【 FRAG-ILE-MENT 】 ≪ Sakura Sketch 第2話 ≫


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「ただいまっ!」
玄関を開けると同時に大きな声で帰宅を告げた。もどかしく玄関の鍵を閉めて靴を脱ぎ廊下をぱたぱたと小走りに進んだ。
「お帰り」
あたしの声を聞いた匠くんがリビングから姿を見せた。
突進するような勢いで匠くんに抱きついた。
「わっ」って小さく驚きの声を上げながら、匠くんはあたしを抱き止めてくれた。
短かった春休みだったけど、その間ずーっと一日中匠くんと一緒に過ごして、ほんのちょっとの時間だって離れずにいて、学校が始まってたったの何時間かしか 離れていなかっただけなのに、たまらなく恋しかった。ぎゅうっと匠くんに力いっぱいしがみついてから、顔を上げて目を丸くしている匠くんの首に両手を回 し、強く唇を押し付けた。
ほんの少しの間離れていただけなのに、あたしの中で熱い衝動が暴れ回って溢れ出しそうだった。離れていた時間を埋めるように匠くんと触れ合っていたかっ た。匠くんとぴったりと少しの隙間もなく寄り添っていたいって、あたしの中にある理性ではいうことをきかない部分がどうしようもなく求めていた。
いつもその存在を感じて不安に思わずにいられなくなる、あたしの中にあるとても激しい本能的な情動。身体の奥深くに潜んでいる欲望。
それは地下深くの洞窟を流れる河のように、あたしの中のとても深くて暗い場所でごうごうと激しい奔流となって流れ続けている。
普段はその濁流のような強い情動を感じずに、或いは感じようとせずに日々を過ごしているけど、こうして匠くんに触れて匠くんの体温を感じた途端突然姿を現 して、その凶暴なまでに荒々しい激流に曝されて、怯えずにはいられなくなる。そして怯えながらもその生々しい欲望に身を任せてしまいたくなる。狂おしいま での甘美な情動の虜になってしまいたいっていう誘惑に駆られて、たまらない気持ちになる。
あたしの中で鬩ぎ合う葛藤を感じながら、匠くんの口腔に滑り込ませた舌を匠くんの舌に絡ませた。しばらくの間、匠くんと貪るような口づけを交わし続けて、陶然となりながらゆっくりと唇を離した。深い吐息が二人の口から漏れた。
あたしが濡れた瞳で見上げたら、匠くんの瞳にも熱い情欲の炎が灯っているのが分かった。
次の瞬間、ぎゅっと強く抱き締められて、匠くんがあたしの首筋に顔を埋めた。匠くんはあたしの首に口づけると、唇の間から舌を伸ばしてあたしの首筋に這わせた。ぬるりとしたくすぐったいような快感が走って、思わず背筋を震わせた。
「ん、あっ」
堪えきれず溜息のような喘ぎが漏れた。
「・・・萌奈美、制服姿で誘惑するのって、もう最終兵器並みに凶悪なんだけど」
あたしの首筋に唇を押し付けたまま、まるで白旗でも揚げるようにくぐもった声で匠くんが言った。
匠くんの言葉を聞いてたまらなく恥ずかしくなった。でも恥ずかしく感じながらもその一方で、匠くんの言葉に激しく気持ちを煽られていた。すごくいけないことのような気がして、そのことがより一層欲情を昂ぶらせているように感じた。
そういえば、制服着たままこういうことするのって初めてだったかも。
身体の芯が熱くなるのを覚えながら頭の片隅でふと思った。
結香に聞いたことがあるけど、男の人って制服姿が好きなものらしい。
匠くんもやっぱりそうなのかな?
匠くんはあたしの首筋に舌を這わせながら、制服の上からあたしの胸とお尻を弄っていた。何となくその手の動きがいつもより激しいようにあたしには感じられ た。匠くんの興奮があたしにも伝わってくるようで、匠くんに触れられた身体が熱を帯びるのを感じながら、すごくどきどきしていた。
陽射しの射し込む明るい部屋で何処か後ろめたさを感じながら、それでも生々しい欲望に支配されたあたしと匠くんはお互いを求め合っていた。
匠くんはベッドの上に仰向けになったあたしの制服とブラを一緒くたにたくし上げて、剥き出しになった胸を荒々しい手つきで激しく揉みしだいた。もう一方の手はスカートを捲り挙げて顕わになった下着の中に差し伸べられ、熱く淀み始めている部分に到達していた。
制服をはだけて恥ずかしい部分を匠くんの前に曝け出している今の自分の姿を思い浮かべて、裸にされるよりも何だかすごくエッチな感じで、あんまり恥ずかしくて思わず声を上げてしまった。
「ちょっ、ちょっと匠くんっ、あのっ、だめっ、恥ずかしいよっ」
あたしの懇願するような声に匠くんの動きが止まった。
思い詰めたような顔であたしを見下ろす匠くんに、激しい羞恥を感じて何か言わなくちゃって思い、慌てて口を開いた。
「あのっ、匠くんもね、制服姿とか興奮するの?」
恥ずかしさを紛らすつもりでそんなことを口走った。
あたしの言葉を聞いた匠くんの瞳には、あたしが思ってもいなかったような動揺の色が浮かんだ。一瞬うろたえたような表情が見えて、すぐにさっと顔が赤くなっていった。
自分が迂闊な発言をしたことに気付いて、少し後悔の念が胸を過(よ)ぎった。
「匠、くん?」
恐る恐る呼びかけた。不安な眼差しで匠くんを見上げているあたしに、匠くんはなかなか返事をしてくれなかった。そんな匠くんの様子に、冷水を浴びたように忽ちのうちに身体の火照りは引いていき、圧し掛かっている匠くんの下であたしは息を詰めて身体を固くしていた。
「・・・自分でも今まで全然知らなかったし気付かなかったけど・・・無茶苦茶興奮してる。萌奈美の制服姿に」
認めたくないことのように残念そうな口調で匠くんが告げた。ばつが悪そうな表情を浮かべて、隠しておきたかった秘密を仕方なく打ち明けるように。
でも、そんな匠くんがあたしには不思議だった。どうしてそんな後ろめたそうに言うのか分からなかった。
「それで、僕“も”って、どういう意味?」
不思議そうに匠くんを見上げていたあたしは匠くんに訊き返された。
「えっ?だって、結香が言ってた。大抵男の人は制服姿とか好きだって。セーラー服とか、もう大好きなんだからって」
結香に聞いたとおりに答えた。匠くんはでも何だか不満げな顔だった。
「・・・仮にその説が正しいとして、それだと何だか、“僕も”世間の男性諸氏と同様、女性の制服姿全般、世の中の大勢のセーラー服を着た女の子を、節操なく好きだって言われてる気がするんだけど?」
ひどく不満げな口調で、匠くんはあたしに問いかけた。
えーと・・・何て返答しようか迷って、匠くんを見上げたまま小首を傾げた。
「あのな、言っとくけど僕が興奮するのは、っていうか大好きなのは、っていうか・・・」
痺れを切らしたように話し始めた匠くんは、自分で言いながら何だかばつが悪そうに言い直して、それでも何かひっかかるらしくて不満げに口を閉じた。
「とにかくっ、僕がそんな風に感じるのは、萌奈美の制服姿だけなんだからなってこと!」
半ば投げ遣りな感じで匠くんはあたしに向かって言い放った。
怒ったような顔であたしを見下ろしている匠くんを見つめながら、もう無性に匠くんが可愛く見えて仕方がなかった。それからもちろん匠くんの言葉を聞いてたまらなく嬉しくて、抑えようもなく顔が綻んでしまった。
ニヤけているあたしを見て匠くんはムッとした表情を浮かべた。
「萌奈美、分かってんの?」
「えっ?」
「そんな格好で随分余裕かましてるよね?」
すっかり忘れてたけど、匠くんに言われて自分の今の格好を思い出した。はっとして匠くんと視線を合わせると、匠くんはにこりと微笑んだ。あたしがその微笑みの意味を解せず、頭の中に疑問符を浮かべた刹那。
「こっちは全然余裕ないっつーのっ」
言葉と一緒に匠くんがあたしに覆い被さって来たのだった。
「たっ、匠くんっ!?」
びっくりして身体を起こそうとするあたしの動きを押さえつけるように、匠くんは身体ごと圧し掛かって来て、あたしの胸に顔を埋めた。
すっかり興奮の冷めていたあたしは、敏感な先端を濡れた唇に咥えられて、不意打ちのような感触にびくっと身体を震わせた。もう片方の乳房を熱い掌に包まれ激しく揉みしだかれた。
「あっ、匠くんっ、ちょっと待ってっ・・・」
全然心の準備ができていなかったあたしは匠くんに呼びかけた。
「嫌だ。待てない」
匠くんは一瞬あたしの胸から顔を離して、ぶっきらぼうに一言だけ答えると、またすぐ胸に顔を埋め乳首を咥えた。唇で挟まれ尖らせた舌先で擦られて、すぐに刺激に敏感に反応して固く尖り始めるのが分かった。
匠くんの右手が素早くあたしの下着に滑り込んだ。少しも焦らしたりせず匠くんの指先が真っ直ぐに恥ずかしい部分に触れた。
刺激を待ち構える余裕も与えられないで、甘く痺れるような快感があたしの身体を貫いた。
「あっ、くふうっ!」
身体を大きく震わせながら、甘えるような喘ぎが自分の口から意図しないままに漏れていく。
匠くんの中指があたしの中に潜り込み、入口から浅い部分をゆるゆると擦り立てた。あたしの身体は忽ち反応し始めていた。身体の奥が熱く疼き、蕩け出していく。
「あっ、あっ、あっ、んくっ、はっ、あっ・・・」
匠くんの中指の動きが速さを増していき、それに連れてあたしの口から絶え間ない喘ぎが漏れ続けた。頭の中が霞がかかったようにぼやけ、何も考えられなくなる。ただもっと気持ちよくなりたかった。もっと強い快感を求めていた。
「あふ、たくみっ、くん、あっ、くふっ、やあっ!もっとっ、もっと頂戴っ!お願いっ、もっとっ、奥までっ」
じれったいような浅い快感が続くことに我慢できなくなって、夢中で匠くんにお願いした。
あたしが言い終わらない内に、あたしが言うのを待ちかねていたかのように、匠くんの中指全部があたしの中に埋まった。敏感な粘膜を奥深くまで貫かれて、今までとは較べようもない強い快感があたしの身体を走り抜けていた。
「ああーっ!!」
身体をしならせて恥ずかしい程大きな声で歓喜を漏らした。
匠くんは口と左手であたしの胸を刺激しながら、熱くぬかるんだ場所の奥深くに突き入れた右手の中指を素早く動かして、膣襞を指の腹で擦り立て、指先で膣奥を突き上げた。時々深く突き入れたまま、膣の奥を指でぐりぐりとこね回した。
最も敏感な場所を刺激されて、激しい快感に翻弄され忽ち高まっていった。
「あーっ、ああっ!はうっ、んあっ!ふっ、くうっ、はあんっ、あくっ!あっ、ああ!あ、ひっ」
もう何も考えられず、恥ずかしげもなく快楽に染まった声を放ち続けながら、絶え間なく襲う強烈な快楽に身体を小刻みにひくつかせた。
「あっ、ああーっ!やあ!ダメえっ!あっ、ああん!もおっ、ダメなのおっ!あっ、くっ、もお、やあっ!」
がくがく身体を震わせながら匠くんに訴え続けた。
「やあん!た、くみっ、くんっ、イクっ!イッちゃうっ!」
あたしの切迫した訴えを聞いて、膣を掻き回す匠くんの指の動きが一層激しさを増した。ものすごい速さで膣に出入りしながら、膣の奥を掻き回された。
あたしの頭の中で眩い光芒が炸裂した。微かに残っていた意識は広がる閃光に飲み込まれた。
「あああああああああああーっ!!」
絶叫のような喘ぎを放って身体を弓なりに大きく仰け反らせた。仰け反ったまま硬直した身体をひくひくと痙攣させていた。
眩い光が弾けた後、黒い闇があたしを覆い尽くした。

気が付くと荒い呼吸を繰り返して胸を大きく上下させているあたしの髪を匠くんが優しく撫でてくれていた。
右手の中指はまだあたしの膣の中に納まったまま、ゆるゆるとした動きを続けていた。強い快楽に麻痺しかかった感覚に時々緩い快感が伝わってきて、びくっと身体が勝手に反応していた。
激しい絶頂に身体中の力が抜けて、弛緩した手足を投げ出したまま、半ば呆けた意識で匠くんを見つめた。
匠くんの名前を呼ぼうとして、口は動いたけど掠れてしまってほとんど声にならなかった。ずっと喘ぎ続けていて喉が渇いて口の中がからからだった。
両腕を匠くんへと伸ばした。匠くんの頬に触れてそのまま自分の方へ引き寄せた。近づいてくる匠くんの頭を抱くように両手を回し自分から唇を求めた。匠くん の唇が触れると待ちかねたように口を割って舌を差し入れた。匠くんの口の中で舌を探し当て、強く絡めた。喘ぎ続けていたあたしの舌はひんやり冷たくて、だ けど匠くんの口の中も絡めた舌も対照的に熱く濡れていた。喉の乾きを癒すように匠くんの舌を強く吸った。
あたしが匠くんを求めるのと呼応するかのように、次第に匠くんの指の動きがはっきりとしたものになっていた。大量の愛液で滑った膣の中で襞を擦り上げ奥を指先で突き上げた。ぶるっと身体が震え、絡めた匠くんの舌に思わずちゅっと強く吸いついた。
明確な快感があたしを煽りたて、自然に身体がうねった。痺れるような甘い快感に股間が疼き、切なさで匠くんの腕を太腿でぎゅっと挟み込んだ。
右手を伸ばして匠くんの股間に触れた。ジーンズの前はその中の強張りの存在を示して膨らんでいた。その形をなぞるように強く擦り立てた。
匠くんの口から短いくぐもった声が漏れてびくん、って身体が揺らいだ。硬いジーンズの生地の上からその内側にあるものの形を確かめるように擦って、それだけじゃ我慢できなくなってジーンズのジッパーを手探りで見つけると、引き下げて開いた部分から中へと手を滑り込ませた。
膨らみの先端が当たっているトランクスのその部分は、ぐっしょりと濡れてぬるぬるとしていた。あたしは柔らかいトランクスの生地越しに、内側にある膨らみの先端を摘むように人差し指と中指と親指で包み込んでくりくりと転がすように愛撫した。
「ふっ、くっ!」
匠くんの口から鋭い喘ぎが漏れた。あたしの手の中で硬く屹立した強張りがびくりと大きく跳ねた。太い幹と先端を手の平全体で握るようにして上下に擦り立てた。
「うっ、くあっ」
匠くんの身体が仰け反り、びくびくと強張りが何度も震えた。
強い刺激に腰を引きぎみにして耐えている匠くんを押し退けるように、身体を起こして匠くんをベッドに仰向かせた。あたしの頭の中は匠くんにもっと強い快感を与えたくて、匠くんをもっと気持ちよくしてあげたくて、そのことでいっぱいだった。
匠くんの開いた両足の間に身を置いてあたしは、ベルトに手をかけてもどかしい気持ちになりながら外すと、ジーンズとトランクスを一緒にひき下ろした。快楽に呑まれつつある匠くんも腰を浮かせて、あたしがジーンズを脱がすのを手助けしてくれた。
剥き出しの下半身を見下ろしたあたしは、股間で屹立している強張りから目が離せなくなった。これから訪れる快感への期待に打ち震えるようにそのそそり立っ た強張りはひくひくとひくついていた。先端はぬめっててらてらと照り輝いていた。淫猥で生々しい光景を前にして、あたしは激しい興奮を感じていた。
大きく開いた足の間に蹲(うずくまる)るようにして、匠くんの股間に間近に顔を寄せた。太い根元をそっと握ったら、いきり立っているペニスはびくりと震えた。握った幹をゆっくりと上下に擦り立てた。そして硬く屹立したペニスの下にある袋にそっと口づけした。
「うあっ!」
匠くんの口から切なげな声が上がるのが聞こえた。口づけした唇の間から舌を伸ばして、ちろちろと袋を舐め上げた。
「はっ、くふっ」
ゆっくりと擦り立てているペニスがびくびくと跳ね上がり、匠くんの腰が踊った。あたしは匠くんの弱点をもうすっかり熟知していた。袋を攻められるのも匠く んは弱かった。主導権を握った気持ちで、あたしは更に匠くんの陰嚢に大胆に舌を這わせた。袋の皺のひとつひとつを舌で濡らすように舐め上げ、舌先で袋の中 の玉状のものを転がすように突付きまわした。二つの陰嚢の間を舌先でちろちろとくすぐるように舐め上げたり、口全体で陰嚢をくわえ込むようにして優しくは ぐはぐと締め付けた。左右の陰嚢を代わりばんこにしゃぶって転がした。
あたしが様々に刺激を加える度、匠くんは身体を波打たせ、時に苦しげな時に切なげな喘ぎ声を漏らし、ペニスをびくびくと激しくひくつかせた。
二つの陰嚢をすっかり唾液に塗れさせて満足げに口を離した。そして最大限に勃起して反り返っているペニスを見たら、先端からは夥しい量のぬらついた液体が漏れて、幹を伝って根元を握っているあたしの手までも濡らしていた。ぬらついた幹を強く上下に擦り立てた。
あたしの手の中でペニスはびくびくと脈打ち、匠くんの腰が跳ねた。
これから最高の快感を与えてあげるから。目の前でひくつくペニスに胸の中で囁いた。そしてペニスの先端に顔を寄せると舌を伸ばし、張り出した先端の裏側をぺろりと舐め上げた。
「うああっ!」
ペニスが脈打ち匠くんの身体が跳ね上がった。あたしは反応に満足し、大きく口を開けて怒張したペニスを咥えた。喉に当たるくらいまで屹立を飲み込んでから、ゆっくりと頭を上に動かしてペニスを引き抜く。歯を立てないように気をつけながら唇で強張りを締め付けた。
ペニスを張り出した先端部の下まで引き抜くと、口の中に残っている先端をちゅっと強く吸った。
「うぐっ」
強い快感に匠くんの身体が素直に反応して反り返った。
匠くんの身体が示す反応のひとつひとつに自信を得ながら、またゆっくりと頭を下げてペニスを飲み込んでいった。そして根元近くまで飲み込んでは、また頭を 上に上げてペニスをゆるゆると引き抜いた。その動きを繰り返しながら少しずつ頭を上下させる速さを増していった。口でペニスを擦り上げながら、指で陰嚢を やわやわと揉みしだいた。
引き締めた唇でペニスを擦り立てながら、口の中で舌を先端に絡めて敏感な部分を突き回した。
あたしの口の中で怒張したペニスはびくびく絶え間なく脈打ち、がくがくと何度も匠くんの腰が浮いた。
「も、萌奈美っ」
切迫した感じの匠くんの声があたしの名を呼んだ。
「こっちに、お尻向けて」
匠くんの恥ずかしい指示にかあっと頭が熱くなる。でも快感に麻痺した思考は匠くんの言葉を何の抵抗もなく受け入れ、匠くんの逞しいものから口を離さないま まその屹立を軸にするようにして、ベッドに仰向けに横たわっている匠くんの上で身体を回転させ、匠くんの顔を跨いで熱く蕩けている部分を恥ずかしげもなく 匠くんに晒した。
あたしのその部分は熱くどろどろにぬかるんでいて、溢れ出している透明の液体が、今にも匠くんの顔に糸を引いて零れ落ちそうになっているに違いなかった。
あたしのお尻を抱きかかえている匠くんの手に力が籠り、あたしの腰を引き寄せる。頭の片隅で羞恥を感じたけれど、抵抗することなく匠くんの意志に従って、 腰を落として匠くんの顔に股間を近づけていく。強い快感への期待で胸が震えた。匠くんの吐息が股間にかかるのを感じて、ぞくっと悪寒のような感覚が身体を 駆け抜けていき、思わずあたしは首を竦めた。
次の瞬間、股間に電流のような快感が生じた。ぬるりとしていてそれでいてざらつきのある温かい物体が、あたしの敏感な襞を這うように嬲った。
「くふ、んっ」喉の奥に絡みつくような粘ついた喘ぎが、あたしの口から放たれていく。
匠くんの舌がとろとろと熱いぬめりを漏らしているあたしの秘唇に潜り込み、中の粘膜をぬるぬると擦りたてた。まるで軟体動物が這い回るように匠くんの舌は あたしの中の敏感な粘膜を攻め立てていく。幾重にも複雑に入り組んでいる襞の一枚一枚を味わうように匠くんの舌が嬲っていく。
あはあっ!ふあっ!くふっ!ひあっ!匠くんの舌が与えてくれる激しい快感に、どうしようもなく艶やかな喘ぎ声が漏れてしまうのを抑えられなかった。顎を突き出すように頭を仰け反らせ、嫌々をするみたいに頭を左右に振って、苦痛のような快感に必死に耐えた。
匠くんの熱い舌があたしのぬれそぼった蜜壺を掻き回し、匠くんの唇があたしの秘唇に強く密着して吸いたてた。じゅるじゅるってわざと品のない音を立てて、 匠くんはあたしの陰唇からとめどなく溢れ出し続けている愛液を啜った。その濡れた淫猥な響きにあたしは羞恥心を煽られながら、その淫猥さに激しく欲情して いた。
間断なく襲い掛かる快感に抗うことも出来ず、匠くんへの愛撫も放り出して、たまらなく甘美でそれでいて切ないような、余りに強くて苦痛と見分けのつかなくなりそうな快楽に飲み込まれていった。
まるで大きな竜巻に巻き込まれ高い空へと放り上げられていくような速さと激しさで、あたしは快感のスパイラルに捉えられ、目も眩むばかりの遥かな高みへと運ばれた。
ああーっ!やあっ!あっ、ひああ!ああああああああーっ!
大声でよがりながら身体を弓なりに仰け反らせて硬直した。硬直したままわなわなと身体を戦慄かせ続けた。


匠くんの漏らす喘ぎも切迫したものになっていた。その様子から限界が近いことをあたしは感じ取った。
一層激しくペニスを唇で擦り立て、先端を舐め上げた。その間もずっと両手で陰嚢を優しく刺激し続けた。
「うああっ!萌奈美っ!も、もう!」
切羽詰った匠くんの声があたしに呼びかけていた。匠くんが腰を引こうとするのを感じて、あたしは身体を圧し掛からせるようにして押さえ込んだ。そしてペニ スへの口による愛撫を続けた。いいよっ!匠くん!思いっきり気持ちよくなってっ!そう心の中で呼びかけながらあたしは頭を上下させて唇によるマッサージを ペニスに加え、先端を舌で舐め回した。
「あうっ!出るっ!」
匠くんの吼えるような声が聞こえ、ぐっと腰が突き出された。あたしの口の中のペニスがびくびくと暴れ回り、その先端からビュルビュルと激しい勢いで精液が 放たれた。あたしは口でのマッサージを止め、手で幹を強く擦り立てながら、精液を激しく放出している先端の部分を舌でぬらぬらと舐め回した。
「く、くうううっ!」
切なげな呻きを上げた匠くんはぴんと身体を硬直させたまま、あたしの口の中でペニスを激しくひくつかせながら大量の精液をあたしの口の中へ放ち続けた。
やがて射精の勢いが少しずつ衰えていき、ペニスの脈動も小さくなっていった。あたしは口の中いっぱいに溜まった精液を、その青臭いような匂いには未だに少し眉を顰めてしまいながらも、もう何度も繰り返してすっかり要領を得て、少しも躊躇せずにごくりと飲み下した。
どろりとした白濁液は粘ついて喉に絡まる感じだった。あたしは何度か喉を鳴らし嚥下して、口の中の粘ついた液を全部飲み干した。そして強く吸い付きながら ペニスを引き抜いた。先端だけ口中に残すと音を立てて吸い上げ、中に残っている精液の最後の一滴までも出し尽くそうとした。
激しい快感に貫かれて弛緩した身体を投げ出している匠くんの姿を、あたしは満足しながら見下ろした。ベッドに投げ出されている身体の中心で、その部分だけ はまだ強張りを失わず、屹立し続けていた。時折、快感の名残にひくひくと打ち震えている。あたしはそれから目を離せなかった。匠くんを口と手で愛撫しなが ら、あたしの中で欲望が膨れ上がっていた。
熱い欲望に昂ぶる意識で、早く匠くんのものであたしの中の奥深くまで貫いて欲しいって思った。あたしの中をいっぱいに満たして欲しいって願った。
待ち切れなくてあたしは自分から匠くんに圧し掛かるように身体を重ねていった。

◆◆◆

始業式翌日には入学式が行われた。二、三年生も体育館での入学式に参列した。
先にニ、三年生と新入生の保護者が着席して待っていると、やがて新入生が入場して来た。ひと目でそれと分かるまだ市高の制服に馴染んでいない初々しさの感じられる様子の新入生達の姿を見て、あたしは感慨深い気持ちになった。
もう三年生、最上級生なんだ。市高も残りあと一年で卒業しちゃうんだ。それを思うと何だかどうしようもなく焦燥感が湧き起こってくるのを感じた。もちろん 高校を卒業すれば匠くんとのことを隠したりしなくてもよくなって、もっと周囲にオープンにできて、それを待ち遠しく感じている自分もいるんだけど、その一 方で市高での毎日がとっても楽しくて、ずっとこのままでいられたらいいのにって感じてる自分も、間違いなく心の中にいるのだった。
自分が市高に入学してからの二年間が何だかあっという間に思えたし、何より最上級生っていう実感が全然持てなかった。“ゆかりん”部長を始めとして、文芸 部の先輩達はとてもしっかりしていたし頼り甲斐があった。何だか先輩達と較べると、あたしなんか全然最上級生に相応しくないように感じられた。それとも自 分ではそう思えるけど、案外下級生達から見たらそれなりにあたしも“最上級生”らしく見えたりするのかな?そうだったらいいんだけどな。
そんなことを思っていたあたしは、入場して来た新入生の列の中に香乃音の姿を見つけて我に返った。他の新一年生と同様、まだ馴染んでいない市高のセーラー 服に身を包んで緊張している香乃音の様子を見て、微笑ましい気持ちになった。聖玲奈、香乃音、姉妹三人で一緒に市高に通えることが嬉しかった。
市高に入るため香乃音が随分勉強を頑張ったのを知ってたし(中学三年の時の担任の先生は、香乃音が市高を受験することに結構難色を示していたみたいだっ た。それでも香乃音は頑として聞かず、ママ達も香乃音の意志を尊重したので結局先生の方が折れたらしかった。三年生になってから香乃音は相当頑張って猛勉 強したし、塾にも通ったし聖玲奈が時々勉強を見てあげたりもしていたんだそうだ。)合格して「おめでとう」って何回も伝えていたけど、こうして晴れて入学 式を迎えることができて、改めて「おめでとう」って香乃音をお祝いしてあげたかった。今日は夕方から阿佐宮家で入学のお祝いをすることになっていて、あた しと匠くんも行く予定だった。
入学式は厳かな雰囲気の中滞りなく終わり、ぴんと張り詰めた空気の中で身が引き締まるように感じられた。
今日は入学式の後ロングホームルームで、新学年当初の日程と進路希望調査について担任の前河先生から説明があり、それから各委員会の委員選出をおこなった。
あたしは春音と二人で図書委員に立候補した。委員の中でも地味めなのであたし達の他に手を挙げる人もいなくてあっさりと決まった。委員会の仕事は本音を言 えばちょっと面倒くさいけど、市高で過ごすのも残すところあと僅か一年だし、少しでも学校での活動を充実させたいって思った。それで考えて、本が好きって こともあって図書委員が自分に一番しっくりくるかなって感じて立候補することにしたのだ。各委員会の最初の会合は明後日の放課後に行われることが伝えられ た。
携帯で連絡を取り合い、入学式後教室でホームルームを終えて放課となった香乃音とパパとママ、聖玲奈、家族全員で校門前で待ち合わせて記念写真を撮ること にしていた。まだ辛うじて残っている桜の花びらがはらはらと舞い散る校門で、あたし達ははにかみながらそれでもとびきり嬉しそうな笑顔を浮かべた香乃音を 真ん中にして何枚も写真を撮った。
あたしと聖玲奈はこの後部活動があるので、夕方からのお祝いの会の時刻を確認し合って、帰宅する香乃音、パパ、ママの三人に別れを告げた。
明日から一週間は放課後に新入生が部活動を見学できる期間になっていて、どの部も新入生の勧誘に力を注ぐことになっている。その後二週間の仮入部期間を経 て新入生は正式に入部する決まりだった。そのため明日からの新入生勧誘期間を前に、何処の部も今日は放課後に部活を予定していた。
教室であたしが戻ってくるのを待っていてくれた春音、千帆と三人で学食に行ってお昼ご飯を済ませた。殆どの部活が午後に活動を予定しているためか、学食は結構混雑していた。
「茶道部はどんなことするの?」
学食の購買でコロッケパンとツナサンドを買ったあたしはコロッケパンを頬張りながら千帆に訊ねた。
「うちはお茶会を開く予定。部室に毛氈敷いて結構本格的にするつもり。あと、和服着た部員が校内を回ってお抹茶のテイスティングを勧めたりもするんだ」
チャーハンを食べている千帆が答えた。因みに春音はてんぷらそばを注文していた。
「何か華やかだねー。いいなあ」
羨ましくて溜息をついた。
文芸部ももちろん頑張って新入生を勧誘するもりだけど、それにしたって限界があった。なんて言っても地味だし。今のところ、明日からの勧誘期間中、部室で 部誌のバックナンバーを閲覧できるようにして、あと部員が書いた短めの作品を幾つか載せたPR誌を配布する予定だった。でも見栄えのするイラストを多用す る漫研や美術部のと違ってうちの部は字ばっかりだし、どうやったって地味なのは誤魔化しようがなかった。まあ、あたしは個人的にはそれでもいいかなって 思ってるんだけど、実は。少なくてもいいから本当に本が大好きで、物語を作ったり小説や詩を書いたり読んだりするのが好きな人が入ってきてくれればいいか なって思ってる。でもあたしがうっかりそう漏らしたら、会計の縹茉莉子(はなだ まりこ)ちゃんから「部員の人数は部活動費にモロに反映されるんだから ね。頑張って大勢新入生獲得しなくちゃ駄目だからね!」ってお叱りの声を貰ってしまった。やれやれ・・・。
地味なのは否めないけど、一応とっておきの秘策はあった。配布するPR誌の表紙とカットに匠くんがイラストを提供してくれたのだ。職権濫用(?)と言わば 言え。少なくとも表紙のインパクトでは決して漫研にも美術部にも引けを取らない自信がある。(自信持って中身で勝負って言えないところがちょっと情けなく もあるけど・・・でも、この際邪道だとかどうとか言っていられないのだ。頑張ってたぶらかしてでも大勢の新入生を入部させなくちゃ・・・って、たぶらかす んじゃ問題ありか・・・)
「コスプレでもしますか?」
隣で黙ってあたしと千帆の話に耳を傾けていた春音が不意に口を開いた。また突拍子もないことを・・・
「あ、それいいかも。メイド服とかね」
千帆が名案とばかりに顔を輝かせた。・・・って、絶対に千帆、他人(ひと)の部活のことだって気楽に考えてるでしょ!?
「・・・誰が着るのよ?」
あたしは二人に冷ややかな視線を投げかけた。言外に“あたしは絶対ヤだかんね!”って主張しながら。・・・匠くんの前でならちょっとは着てみてもいいかも知れないけどさ。
「えー、萌奈美、似合いそうだけどなあ・・・」
つくづく残念そうに千帆が漏らした。・・・やっぱり、千帆、絶対他人(ひと)ごとだと思ってるでしょ?
「まあ、提案するだけしてみますか」
春音がそう言ったのでびっくりしてしまった。えっ?本気(マジ)?
或いは春音にしても副部長として文芸部を盛り上げていかなくちゃっていう責任感みたいなものがあるのかも知れない。やっぱり新入生が入部するかどうかは文 芸部の未来がかかっている大問題ではあるもんね。それにしても部長の夏季(なつき)ちゃんとか可愛い格好とか好きだし(実際、夏季ちゃんがメイド服着たら 絶対似合うと思う)、意外と部員のみんなも悪乗りして春音の冗談のような提案が採用されてしまうかも知れないっていう一抹の不安を何となく感じた。絶対メ イド服着たりなんてことになりませんように!心の中で強く願った。
「今日の明日でいきなり用意できないとも思うけどね」
春音にしても自分で言っておきながら、まず通るはずがないって思ってるみたいだった。春音の言葉にあたしも“それはそーだよね”って思って何だか気が楽になった。確かにいきなりメイド服用意したりなんてできっこないもんね。
食べ終えてからも食堂でしばらく三人で話していて、やがて部活の始まる時間が迫ってきたのであたし達は教室に戻ることにした。そして教室で鞄を持つと、文化部の部室のある文化部棟(って言っても平屋のプレハブの建物なんだけど)へ向かった。
部室の前で茶道部の部室に向かう千帆と別れを告げて、あたしと春音は文芸部の部室へ入った。
「あ、副部長、阿佐宮先輩、こんにちはー」
先に来ていた二年生のコに元気のいい声で挨拶された。あたし達も「こんにちは」って返事を返した。
部室の真ん中にある大きな作業用テーブルには、明日から新入生達に配布するPR誌が山積みにしてある。昨日まで部員みんなでコピーした頁をホッチキスで止めて製本してやっと完成したのだった。
なんて言っても今回のPR誌の表紙はカラーコピーなのだ。二年の部員のコの家が仕事に使うのでカラーコピー機を持っていて、タダでカラーコピーをさせてく れたのだ。それも何百枚も。そもそもは匠くんのイラストを表紙に使えることになって(どういうルートで使えるようになったのかは、部員のみんなにははぐら かして説明したんだけど)、折角プロのイラストレーターの人の描いたカラーイラストを表紙にできるんだから、白黒コピーじゃ勿体ないのでカラーコピーにし ようってことになったのだった。カラーコピーは発色とか匠くんの生原稿の鮮やかさ、美しさには遠く及ばなくて見比べてみれば一目瞭然だったけど、それでも 十分綺麗で華やかで思わず目を奪われる出来だった。
「いい出来だよねー」
改めて手に取って眺めながら得意満面で呟いた。
「ホントですよね。漫研より全然勝ってますよね。思わず“あ、スゴイ!”って見入っちゃいますもん」
近くにいた二年のコが嬉しそうな顔であたしに同意した。
みんなには黙ってたんだけど(そう言ったら、なんでそんなことできるんですかあ?って余計疑問に思われて詮索されちゃうだろうから)、実は今回表紙のため に、このイラストを匠くんはわざわざ書き下ろしてくれたのだ。最初あたしは匠くんが前に描いたイラストを使わせて貰えないかお願いしたんだけど、匠くんは 折角だからって気軽に書き下ろしてくれて、出来上がったイラストも全然ラフな感じじゃなくて、お仕事で描いたイラストと何ら変わらない、ものすごく綺麗で 素敵な作品だった。匠くんから見せてもらったとき、あたしはひと目見て“うわあ!”って感動してしまったし、部のみんなに見せたときもどよめきが起こるほ ど驚いたり感動したりしていた。それであんまり素晴らしいから表紙はカラーコピーにしようっていう話が持ち上がって、みんなでその意見に賛成したのだっ た。
「うちのクラスのコにも見せたら目を瞠ってましたよ」
匠くんの描いた絵を賞賛する声に、内心もう嬉しくて仕方なかった。まるで自分が描いたかのように得意になっていた。
「副部長と阿佐宮先輩のお手柄ですよね。こんな素敵な絵を表紙に使えて」
そう言われてちょっと面映かったけどでも嬉しくて、あたしはにこにこしながら「うん・・・ありがと」って答えた。
「少なくともこの表紙に限って言えば、注目度バツグンですよ」
別のコがそう言ったので、本当にその通りなんだけど、文芸部としてはその発言はちょっと悲しいかもって思ったりもした。
でもとにかく、人目を惹いて手にとって見てもらうチャンスが大幅にアップしたのは間違いなかった。
そうこうしているうちに部員が集まり、顧問の前河先生も来て部活が始まった。
ゆっくり(って言うより、のんびり?)とした口調で部長の夏季ちゃんが進行を務め、明日からの新入生勧誘についてみんなで意見を交わした。
部室に来た新入生に説明する係と、何組かに別れて校内のあちこちでPR誌を配布する係とに分けることになった。
ここで春音が小さく挙手をしてみんなの注目を集めてから口を開いた。
「PR誌の配布をする係だけど、今日の明日で用意するのはちょっと難しいかも知れないけど、コスプレなんてしてみてはどうでしょう?」
あ、本当に言った。思わず胸の中で呟いた。
「コスプレえ?」
予想していた通り、みんなからはちょっとしたどよめきが上がった。
「コスプレってどんな?」
三年の翔子ちゃんが質問した。
「例えばメイド服とか」
春音が即座に答えると、またもや部員のみんなからは「メイド服う?」って驚きの声が上がった。
ざわつくみんなを前に、夏季ちゃんが何とものんびりした感想を漏らした。
「メイド服ってえ、可愛いよねー。あたし結構着てみたいかもー」
ずるっ。なんという脳天気な発言・・・思わずずっこけそうになった。他のみんなも夏季ちゃんの発言に呆れたみたいにしんと静まり返った。
「でも、志嶋さんも言うとおり、急にはちょっと用意するのは無理なんじゃないかな。アイデアとしては面白いかも知れないけど」
前河先生がやんわりとこの話を締めくくるように口を開いた。先生の言葉に、みんなも“それもそうだよねー”っていう雰囲気になったようだった。
ところが、話はそこで終わらなかったのだ。
「あ、もしかしたら大丈夫かも!」
中から声が上がったのだ。発言したのは三年の希美佳だった。
「え?」
前河先生が慌てたように間の抜けた声を上げた。
「去年、あたしのクラス、文化祭の模擬店でメイド喫茶やったんですよね。それで女の子みんなでメイド服自作したんです。文化祭の後自宅に持って帰ったんだけど、みんなまだ持ってるかも知れない。ちょっと何人かに聞いてみます」
そう言って希美佳は早くも携帯を取り出した。
「ちょっ、ちょっと待って。でも、そこまでしなくても・・・」
「何言ってるんですか。新入生が入部するかどうかは部の未来がかかってるし、生徒会から配分される部活動費にだって影響してきます。新入生の勧誘は何処の部も力を注いでるんですから、アピールするのにし過ぎってことはありません!」
会計担当の茉莉子(まりこ)ちゃんが力強く反論した。「部の未来」「部活動費」って言葉がみんなの気持ちをいたく刺激したようだった。「確かにそうだよねー」「うん」ひそひそと囁き合う言葉が聞こえた。
「茶道部も和服着てPRするって聞きました」
春音がさっき千帆から聞いた話を持ち出した。
「だって、茶道部は野点(のだて)とか、部活で和服着たりするでしょ?文芸部がメイド服着る必然性が何処にあるの?」
先生が必死な感じで抗弁した。何だか流れがメイド服を着る方向に向かいつつあるような気がして、嫌な予感がした。
「なんだかんだ言ったってやっちゃったモン勝ちだと思います。要は如何に新入生の注目を集められるか、なんじゃないでしょうか?」
別のコが前河先生に言い募った。形勢は明らかに先生に不利に見えた。
「あたしぃ、メイド服着てもいいなー」
またもや夏季ちゃんが部長には凡そ相応しくないのんびり口調で発言した。そしてこれが決定打になった。
部長、副部長の同意のもと、いつの間にか(ほぼ)文芸部員一同一丸となって、PRにメイド服を着て校内を練り歩くことに賛成したのだった。幸か不幸か、希 美佳が去年同じクラスだった女子に電話してみたら、殆どの子がまだメイド服を自宅に保管していて、貸してくれるとの色よい返事を得たのだった。
あたしは目の前が暗くなったような気がした。この上は何としてもメイド服を着るのだけは免れようと、一人密かに決意していた。

◆◆◆

「それで萌奈美はメイド服着る訳?」
匠くんが明らかに面白く無さそうな声で訊ねた。
あたしは帰宅して匠くんに事の次第を話して聞かせた。
「ううん。あたしは部室で待機している係になったから。それで待機組はメイド服は着ないことになってる」
結局、あたしの他、メイド服に尻込みしていた数名と春音が部室にやって来た新入生の対応をする担当に落ち着いた。言いだしっぺの春音がメイド服着ないって のはどうなの?ってあたしなんかは思ったけど、部長の夏季ちゃんがメイド服を着ることにノリノリで、部長も副部長も部室にいなくなっちゃうんじゃ新入生の 応対に支障があるっていう春音の発言に、夏季ちゃんが「そーかもー」って(例によって間延びしたのんびり口調で)同意を示して「じゃー春音ちゃんは部室に 残っててくださいー」って言ったので、春音はメイド服を着ることを免れたのだった。
(夏季ちゃんは部員のみんなを「ちゃん」付けで呼ぶのだ。春音のことを「春音ちゃん」なんて呼ぶのは夏季ちゃんをおいて他に誰もいなかった。因みに春音は 夏季ちゃんに「春音ちゃん」って呼ばれる度に、何か間違って変なものを飲み込んでしまったかのような顔をした。それでも夏季ちゃんに抗議するだけ無駄って 分かってるのか、春音は黙ったままただ渋い顔をしてるんだった)
春音ってホント策士!あたしは密かに思った。もっともみんなからは「副部長のメイド服姿って何か恐くない?」「副部長、絶対きゃぴきゃぴした声なんか出さないと思う」っていう声も囁かれていたのだけれど。それは確かにそうかも知れない・・・
「そっか・・・」
あたしの返事を聞いてほっとしたように匠くんは呟いた。
「ちょっと焦った?匠くん」
匠くんの胸の内が何となく分かって、にやけてしまいそうになるのを堪えながら思わず聞いてみた。
あたしの指摘に匠くんは見る間にぱっと顔を赤くしていた。うろたえたように一瞬言葉に詰まりながら、ぷいと視線を反らした。
「ねえ?ちょっとヤキモチ焼いてくれたの?」
どうしても聞きたくなって更に聞き返していた。
匠くんは拗ねたように横を向いたまま黙ったままだった。
嬉しくなって、それからそんな匠くんがいじらしくて可愛く感じられて、匠くんの傍に行って背後からきゅっと首に抱き着いた。
「それでね、あたしちょっと思ったんだ。学校でメイド服着るのは絶対何があってもヤだけど、匠くんにだったら見せたいかなって」
匠くんはびっくりしたようにあたしの方へ振り返った。
「匠くんはあたしのメイド服姿見たい?」
匠くんの瞳を覗きこんであたしは訊ねた。
顔を赤くしながら匠くんはたじろいでいる。ふふっ。思わず顔が綻んでしまった。
少し拗ねたように、そしてちょっと口惜しそうに匠くんは口を尖らせた。
「ちぇっ・・・」
溜息交じりに匠くんが漏らした。ん?口元を綻ばせながら目で問いかけた。
「もちろん、見たいよ。それから他の奴には絶対に誰にも見せたくない」
観念したように匠くんは言った。匠くんの口から聞きたかった言葉を聞くことができて、嬉しくてたまらなくなって、ぎゅうって匠くんに強く抱き着いてほっぺにチュウをした。
「えへへ。嬉しい」
あたしがにやけながらそう言ったら、匠くんは目を丸くしてあたしの顔を見返した。
「じゃあ、今度借りられるかどうか聞いてくるね。それでもって借りられたら着て見せてあげるね。メイド服姿」
「・・・うん・・・楽しみにしてる」
匠くんは少し照れくさそうにしながら、でも何だか嬉しそうだった。
 


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