思わず笑顔になる。くっ。匠くんも忍び笑いを漏らした。
繋いだ匠くんの手を引っ張って走り出す。濡れた路面を蹴って小さな水跳ねを上げながら、みんなの元に駆け寄って行った。
 


PREV / NEXT / TOP

inserted by FC2 system