【 FRAG-ILE-MENT 】 ≪ Naked Heart 第1話 ≫


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匠くんや華奈(はな)さんもメンバーとして参加して いる、“expossession”っていう丹生谷(にぶたに)さんが主宰しているイラストレーターの人達が集まって結成したグループの、第一回作品展 「EXPOSSESSION-1 ALLYVAL」が開催されて、好評のうちに最終日を迎えた。(因みに作品展のタイトル「ALLYVAL」は、 「ALLY」(盟友、同盟者)と「ARRIVAL」(到着)から成るダブル・ミーニングの造語だっていうことが、展覧会のパンフレットに書いてあった。そ ういう多義的な意味を孕む造語っていう表現もあたしには新鮮に感じられた。)
開催期間中あたしも匠くんと一緒に作品展を観に行ったんだけど、イラストに限定されない様々な表現手法による作品が発表されていて、こういう展覧会を見る のが初体験だったあたしは、すごく面白かったしとても刺激を受けた。華奈さんは普段商業誌に掲載されているソフィスティケートされたイラストとは違った、 かなり実験的な作品を発表していて、ちょっとびっくりだった。何ていうか前衛芸術っぽい印象をあたしなんかは感じた。華奈さんは本来はそういう方向に関心 がある人なのかなって思った。華奈さん本人もそう言えばちょっと飛んでる性格の人なのだった。
匠くんはと言うと、オーソドックスなイラストを発表していた。だけど匠くんの作品を観て、あたしは一番ドキドキした。連作で、そこに描かれているのは他ならぬあたしだった。
「これ、あたし・・・だよね?」
匠くんの作品の前で思わず匠くんに確かめていた。匠くんは少し気恥ずかしそうに、それから含みのある感じで笑みを浮かべてて、だけどあたしの問いには答え てくれなかった。タイトルは『a/the picture ~mon ami』って付けられていた。複数のイラストから成る作品の中で、やがて絵の中の女 の子があたしへと移り変わっていた。何処がどうっていうのではないんだけど、だけどその変貌が分かった。作品のタイトルが孕んでいる意味のとおりに、絵の 中のことなのに、まるで絵の中の存在だった少女が絵の外へと現れ出て来たかのような印象を受けた。あたしが絵の前に立つと、更にその意味が重層化したよう に感じられた。絵の中の存在から現前化したあたしとそっくりの少女(恐らくあたし)を見る「あたし」という存在。リフレクトする眼差しに幻惑されそうだっ た。
すごく恥ずかしかったけど、それと同時にものすごく嬉しかった。匠くんがこんな風にあたしのことを見つめてくれているんだっていうことが分かって。
あたし達二人が匠くんの作品の前で立ち止まっているところに、華奈さんが近寄って来た。あたし達を見て含みのある笑みを口元に浮かべている。
「この作品を展示してる時に、佳原クンが何て言ったか萌奈美ちゃん聞いてる?」
華奈さんは匠くんを見ながら意味深な口調であたしに訊ねた。
その途端、匠くんがぎょっとしてうろたえたのが分かった。
「ちょっと!御厨(みくりや)さん!いきなり何言い出すんですか!?」
「いいえ、聞いてませんけど・・・」
あたしが答えるのと匠くんが声を上げたのは同時だった。
華奈さんは匠くんの狼狽ぶりを見て嬉しそうに「クフフ」ってほくそえんだ。
「あのね、佳原クン、この作品の動機は?って丹生谷さんに聞かれてねえ・・・」
「御厨さん!」
華奈さんの言葉を打ち消そうとするかのように匠くんは大きな声を上げた。すかさず華奈さんがキッときつい眼差しを匠くんに向けた。
「会場内で大声で話すのは控えてくださーい」
注意を受けた匠くんはぐっと言葉を飲み込んで、憤慨した顔で華奈さんを見返している。
何でこんなに取り乱してるんだろう?匠くんの慌てぶりがあたしには不思議だった。
「でね、萌奈美ちゃん。佳原クン、この作品の作成動機をね、一番大切なものを描いた、って答えたのよ」
華奈さんはそう言ってから一人で、ヒューヒューって匠くんを囃し立てた。・・・静かにって言ったのは華奈さん自身なのに、そんなことすっかり忘れているみたいだった。
匠くんは華奈さんの冷やかしを受けて真っ赤な顔で沈黙していた。
一方、あたしは華奈さんの話を聞いてすっかり舞い上がっていた。天にも昇る心地っていうんだろうか?一人でにへらっと顔を緩めきっていた。だって、あたしがいない所で匠くんがそんなこと言ってたなんて。もう嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
その後あたしはもうご機嫌で匠くんにべったり引っ付いていた。

作品展の最終日、閉会後に打ち上げが行われるっていうので、匠くんはあたしを一緒に連れて行ってくれた。あたしなんか行って場違いじゃないのかな?とも思ったけど、匠くんがそういう場にあたしを連れて行ってくれることが嬉しくて、喜んでくっついて行った。
丹生谷さんが常連ってことで、ちょっとお洒落な洋風居酒屋を借り切って打ち上げが行われた。ほとんどがグループのメンバーか関係者っていう感じだったけ ど、中にはメンバーの人の知人や友人っていうような感じの人達もいて、あたし一人が浮いた存在にはならなくて済んでほっとしていた。何より麻耶さんと栞さ んも呼ばれていて心強かった。匠くんは「何でお前がいるんだ?」って不満げな様子だったけど。
「だって華奈さんからお誘い受けたんだもーん。“是非来てね”って」
麻耶さんは気にも留めない様子でしれっと答えていた。
幹事を務める丹生谷さんが冒頭に、挨拶と第一回作品展が成功を収めて終了したことへの感謝を、グループのメンバー、関係者に述べてから乾杯になった。あたしも匠くんにお許しを貰って、乾杯のグラスにほんのちょっぴりワインを注いでもらった。
乾杯の後はもう決まった進行もなくて、各自好き好きに飲んだり食べたり喋ったりだった。あたしは匠くんの傍に引っ付いて、テーブルに並ぶ大皿料理に手を伸 ばしていた。匠くんも特に誰かと話し込んだりするでもなく、ずっとあたしと一緒にいてくれた。もともと匠くんはこういう場は大の苦手で、でも自分も参加し ている会の打ち上げっていうことで、無碍にも断れなくて仕方なく出席しているような感じだった。対照的に麻耶さんはと言えば、全然関係者でも何でもないの にあっちこっち忙しく動き回っては、親しげに挨拶を交わしたり話したりしている。麻耶さんのあの社交性には羨ましいものを感じずにはいられない。どちらか というと奥ゆかしい性格の栞さんも、あたしと匠くんと一緒に過ごしていた。
麻耶さんと華奈さんの一際大きな笑い声が響いて来て、あたし達は目を丸くして二人の方へ視線を向けた。
「ったく、何なんだ?部外者の癖してあの違和感のなさは」
「麻耶さん、誰とでもすぐ打ち解けちゃうから」
呆れ顔で呟く匠くんに、栞さんがくすくす笑いながら答えた。
栞さんの言葉を聞いて、麻耶さんって本当にいつでもその場の中心的存在になっちゃうんだなあって、感心しながらその様子を見つめていた。
「・・・萌奈美、退屈じゃない?」
黙りがちでいるあたしに、心配そうな顔の匠くんが聞いた。
「ううん。全然退屈じゃないよ」
首を振って匠くんに答えた。
栞さんがあたし達の様子を見てにこやかに笑っている。
「本当に匠さん、萌奈美ちゃんに優しいんですね」
羨ましささえ漂わせる口調で栞さんに言われて、あたしと匠くんは二人して顔を赤くした。
「佳原君」
匠くんを呼ぶ声に視線を向けると、丹生谷さんが手招きしていた。
「萌奈美、ちょっとごめん」
「うん」
申し訳無さそうな顔で言う匠くんに、あたしは全然大丈夫だから、っていうように笑って頷いた。
匠くんのことをずっと目で追っていったら、匠くんは丹生谷さんから二人連れの女性を紹介されていた。20代と思われる二人は嬉しそうな笑顔で匠くんに話しかけている。匠くんはというと、少し戸惑った顔で相槌を打っていた。
その様子を見ながら、あたしは例によって胸の中がもやもやとして、嫉妬で不機嫌な気持ちになっていた。
「・・・あたし思うんですけど、匠くんて、何気にモテてますよね?」
むすっとした口調で呟くあたしに、栞さんは目を丸くした。
「・・・萌奈美ちゃん、今まで知らなかったの?」
何を今更って感じで栞さんに言われた。
「え、だって、麻耶さん、匠くん全然モテないし、今まで彼女がいたことないって話してたし・・・」
「だって、それは今まで麻耶さんが監視の目を光らせて女の子を近寄らせなかったからでしょ?」
今初めて知らされた事実にあたしは目が点になった(気がした)。
「そもそも麻耶さんのお兄さんなんだから、一般的に言って顔立ちだってカッコいい部類に入ると思うけど」
言われてみれば、麻耶さんと匠くんは兄妹だけあって似てるっていえば似てるし、モデルをしている麻耶さんに似てるとなれば、それは取りも直さず匠くんが外 見的にカッコいいっていうことになる。もちろんあたしは匠くんが世界で一番カッコいいってずっと思ってたけど、世間的に見てもカッコいいってことになると いう事実に、少なからずショックを受けていた。
「それはね、匠さんって無愛想な所あるし自分からあまり喋らない方だから、ちょっと近寄り難いって感じる部分あるけど」
栞さんはそこで一度言葉を切った。ショックに揺らぐ頭で栞さんの言葉が途切れたことが何だか気になった。
「・・・今だから言うけど、本当は匠さんにちょっと片想いしてたのよ」
意外な告白に茫然となりながら栞さんを見つめた。未だショックから立ち直れていない所に、更なる衝撃を受けて頭の中がぐわんぐわんと激しく反響している。
栞さんは少し気恥ずかしそうにしながら、「ふふっ」と照れたように笑った。
「だけど麻耶さんが目を光らせてたからちょっと尻込みしてたのよね。そこへ突然萌奈美ちゃんが現れたから結構ショックだったんだ」
栞さんは懐かしむかのように話している。
「あっという間に匠さんの彼女になっちゃって、こんなことなら早く気持ちを打ち明けておけばよかったって、ちょっと後悔したりもしたんだから」
どういう顔をすればいいか分からなかった。
戸惑っているあたしに気付いて、栞さんは慌てたように言葉を続けた。
「あ、誤解しないでね。今はもう全然平気なんだから。今は萌奈美ちゃんと匠さんて本当にお似合いだなあって思ってるから。二人の間に割って入ろうなんて丸っきり全然思ってないから」
そう言って栞さんは少し思案顔をした。
「誰も立ち入れないって感じる。匠さんと萌奈美ちゃん、二人の間にほんのちょっとした隙間もなくて、ぴったり寄り添ってるって感じ。見てて、二人ともお互いをすごく大切に思い遣ってて、愛しい存在なんだなあって、こっちまで優しい気持ちにしてくれるの」
栞さんの言葉がすごく嬉しかった。
「今は栞さんは好きな人っていないんですか?」
「今のところ残念ながら」
あたしの不躾な質問に栞さんは笑って答えてくれた。
「萌奈美ちゃん達見てると安易な恋愛はしたくないって思っちゃう。素敵な恋がしたいなあってすごく思う」
栞さんが憧れるように言うのを聞きながら、栞さんだったら絶対にすごく素敵な恋ができるって思った。
「そう言えば」
思い出したように栞さんが呟いた。
「麻耶さん、最近付き合ってる人いるみたいなのよね」
「え!?」
びっくりして思わずあたしは大きな声を上げた。
「その様子じゃ萌奈美ちゃんも知らない?」
栞さんに訊かれてこくこくと頷き返した。
そんな話初耳だった。麻耶さんからは何も聞いてないし、そんな素振りだって全然見せてないように思った。
「麻耶さんは何も言わないからあたしもイマイチ自信ないんだけど、何となくそんな気がするの」
離れたところで楽しそうに笑っている麻耶さんに視線を向けながら、自信なさげな面持ちで栞さんは言った。
「・・・何も教えてくれないのは、自分の気持ちに麻耶さん自身もまだ迷ってるからなのかも知れない」
一緒に住んでるのに麻耶さんのそんな素振りにあたしは全然気付いてなかったし、麻耶さんの内面までそんな風に察している栞さんの洞察力に、あたしは深い感銘を覚えた。
「麻耶さんて本当に優しくて強くて素敵な女性(ひと)で、あたしいつも憧れてるの」
栞さんは言った。
「だけど一箇所だけものすごいウイークポイントがあるのよね」
「・・・匠くん、ですか?」
あたしが言うと、栞さんは静かに微笑んだ。
「ねえ。あんなに素敵な女性なのに超が付くブラコンなんだもんね、どういう訳か」
あたしもそれを聞いて内心頷いていた。本当に麻耶さん位素敵な女性(ひと)だったら、幾らだって素敵な彼氏ができるのにっていつも思ってた。
「それで心配してたんだけど、でも本当に付き合ってる男性(ひと)がいるのならすごくよかったって思う」
優しい眼差しで栞さんは麻耶さんを見つめている。麻耶さんをそんな風に想っている栞さんも、とても素敵な女性(ひと)だって思った。
「何話してんの?」
戻って来た匠くんがあたし達の様子を見て聞いた。
栞さんはとっても素敵な笑顔を浮かべて答えた。
「内緒です。ね?」
栞さんに訊かれて、「うん」って頷いた。
あたし達の返答に、匠くんは詰まらなそうな何だか少し傷ついたような表情を浮かべた。
匠くんに隠し事をするのはちょっと胸が痛んだ。だけど、こればっかりは匠くんにも教えられないし。ごめんね、匠くん。心の中でこっそりと匠くんに謝った。
その後、匠くんはしばらくずっと拗ねていた。初めはそんな匠くんを可愛いって思ってたんだけど、話しかけても「ふーん」とか「そう」とか素っ気無い返事し かしてくれない匠くんに、次第にあたしは慌てないではいられなくなった。心配した栞さんが執り成してくれても、匠くんは一向に機嫌を直してくれなかった。 えーん、そんなあ!
不安になって今にも泣き出しそうなあたしを見て、溜息をひとつ付いてから匠くんは仕方なさそうに表情を和らげた。
「ったく、これじゃどっちが悪いんだか分かんないだろ。周りからは絶対僕の方が悪いって思われるに決まってるだろうし」
匠くんがぼやくと、栞さんがすかさず突っ込みを入れた。
「それは普段の匠さんの素行に問題があるからですよ」
それを聞いた匠くんにじろりと睨まれて、栞さんは慌てて口を噤(つぐ)んだ。
そして、しゅんとしているあたしの耳元に顔を寄せた匠くんがこっそりと囁いた。
「帰ったら覚えてろよ。もう駄目って言っても許してやらないからな」
とんでもないことを告げる匠くんに、あたしは真っ赤になって焦りまくった。
ちらりと栞さんを伺ったら、恐らく聞こえてるに違いない栞さんは素知らぬ顔でそっぽを向いていた。
恥ずかしさでいっぱいになりながら、どんなスゴイことをされちゃうのか密かに期待してしまった。・・・って、わーっ!何てこと考えてるんだ!あたし!?
それからもう一つ。実は匠くんはモテるんだってことを、匠くんには絶対内緒にしておこうって思った。匠くんに聞かれないように注意しながら、栞さんにもそのことは匠くんには絶対に教えないでってこっそりお願いしたら、栞さんは呆れるように笑った。
「そんな心配いらないわよ。匠さん、萌奈美ちゃんに首ったけなんだから」
顔を赤くしながらも、そう言われてとっても幸せな気持ちだった。

二次会へと流れて行く丹生谷さん達の誘いを、まだ高校生のあたしを夜遅くまで遊び回らせたくない匠くんは断った。
「あたし、一人で帰れるから」
そう主張しても匠くんは首を横に振った。
「匠くん心配し過ぎ。あたしだって小さい子供じゃないんだよ」
「そういうことじゃなくて」
あたしが抗議すると、匠くんはそう答えた。匠くんははっきりとは言わなかったけど、でも匠くんの気持ちが何となく分かって、あたしのことをものすごく心配してくれていることが嬉しくて、とても幸せに感じた。
麻耶さんはといえば、当然のように華奈さんと連れ立って二次会に向かう一行に加わっていた。栞さんはどうしようか迷ってたみたいだったけど、麻耶さんに半ば連行される形で、二次会に強制参加させられることになってしまったようだった。
別れを告げるあたしと匠くんに手を振ったみんなは、二次会の席へと歩き出した。ぞろぞろと歩いていく一行の中にいる麻耶さんの後ろ姿を見つめながら、あた しは栞さんの話を思い出していた。本当に麻耶さん、付き合ってる男性(ひと)いるのかな。もし本当にそういう人がいるなら、いつか話して欲しいなって思っ た。
みんなを見送ったあたしと匠くんは、それからみんなとは反対の方向へと歩き出した。歩き出してすぐに匠くんはあたしの手を握った。匠くんと手を繋いでいるだけで温かくて幸せな気持ちになれた。
「それに言っただろ」
唐突に匠くんが口を開いたので、何のことかって隣を歩く匠くんを見上げた。匠くんはちらっと横目であたしを見てから言葉を続けた。
「帰ったら覚えてろって。あの様子じゃ多分今日は麻耶帰ってこないだろうし。・・・今夜は寝かさないからな」
えーっ!?心の中で大声を上げた。あれって冗談じゃなかったの!?耳まで赤くなりながら、あたしは匠くんの真意を測りかねてその横顔を見つめ続けた。あた しの視線を感じた匠くんは、うろたえているあたしを見て不敵な笑いを浮かべた。あたしは何だか怖いような、それでいて期待でドキドキと胸が高鳴るような、 複雑な心境になった。

帰りの電車の中で匠くんと並んで吊り革に掴まっていた。夜の10時を過ぎた埼京線の下り電車は結構混み合っていた。遅くまで残業していて疲れているのか、 ぐっすりと眠り込んでいるサラリーマンの人。ドア付近で賑やかに話している大学生らしきグループ。酔っているのか赤い顔でご機嫌な様子の背広姿のおじさん 達。こんな時間まで何をしていたのか不思議に思わずにいられない、すっごいスカートを短くした女子高生の三人組。色んな人達が同じ電車に乗り合わせて家路 を辿っている。
「匠くん」
「ん?」
匠くんはあたしに呼ばれて問うような視線を向けた。
「あのね、麻耶さんて付き合っている人いるのかな?」
「はあ?」
あたしの問いかけに匠くんは素っ頓狂な声を上げた。近くにいた人達が一瞬匠くんに視線を向けた。周囲の視線を受けて匠くんは焦ったように口を閉じた。匠くんはあたしの方へと顔を寄せながらひそひそと話しかけた。
「・・・突然何?」
「ごめん」
少し非難めいたニュアンスを感じてあたしは謝った。
「ただ匠くんは何か気がついたところとかなかったかなって思って」
「全然。大体、恋人とかできれば普通もうちょっと様子変わったりとかするんじゃないか?あいつ見てる限りそんな素振り丸っきりないし」
匠くんは“丸っきり”のところを強調して答えた。
匠くんの発言を聞いて、ちょっと麻耶さんに失礼なんじゃないのかなって思った。

けれども、麻耶さんって基本的には人懐こいし、すごく親しみ易くてオープンな性格なんだけど、本心とか周りに悟られないでいるの、ものすごく上手だよね。
あたしは匠くんへの麻耶さんの想いになんとなく気付いていた。だけど麻耶さんはそのことを絶対に秘密にしておきたいって思ってるだろうから、あたしも胸の中に秘めて絶対に口にしないって心に決めている。
当の匠くんには一番知られたくないに違いなくて、実際いつも匠くんのことを茶化してばかりで、麻耶さんは見事に本心を隠し通し続けている。ともすれば、そ んなあたしの考えはただの気のせいなんじゃないかって思えてきそうな位、麻耶さんの態度は徹底していて、匠くんへの麻耶さんのからかいぶりは容赦のないも のに見えた。
一方の匠くんは、麻耶さんのことに関心を払ってないトコがあるっていうか、あまり麻耶さんの行動とか心境に注意を向けていないように思える節があった。
麻耶さんも匠くんも、一見二人してお互いにいつも茶化したり、憎まれ口言い合ってばかりいるように見える。表面上はね。でも、ちゃんと分かってるんだか ら、あたしには。本当は二人ともすごくお互いのことを大切に思っていて大好きなんだってこと、あたし知ってるよ。思わずヤキモチ焼いちゃうくらいね。
麻耶さんのカムフラージュはとっても上手で、麻耶さんの周りにいる人達の中で麻耶さんの本当の気持ちに気付いてるのは、栞さんの他ほんの僅かな人達なん じゃないかな。でもって、その麻耶さんの気持ちを知ってる人達は、麻耶さんをとても大切に思っていて、麻耶さんのことが本当に大好きで、決して麻耶さんを 傷つけたりしないんだって思う。だから密かに麻耶さんのことを心配しながら、麻耶さんに早く素敵な人が現れたらいいなって心から願っているんじゃないか な。匠くんだって、麻耶さんに恋人ができたら口では茶化すようなこと言うかもしれないけど、心の中では本当に祝福してあげるに決まってるんだから。
あたしも栞さんの勘が当たってくれてたらいいなって思う。麻耶さんにとても大切なすっごく大好きな人が現れたのが本当だったらいいなって心から思う。

・・・それにしても。
ちらりと隣の匠くんの横顔を盗み見た。
栞さんが匠くんに想いを寄せていたことがあったなんて・・・考えてみたら結構危なかったんじゃないだろうか?もしあたしに勇気がなくてもたもたしていた ら、或いは栞さんが告白していて、今こんな風に匠くんの隣で幸せな気持ちでいられなかったかも知れない。そう考えると冷や汗が出そうだった。つくづく勇気 を振り絞って果敢にアタックし続けてよかったって思う。
それからあたしは栞さんの話を思い出していた。
“一般的に言って顔立ちだってカッコいい部類に入ると思うけど”
頭の中に、さっきの打ち上げの席で丹生谷さんに紹介されて匠くんと話していた女の子達の姿が浮かんだ。
ちりちりとした鈍い痛みが胸に走った。何だか突然焦りを感じた。
それは確かにあたしは匠くんと婚約していて、それはかなりアドバンテージになってるって思うけど、でも今のこの世の中婚約破棄っていう事態だって有り得る し、或いは例え結婚したとしたって離婚することだってあるんだよね。そう考えたらあたし、この先ヤキモチ焼いたりせずに心から安堵できることなんてあるの かなって不安に思わないではいられない。
そう春音に言ったら鼻で笑われたし、結香に言ったら呆れられたし、聖玲奈に至っては白い目を向けられた上、思いっきり馬鹿にされた。曰く「聞いてて超恥ず かしーんだけど・・・お姉ちゃん達ってひょっとしてバカップル?」・・・あんまり失礼なこと言うので思いっきりぶってやった。もちろんグーで。そしたら 「暴力はんたーい!テロリズムを許すなー!」とか言うのでもっかいぶってやろうかって思ったら、一足早く自室に逃げ込まれてしまったのだった。よっぽどド アをぶち壊してやろうかとも思ったけど、そこまでやると流石にママに怒られるので止めておいた。
ともかく、もっともっと魅力的ないい女になって、匠くんの目を釘付けにしちゃうんだ。胸の中でそう固く決意していた。
・・・それから、えっと、テクニック?にも磨きをかけて、匠くんをあたしの身体の虜にしちゃうんだから。
って、自分でそんなこと考えてあんまり恥ずかしくて、一人顔を真っ赤にしていた。
「どうかした?」
不意に匠くんが聞いてきたのでうろたえてしまった。
「えっ?何で?」
「いや、黙り込んでるからどうかしたのかなと思って」
「ううんっ。別に何でもないよ」
赤い顔をしながら慌てて笑顔を作った。そして匠くんの左手に手を伸ばして手を繋いだ。
突然こんな電車の中で手を繋がれて、匠くんはちょっと恥ずかしそうで慌てたみたいだった。そんな匠くんが微笑ましかった。匠くん、こういうトコ相変わらず なんだよね。人前でこんな風に手を繋いだりあたしが引っ付いたりすると、いつもどぎまぎして照れて気恥ずかしそうな顔になっちゃう。そういう匠くんがとっ ても愛しかった。
あたしが嬉しそうな笑顔を向けたら、匠くんはちょっと困ったように、それでも嬉しそうに笑顔を返してくれた。

◆◆◆

匠くんの熱い喘ぎが耳朶を打っていた。
その声に自信を深めて、一層激しく匠くんの強張りに舌を這わせた。硬くそそり立っている先端のくびれを尖らせた舌先で突付く。
「くうっ!うあっ・・・」
鋭い喘ぎと共に匠くんの身体が弓なりに反り、あたしの鼻先で最大限に勃起したペニスがびくびくと激しく跳ねた。
あたしは帰りの電車の中で誓った決意を早速実行していた。部屋に戻ってからすぐに一緒にお風呂に入り、匠くんの身体を洗ってあげながら匠くんの股間のものを刺激し続けた。
ベッドに横たわる匠くんの開いた両足の間に寝そべって、今あたしはいきり立った匠くんのペニスを口で愛撫し続けていた。
匠くんのペニスも陰嚢も、すっかりあたしの唾液に塗れて濡れていた。
あたしは大きく口を開いてペニスを深々と飲み込んだ。そしてペニスの根元近くまで咥えると、ゆっくりと頭を引き上げ、きつく結んだ唇でペニスの幹を擦り立 てた。ペニスの張り出した先端部だけ口の中に残し、舌を絡めて先端部を舐め回した。そして再びゆっくりとペニスを飲み込む。その動きを繰り返しながら、少 しずつスピードを速めていく。
ぬるぬると唇でペニスを摩擦されて、匠くんは苦しげな喘ぎを放ち続けている。その声を聞いてあたしの身体の奥が熱く疼いていた。
胸を昂ぶらせながらあたしはより一層熱意を込めて、匠くんの屹立したペニスを唇で摩擦し続けた。あたしの唾液と匠くん自身から滲み出した粘液で、あたしの 唇も匠くんのペニスもぬるぬるになっていた。あたしが頭を上下させる度に、ぬちゃぬちゃという濡れた淫靡な音が上がっている。そのいやらしい響きに頭の中 がかっと熱くなった。たまらなく恥ずかしくて、その恥ずかしさを紛らわそうとして、一心不乱に匠くんの強張りを唇で擦り立て続けた。
「あううっ!あっ、く!も、なみっ!駄目だっ!」
匠くんの切羽詰まった声が聞こえた。あたしの口の中で激しくペニスが暴れている。もう限界みたいだった。
匠くんは一瞬腰を引いてあたしの口からペニスを引き抜こうとした。でもあたしは両手で匠くんの腰を押さえつけ、体重をかけて匠くんの動きを封じた。そして頭を激しく上下させて唇での愛撫を続けた。口の中で舌も絡めて敏感な先端部を刺激を加える。
「うああ!・・・うっくうっ!イ、クっ!」
匠くんが叫び、身体が跳ねた。口の中の強張りが一際大きく脈打ち、先端部が膨らんだように感じた次の瞬間、激しく噴き出したものがあたしの口蓋を強く打っ た。何度も何度も激しい勢いで射出されるものに喉を塞がれないように、舌の裏を噴出する先端部に当てた。そうしながら口での摩擦を続け、更なる射精を促し た。
激しく射精し続けているペニスに刺激を加えられて、匠くんは苦しげな呻きを漏らして身を捩じらせた。あたしは匠くんを逃がさないように身体を圧し掛からせながら更にペニスを摩擦し続けた。
「うああっ・・・」
苦痛に近い快感に匠くんはがくがくと腰を震わせた。
やがてあたしの口の中で、脈打つペニスからの噴出は弱まっていった。完全に射精が収まったペニスはひくひくと震えている。
未だに慣れないその青臭いような匂いと粘つきに眉を顰めながら、それでも躊躇いもなく口の中いっぱいに溜まった匠くんの精液を飲み下した。飲み込むときあたしの口蓋が匠くんのペニスをきつく挟みこんで、その刺激にペニスがびくびくと激しく脈打った。
口の中の精液を全て飲み干し、唇をきつく結んでペニスのぬめりを擦り取るようにしながら口から匠くんの強張りを引き抜いていった。その強い刺激に射精直後 で敏感になっている匠くんのペニスは、びくんびくんと跳ね続けた。口から引き抜くとき、ちゅうっと先端部を強く吸い上げ、中に残った精液の一滴まで吸い取 ろうとした。
あたしがペニスから口を放すと、匠くんはやっと安堵したようにがっくりと全身の力を抜いてベッドに身体を沈めた。
匠くんの様子に満足しながら、大きく息を吐いて一仕事終えた気持ちになった。
だけど、あたしの身体の奥の疼きはもう我慢できないほど昂ぶっていた。早くこの熱い疼きを鎮めたかった。
放心したように横たわっている匠くんの身体の真ん中で、依然として硬くいきり立っているペニスにあたしは跨ろうとした。でもあたしが身体を沈めるより早く、焦った様子で匠くんがあたしの腰を抑えて制止させられてしまった。
「萌奈美っ、まだゴム着けてない!」
ちぇっ、残念。心の中で舌打ちした。てっきり匠くん放心状態で気付かないって思ったのに。
「着けない方が匠くん気持ちいいでしょ?」
あたしは甘えた声で訊ねた。
「ゴム着けてたって萌奈美の中は滅茶苦茶気持ちいいよ」
間髪入れずに匠くんに返されて言葉に詰まった。おっとお。そんな風に返されたらちょっと嬉しくって次に何て言おうか分かんなくなっちゃう。
「えっとお、多分大丈夫だと思うよ」
愛想笑いを浮かべながら更に言った。
「多分、でしょ?絶対じゃないよね?だーめ」
うーん。匠くんってこういう場面でも流されないんだなあ。嬉しいような残念なような。
聞くところでは男の人って本音は着けずにしたいものらしいけど。・・・あたしも匠くんと経験してからというもの、周りから色んなそのテの情報を耳にするよ うになっていた。“周り”って言っても、ほとんど結香と祐季ちゃんの二人からなんだけどね。あと、たまーに千帆からも。でも千帆はそういう話恥ずかしいみ たいで滅多にしないんだけど。何かの流れでたまたまそういう話題になったりした時に、ちょこっとするだけなんだよね。あたしはと言うと、そりゃあもちろん 恥ずかしいけど、でもみんながどうなのか気になるし、匠くんともっともっと気持ちよくなりたいって思ってるし、それに何て言ったって、いっぱいテクニック を磨いて匠くんをあたしの虜にしちゃうんだもん。春音はどうかと言えば、自分だってしっかり冨澤先生とそういうことしてる癖に、全然関心ない素振りでその テの話に加わってこないんだよね。どっちかって言うと春音の場合は、エロティシズムとか人間の根源的な欲望とか、アカデミックっていうか難しい方向にすぐ 話が流れていっちゃうんだよね。それはそれで聞いてて面白いんだけど。
「きゃっ!」
あたしが一瞬物思いに耽っていたら、匠くんが素早く身体を起こしてあたしをベッドに組み敷いた。呆気に取られて匠くんを見上げるあたしに、匠くんは嬉しそうに呟いた。
「さあて、じゃあそろそろ本題に入ろうかな」
「なあに?本題って?」
何のこと?って顔で聞き返すあたしに、匠くんはにっこりと笑った。
「あれ?忘れちゃった?言ったよね。今夜は寝かさないって。もう駄目って言っても許してやらないって」
・・・すっかり忘れてた。って言うか、それって絶対冗談でしょお?
「明日、学校あるんだけど・・・」
あたしが控えめにそう告げても、匠くんは一向に意に介さなかった。
「んー?別に僕が行く訳じゃないし」
「そんなあ。授業中居眠りしちゃうかも知れないよお」
「叱られるの別に僕じゃないし」
「寝ないと目の下に隈できちゃうし」
「気にしない気にしない」
「そしたら絶対結香達に冷やかされちゃうよお。隈作るほど何してたのかって」
「気にしない気にしない」
「あたしは気にするのっ」
「聞こえません」
あたしの抗議にも一向に聞く耳を持たない匠くんは、覆い被って来てあたしの胸に顔を埋めた。乳首が濡れた唇に咥えられていた。ちゅっと強く吸われ、その瞬間ぞくりと背筋が震えた。
「あっ、ダメえっ!待ってっ、匠くんっ!」
必死に身を捩って襲い来る快感から逃れようとしたけれど、匠くんにがっちりと身体を押さえつけられてしまって全然身動きできなかった。
ちゅっちゅっと何度も音を立てて乳首を吸われ、あたしの身体はすぐに反応し始めていた。硬く乳首が尖り、びりびりと熱い快感があたしの身体を駆け巡った。身体の奥で燻っていた疼きがたちまち激しく燃え立ち始める。
「あっ、やあっ、あんっ」
自分の口から制止を求める声はすぐに止み、代わりに熱い喘ぎが漏れ出すのが聞こえていた。
匠くんは始めからあたしをじらすつもりはないみたいだった。すぐに匠くんの右手が閉じた両足を割ってあたしの感じる部分をまさぐり始めた。
匠くんの指が這い回っているそこは、さっき匠くんのものを口で愛撫していたときからずっと昂ぶり続けていて、身体の奥から蕩け出る粘液でぬめっていた。そ のぬめりを纏わりつかせてぬるぬるになった匠くんの指が、あたしの入口の襞をゆるゆると擦る。甘美な快感に襲われ身体が勝手にびくびくと打ち震えた。
「ああんっ、あふっ」
媚びるような甘い声が自分の口から漏れていく。もっと強い快感が欲しくて、自分から腰を押し付けて匠くんの手を太腿で挟み込んだ。
濡れた唇をゆっくり擦っていた匠くんの中指が、ぬるり、とあたしの膣に潜り込んだ。膣内は熱くぬめり何の抵抗もなく容易く匠くんの中指を根元まで飲み込む。そして匠くんの指の腹があたしの内側の襞を擦り立てた。
言葉に表せないほどの強烈な快感が、匠くんの指で擦り立てられているその部分から、あたしの身体を駆け上っていった。がくん!と身体が弓なりにしなる
「あっ!あーっ!」
抑えようもなく大きなよがり声を上げていた。
だけど更なる快感が次々にあたしの身体を貫いた。あたしの中に潜り込んだ匠くんの指は、あたしの膣の奥深くを強く擦り立て続けた。連続するすさまじい快感に襲われ、あたしの身体はびくびくと悶え、跳ねた。
「あはあっ!あーっ、あ、くうっ、んっ!あああ!」
髪を振り乱しながら絶え間ない喘ぎをあたしは放っていた。
膣襞を擦り立てられ幾度も幾度も激しい快感に貫かれ、強張らせたままの身体をぶるぶると震わせて耐えた。あたしの身体は何度か小さな絶頂に襲われていた。 もっともっと大きな快感に貫かれたくてたまらなくなっていた。匠くんの指をもっと奥深くに迎え入れようと腰を躍らせた。でも匠くんはあたしの意に反して、 あたしの内側を擦り立てる動きを弱めてしまった。そしてまだあたしの快感が燻っている状態のまま、あたしの中から抜け出てしまった。
懇願するような眼差しで匠くんを見上げた。落ち着いた眼差しで匠くんはあたしを見下ろしている。
激しい羞恥を感じながら、でもお願いしないではいられなかった。もうどうしようもないほど昂ぶっているこの身体の疼きを鎮めて欲しかった。熱く疼き続けているあたしの奥深くまで匠くんの硬く屹立したもので貫いて欲しかった。
「匠くん、ちょうだい」
喘ぎ続けて擦れた声で匠くんにお願いした。
「何を?」
とぼけるように匠くんに聞き返された。
今夜の匠くんはちょっと意地悪だった。打ち上げの時にあたしが栞さんと内緒話してて、匠くんに教えてあげなかったのをまだ根に持ってるのかも知れない。 “帰ったら覚えてろよ。もう駄目って言っても許してやらないからな”って言ってたし。ちょっとあたしを苛めるモードになってるのかも。
匠くんにとぼけられて、あたしは恥ずかしさに一瞬迷ったけど、でも身体の奥がずきずきと疼くのを、もう我慢していられなくなっていた。顔を真っ赤にしながら恥ずかしいお願いを口にした。
「匠くんの・・・おちんちん、ちょうだい」
「どこに欲しいの?」
「!」
心の中で抗議した。もおっ!匠くんの意地悪っ!
恨みがましい視線を向けても、匠くんは涼しい顔であたしのことを見下ろしている。あたしの負けだった。
「・・・匠くんのおちんちん・・・を、あたしの・・・アソコ、に・・・」
「アソコって?」
「!・・・もおっ!匠くんの意地悪ーっ!!」思わずあたしはさっき心の中で上げた抗議を声に出して言った。
「言って、萌奈美。萌奈美が言うの、聞きたい」
匠くんの唇が耳元に触れるほどの近さで囁く。ぞくりと背筋が震えた。
匠くんに両手を回してしがみつきながら固く瞼を閉じた。もうどうにでもなれ!って半ば自棄(やけ)になって告げた。
「匠くんのおちんちんっ、あたしのっ・・・お××こにちょうだいっ!」
「よく言えました。エッチだね。萌奈美」
クスリと笑った匠くんが、満足げにあたしに言った。匠くんにエッチだって言われて、全身を激しい羞恥に襲われた。かあっと顔が燃えるように熱くなった。
次の瞬間。ちゃんとゴムを着けた匠くんの硬いペニスがあたしの中に押し込まれた。
「あああーっ!」
匠くんのものに貫かれたって感じた刹那、あたしは激しい絶頂に達していた。弓なりに反らした身体を硬直したまま、わなわなと震わせた。
だけど匠くんはまだまだこれ位で許してはくれなかった。
小刻みに震えて絶頂に貫かれているあたしの身体に圧し掛かったまま、匠くんはあたしの下腹部に強く腰を打ちつけた。ズン!と重い快感があたしの身体の奥深くを抉った。
「ひっ、あああーっ!」
一瞬息を呑んで身体を強張らせたあたしは、身体の奥で爆発するような強烈な快感に叫んでいた。
匠くんは深くペニスを突き入れたまま、小刻みに腰を打ちつけてあたしの膣の奥深くを抉りたてた。ズン!ズン!と波のように押し寄せる重い快感で熱くぬかる んでいる最深部を突き上げられ、あたしの中で幾つもの爆発が起こった。頭の中で何度も閃光が破裂し、思考は眩い光芒に飲まれた。意識が遠退いていった。
ああああああああーーっ!!
絶叫のような自分の喘ぎが薄れゆく意識に微かに聞こえていた。
 


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