【
FRAG-ILE-MENT 】
≪ Happy ,Happy New Year! 第4話 ≫
さて、と。
みんな帰り際片付けや洗い物を手伝ってくれたので、大して手間取ることもなく部屋の片付けを終えた。
お風呂をつけてこようかな。それから・・・どうしようかな?また匠くんと二人っきりで過ごす時間の訪れを感じた。またお風呂一緒に入っちゃおうかな?お風呂出たらどうしようかな?また二人ですぐにベッドに入っちゃう?色々と思いを巡らせた。
お風呂のスイッチを入れてリビングに戻ったら、匠くんが部屋着に着替えてお茶を淹れてくれていた。
「萌奈美、明日どうしようか?」
突然聞かれてちょっと戸惑った。
「明日?」
「うん。初詣まだ行ってないから行く?」
匠くんにそう言われて、ああ、そうか、って思った。
「うん。そうだね。初詣行こうか?」
「何処行く?」
匠くんは聞いたけど、あたしの中では少しも迷わず初詣に行くところは決まっていた。
「えっ?調宮神社でいいんじゃない」
正確には調宮(つきのみや)、或いは調(つき)神社って言うらしいのだけれど、何となく昔からあたしは(というか阿佐宮家では)調宮(つきのみや)神社って呼んでいる。(「調宮(つきのみや)神社」では「宮」と「神社」が重複してしまっているらしい。)
初詣っていうと県内では「武蔵一ノ宮」とも呼ばれる大宮の氷川神社の方が断然有名で、参拝客の人数も全然多くて、或いは川越の喜多院とか有名だけれど、調
宮(つきのみや)が浦和の地元の神様っていう感じがしてあたしは好きだった。それに狛犬ならぬ狛兎(こまうさぎ)っていうのもなんだか変わってるし可愛い
ので愛着を感じている。(多分、「調(つき)」と「月」の言葉をかけていて、月に縁のある「兎」なんだと思う。)そういう訳で調宮(つきのみや)があたし
のお気に入りなのだ。
「その後どうする?」
「その後?」
その後のことは全く考えていなかったので、鸚鵡返しに聞き返していた。
「初詣だけだったらすぐ済んじゃうだろうし、何処か行こうか?」
匠くんの問いかけに、うん、って頷きながら、でも何処へ行こうか?って考えあぐねていた。
「匠くんは?何処か行きたいとこある?」
あたしが聞き返したら、匠くんはうーん、って唸ってちょっと思案顔をした。
「何だったらさ、初詣は午前中早いうちに行って来て、それからレイクタウンでも行ってみる?」
レイクタウンは今更説明不要だとも思うけど、越谷に出来た一大ショッピングセンターだ。ジャスコと専門店で構成されていて、その端から端までは全長数キロ
だかにも及ぶ巨大なショッピングモールなのだ。オープンして間もない頃家族で行ったことがあるけど、まだ匠くんとは行ってなかった。
そのお隣の三郷市では「ららぽーと新三郷」が昨年の9月にオープンしていて、家具インテリアの「IKEA新三郷」、外資系スーパーマーケット「コストコ新
三郷倉庫店」とで巨大ショッピングエリアを構成しているのだけれど、こちらは昨年オープンしてすぐに匠くんと麻耶さんと三人で出掛けていた。
即座に匠くんの意見に賛同した。
「うん。行きたい」
「じゃあ、そうしよう」
「初詣は何時頃に行く?」
「そうだなあ・・・9時くらいに着くように行ってみようか?」
9時に行って初詣を済ませれば、レイクタウンにはまだ混み出す前の11時前くらいには行けるだろうって思った。
「レイクタウンへは車で行く?」
あたしが聞いたら匠くんは悩ましそうに眉間に皺を寄せて考えながら言った。
「道が渋滞しちゃうかも知れないから電車の方がいいんじゃないかな?萌奈美は電車でもいい?」
ちょっと伺うように匠くんはあたしを見た。
電車だとあたしが嫌がるかも知れないって匠くんは思ったのかな?確かにそういう女の子もいるのかも知れないけど。歩くのやだ、とか電車とか乗るの面倒くさーい、とか。でも、あたしは全然電車で構わないし。
「うん。全然構わないよ」
笑って答えた。
「うん。じゃあ、そうしよう」
あたしの返答に匠くんはほっとしたように言った。
途端に明日が楽しみになった。
「じゃあ、早く寝なきゃね。7時には起きるでしょ?」
「まあ、そうだけど。でも学校行く時よりは遅いと思うけど」
でも、あたしは昔から明日が待ち遠しいとなかなか寝付けなくなってしまう性格なので、できれば早くベッドに入りたかった。
匠くんもあたしのそんな性格は知っているので、あたしが「そうだけどー・・・」って何か言いたげな様子で言い淀むのを、可笑しそうに笑っていた。
お風呂が沸くとあたしは匠くんを急き立てて一緒にお風呂に入った。その方が早いし。一緒に入っちゃった方がガス代とか節約できるし、だから。・・・決して、エッチな気持ちでじゃないんだから。念のため言っとくけど。
お風呂を出て二人でベッドに入った。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
灯りを消して匠くんと身体を摺り寄せて互いの身体に手を回して抱き合った。
匠くんの温もりを感じながら目を瞑って早く眠ろうって思った。
だけど・・・いつもそう願って早く眠れたことは一度もなかった。気持ちばかり逸ってさっぱり眠くならない。
じっと目を瞑っていたら近くに顔を寄せる気配を感じた。
目を開けてじっと暗闇の中を凝視した。じきに目が暗闇に慣れてきて、すぐ間近に匠くんの顔があるのがぼんやりと分かった。
「何?」
あたしは問いかけた。
「いや・・・ちょっと気になって。眠れそう?」
あたしの寝つきの悪さは匠くんもよく知っていて、暗がりの中でぼんやりと見える匠くんはあたしの様子を伺うように覗き込んでいた。
「・・・全然」
絶望的な気持ちで返事をした。
あたしの言葉に匠くんは少し笑いかけたみたいだった。
一方、匠くんはすごく寝つきがよかった。あたしと明かりを消してベッドの中で小声で話していると、さっき横になったばかりだっていうのにいつの間にか匠く
んは寝息を立てているのだ。匠くんの寝つきのよさをあたしはいつもすっごく羨ましく思っていた。できるんだったら匠くんの寝つきのよさを半分あたしにも分
けて欲しい位だった。
「どうしたらいい?」
あたしが聞いたら匠くんは鼻先がつきそうなくらい顔を近づけて囁いた。
「まだ10時回ったばっかりだしね。いつもはこの時間にはまだ起きてるし」
そうなのだ。冬休みに入ってからは特に夜更かし気味になっていて、毎晩のように匠くんと二人で遅くまでケーブルTVとかDVDとかの映画を見ていたりするので、全くもって眠くならないのだ。
「少し身体動かしたら疲労を感じて眠りやすいかもよ?」
匠くんは意味深な感じでもっともらしく言った。薄暗闇の中の匠くんの顔に目を凝らすと、少し口元がニヤけているように見えた気がした。
「本当?」
「どうだろう?」
疑るような眼差しを送るあたしに、匠くんはとぼけるように答えた。
心の中で小さく、もうっ、って文句を言った。
匠くんの背中に回していた手で匠くんの頭を掻き抱いて、鼻先をぎゅっと押し付けた。
「匠くんが眠らせてくれるの?」
「誠心誠意努力します」
はぐらかすような匠くんの返答に、「もうっ!」って今度こそ声に出して、あたしは匠くんに圧し掛かった。
そのままあたしから匠くんの唇にキスをした。焦らしたりせず、すぐに深く舌を差し入れて匠くんの口腔を貪った。自分から強く下腹部を擦り付けた。匠くんのものは雄雄しくいきり立っていて、あたしの下腹部に押し付けられていた。
夢中で匠くんの舌に自分の舌を絡めて、両手で匠くんの身体をまさぐりながら、頭の片隅で大晦日から三日続けて毎晩匠くんとセックスしてるって思っていた。
何だかセックス三昧って感じのお正月だった。それはそれで幸せを感じられて全然いーんだけどね。匠くんと肌を触れ合わせてひとつになるのはたまらなく気持
ちよくて、たまらなく幸せだった。
荒い息遣いを暗い部屋に響かせながら、あたしと匠くんは激しい行為にのめり込んで行った。
◆◆◆
匠くんは約束を守ってくれた。
あたし達は激しく愛し合って(当然一回では終わらなくて)、全身を最高の快感に幾たびも貫かれた後、くたくたになった火照った身体を抱き締め合ったまま、いつしか深い眠りに落ちていた。
目覚まし時計代わりにセットしてある携帯から流れるミスチルの「ファンファーレ」に起こされるまで、ぐっすりと眠っていた。
時間を確かめたら午前6時半だった。携帯を止めて身体を起こした。携帯の曲が鳴っても匠くんはまだ眠ったままだった。その寝顔が無心に眠りを貪っている感じであんまり安らかだったので、微笑ましくて思わず笑ってしまった。子供みたいな寝顔で可愛いな、って思った。
ベッドから出て立ち上がったら少し身体に気だるさが残っていた。甘くて激しい昨夜の記憶が鮮明に甦って来て、身体の奥に微かに甘い疼きを感じた。
心の中でえいっ、って気合を入れて、何も身に着けていないままの格好でバスルームにシャワーを浴びに向かった。
あたしがシャワーを終えて戻っても匠くんはまだまどろみの中だった。
「匠くん、起きて。初詣行くの遅くなっちゃうよ」
ちょっと可哀相にも思ったけど匠くんの身体を揺すって起こした。何度か声をかけて身体を揺さぶっている内に、うーん、って呻きながら匠くんは目を開けた。
「匠くん、ごめんね。でも、もう起きて支度しないと初詣行くの遅れちゃうよ」
ベッドの縁に腰掛けて、まだぼんやりとした瞳の匠くんを覗き込んで言った。
「・・・ああ、うん。ごめん、分かった」
匠くんはぼうっとした様子で答えて、のろのろと身体を起こした。
「眠いのにごめんね。ご飯の支度しとくから匠くんシャワー浴びてきて」
そう言って、寝ぼけ眼の匠くんに軽くおはようの口づけをした。
「ん、分かった」
匠くんは条件反射のようにあたしの唇を受け止めながら頷いた。
匠くんがシャワーを浴びに行くのを見送ってから、お雑煮を作り始めた。おつゆは作り置きしてあるのが冷蔵庫に入ってるので温め直せばよくて、火にかけたおつゆの鍋に鶏肉と三つ葉を加えた。その横でお餅を焼いた。匠くんに三つあたしは一つ。
匠くんがシャワーを終えるのを待って、お椀に焼けたお餅を入れ、おつゆを注いだ。
まだ濡れている髪をバスタオルで拭きながら匠くんがリビングに戻って来た。
「匠くん、おせちはいい?」
おせち料理を用意してると時間かかっちゃうし、これから出かけるのにお腹いっぱいになっちゃうから。
「うん。いいよ」
匠くんは頷いてくれた。
「はい、匠くんどうぞ」
匠くんが腰を下ろしたダイニングテーブルにお雑煮の入ったお椀を置いた。
「ありがとう。いただきます」
匠くんはお箸を持つと嬉しそうに言った。
「どうぞ、召し上がれ」
お茶を入れながらこっそりと匠くんの表情を伺った。
匠くんはまずおつゆを一口飲んでからお餅を齧った。齧り付いたお餅が伸びて、匠くんはお箸で押さえながらお椀と口元を離した。お餅は長く伸びてやがてぷつりと千切れた。
もぐもぐと口を動かしていた匠くんは、お餅がまだ口の中に入ったまま少しくぐもった声で「うん、美味しい」って言って笑顔を見せてくれた。
「ありがとう」
ほっとして匠くんの言葉に嬉しくなりながら、熱い烏龍茶を匠くんの前に置いた。
あたしも匠くんの向かいに座って「いただきます」って告げてお雑煮を食べ始めた。
オデッセイを神社の近くのコインパーキングに停めて、あたし達が調宮に到着したのは9時を少し回ったところだった。元日でもないのでこの時間には参拝客の姿もまだ少なくて、境内は割合に空いていた。
朝早くの神社は空気が冷たくて凛としていて清清(すがすが)しかった。何処と無く厳粛で神々しい感じがした。あたしと匠くんは古い御守りを返してから清めの水で手を濯いだ。
それからあたし達はお賽銭を投げて新春のお願い事を済ませると、破魔矢と御守りを買った。御守りはあたし、匠くん、麻耶さんの分に加えてあたしの実家、それと匠くんのお父さんお母さんの分を買った。
初詣を終えたあたし達はまたマンションに戻って車を駐車場に置き、破魔矢と御守りを部屋に置いてから、武蔵浦和駅に向かい、電車で越谷レイクタウンに向かった。武蔵野線の下り電車はお正月でも混んでいて、あたしと匠くんは並んで吊り革に掴まった。
窓から見える景色は東浦和駅を過ぎた辺りから畑や原っぱといった光景が広がり始め、それが突然開けてマンションや新興住宅地、そしてものすごく大きなショッピングセンターが唐突な感じで現れた。本当に野原の中にそこだけポツンと違う世界が広がっているみたいに見える。
車内に越谷レイクタウン駅への到着を知らせるアナウンスが流れ、車内の人達に動きが見られた。
電車が駅に停車してドアが開くと、車内にいたかなりの人達が雪崩れのようにホームへと流れ出した。あたし達もその流れに押されるように電車を降りた。エス
カレーターを下って駅の改札を抜ける。先を見渡したらぞろぞろと長い人の列が、駅からショッピングセンターへと繋がっていた。まだ午前中なのにすごい人手
だった。
「うわあ、すっごい人」
溜息交じりに呟いた。
「みんな、お正月でやることなくて暇なんだな」
匠くんも呆れるように言った。
それから匠くんは、まあ仕方ないって感じであたしと視線を交わすと、手を繋ぎ合って人の列に混じって歩き出した。
駅寄りの建物は「kaze」、駅から離れた位置にある建物は「mori」っていう名前がついている。あたし達は駅を出てすぐのところにあるエスカレーター
でkazeの2階フロアに入った。入口でフロアガイドを貰って広げ、通路の左右に立ち並ぶお店をきょろきょろと眺めながら先に進んだ。まず「ZARA」と
「francfranc(フランフラン)」を見て回った。それから「ヴィレッジ・ヴァンガード」を覗いたりしながら「mori」のフロアに入った。通路に
沿って歩いていて「サマンサモスモス
ケイッティオ」を見つけて、誘われるようにお店に入ってしまった。当然匠くんはあたしの後にくっついて来てくれた。あたしは「サマンサモスモス」の服が好
きなのだ。値段も手頃だし、ふんわりとした優しい感じのデザインが気に入っている。
あたしが熱心に、たまに手に取ったりしながら見ていたら、匠くんが後ろから声をかけた。
「気に入ったのどれかあった?」
「え、うん・・・」
曖昧な反応を返した。
「気に入ったのあれば買おうか?」
一緒に買い物に行くと匠くんはすぐにあたしに買ってくれようとする。それはすごく嬉しいんだけど、でもちょっと躊躇ってしまう。そんなに毎回毎回買って
貰ってばかりいたら、何だか心苦しいような気持ちがどうしてもしてきちゃうから。あたしは別に買わなくても、(それはもちろん買ってもらえたらすごく嬉し
いんだけど、)匠くんと一緒にぶらぶらお店を見て回るのも十分楽しいんだから。女の子にはそういう楽しみ方があるのに、匠くんには今ひとつよく理解できな
いみたいだった。(大体において匠くんの買い物に対する考え方は、必要があったり欲しかったりして、前もってもう買うのを決めてあって買うか、若しくは見
ていて気に入ったから買うっていうものだった。買いもしないのにうろうろと見て回るっていう行為は、匠くんには理解を超えたものであるらしい。それでもあ
たしに付き合ってくれている内に、買いもしないのにぶらぶらとお店を見て回ることにも、今ではすっかり慣れて来たみたいだけど。)
「ん、他のお店も見てから」
ちょっと遠慮がちに笑い返してやんわりと断った。
あたし達はフロアの端まで来るとエスカレーターで3階に上がった。「オブレロ
」っていうお店に「THE SHOP TK MIXPICE」の服が置いてあったので、匠くんにどうかなって思って店内を見て回った。その隣の「イッカ」
も覗いてみた。ピンクのシャツとか匠くんに「どう?」って勧めてみたけど、匠くんから「いい」って拒否された。匠くん、ピンクとか似合うと思うんだけどな
あ・・・桜井さんみたく。桜井さんって何気にピンクとかよく着てたりするよね。
それから「ディズニーストア」を見つけて(あるのはもちろん知ってたけど)、匠くんの手を引っ張るようにして店内に入った。ミッキー達のキャラクターグッ
ズを見るだけで、もう心がうきうきしてくる。今まで見た事のないグッズを見つけては「あ、これ可愛い!」って声を上げてはしゃぎ回っていた。結局ディズ
ニーストアでスティッチのメモパッドとレターセットを買い、ご機嫌でお店を後にした。あんまり簡単にあたしがご機嫌になっているのを見て、匠くんは少し
笑っていた。
書店を見つけてあたしと匠くんは当然立ち寄った。しばらくぶらぶらと文庫や単行本の辺りをうろついていた。匠くんは更にパソコンや美術関係のコーナーにも立ち寄っていた。
moriの3階フロアもひと通り見て回ったので、あたし達はエスカレーターで1階フロアに降りた。午後2時を過ぎてもレストラン街は何処のお店も席待ちの
人の列が出来ていて、少し待つことになりそうだったけど、お昼もまだでお腹の空いてきたあたし達は「かにチャーハンの店ダイニング」に並んで待つことにし
た。前に耳にしたことがあって、ちょっと食べてみたいって思ってたお店だった。「ピッツァサルバトーレクオモ」とどっちにしようか迷ったけど、今回はこっ
ちにすることにした。
割りとお客さんの入れ替わりが早いみたいで、そんなに待つこともなくテーブルに案内された。お店はオープンキッチンになっていて活気のある様子だった。店内はそんなに広くなくて、ちょっと落ち着かない感じもしたけれど、気になるっていう程でもなかった。
匠くんは「豪華かにチャーハンセット」、あたしは「かに・えび玉チャーハン」、それと「かに大根サラダ」を注文して二人で分けて食べた。チャーハンはパラパラとしていてとっても美味しかった。
遅めのお昼ごはんを食べ終えたあたし達は、同じフロアで「ヴィレッジヴァンガード・プラス」と「クールダイソー」を見て回った。その後、2階フロアに上がって連絡通路を渡ってkazeに戻り、3階フロア、1階フロアと順に見て回った。
moriとkazeの各フロアを一通り見て回ったら、さすがに少し歩き疲れた。kazeの1階フロアで「TULLY’S COFFEE」に入って休憩することにした。あたしはハニーミルクラテのホット、匠くんはカプチーノを注文した。
「そろそろ帰ろうか?」
口の中に広がる柔らかい甘さに、ほっと安らぎながら匠くんに問いかけた。匠くんはうん、って頷いて、それから思い出したようにあたしに聞いた。
「萌奈美、気に入った服は?買わなくていいの?」
「うん。少し歩き疲れちゃったし、今日はいいや」
あたしがそう答えたら、匠くんも「確かに。よく歩いたよね」って笑った。
それであたし達は帰ることにして、kazeの1階から屋外に出たら、外はもうすっかり陽が暮れて暗くなっていた。少し風があって頬が冷たかった。匠くんはあたしと繋いだままの手をコートのポケットに突っ込んだ。ポケットの中で繋いでいる匠くんの手はすごく温かかった。
見上げると空はよく晴れていて雲ひとつなく、漆黒の夜空に星が澄んだ光を放っていた。遠くの空に微かに夕焼けの名残が見えていた。
武蔵浦和駅に着いてあたし達はビーンズに立ち寄った。「RF1 SELECT」でサラダと惣菜を、「おむすび重吉」でおにぎりを買ってマンションに戻った。
部屋着に着替えて手を洗い終えたあたしは、「はあー」って深い溜息を吐き出しながらソファーに腰を下ろして足を投げ出した。
洗面所から戻って来た匠くんに、その姿を見られて笑われてしまった。
「お疲れ様」
「匠くんもお疲れ様」
ソファに沈み込んだまま言った。あたしの疲れた様子に匠くんはキッチンでお茶を淹れてくれて、買ってきた夕食をソファのテーブルに並べて、夕飯の用意をしてくれた。
「あ、ありがとう、匠くん」
慌てて立ち上がろうとするあたしを匠くんが制した。
「いいよ。萌奈美は座ってて。買って来たもの出すだけだからさ」
それ位は自分でもできるよっていう感じで匠くんは言って、あたしを休ませてくれた。
「匠くん、ありがとう」
もう一度お礼を言った。
ソファには座らずにフローリングに直に座って(この方が床暖房で温かいのだ)、匠くんと並んでケーブルTVを見ながら夕食を食べた。丁度、映画の『スピー
ド』が放送されていて二人ですっかり見入ってしまった。もともと匠くんが前から大好きだった映画で、あたしは匠くんに教えてもらったんだけど、すっごく面
白くてあたしも大好きになった映画のひとつだった。特に冒頭のエレベーターのシーンとか、前半から中盤までのバスが暴走する展開は何回見てもスリリングで
ハラハラドキドキしてしまう。それと匠くんには内緒だけどキアヌ・リーブスはカッコいいし。(でも、映画の中の登場人物をカッコいいって思うのと、好きな
のとは全然別モノなんだからね。念のため言っておくけど。)
デニス・ホッパーをやっつけて(このデニス・ホッパーがまた、すごく憎たらしい悪者を見事に演じているのだ)、キアヌとサンドラ・ブロックの二人を乗せた
まま暴走した地下鉄が地上に飛び出して、やっと停止した車両を何事が起こったのかって人々が覗き込む中、キアヌとサンドラがキスを交わすラストシーンを大
満足で見終えて、お風呂を沸かしに立った。
リビングに戻ったら匠くんがリモコンでケーブルのチャンネルを変えていた。
「面白かったね」
匠くんの隣に座りながら弾んだ声で匠くんに伝える。
「うん。何回観ても飽きないな」
匠くんが言った。全く同感だった。
匠くんはスペースシャワーTVを画面に出してリモコンを操作する手を止めた。ちょっと懐かしいビデオクリップを流す番組で、charaの「やさしい気持
ち」が流れていた。charaも名前は知ってはいたけどそれまで聞いたことがなくて、匠くんと麻耶さんが好きであたしも聞かせてもらって大好きになった。
この「やさしい気持ち」はcharaの一番のヒット曲なのだそうで、あたしもcharaの曲の中で可愛くて一番大好きな曲だった。この曲を聴いていると、
本当にものすごく温かくて、優しくて、幸せな気持ちになれる。大好きな人がいることが本当に嬉しくてたまらない気持ちになる。
思いがけず大好きな「やさしい気持ち」を聴いて、あたしは匠くんの肩に頭を預けて寄り添った。
キャラメルのような甘い気持ちが満ちる。艶めくビロードのような夜の気配が、二人だけの部屋を濃密なものにしていく。
二人だけの夜は今夜でお終い。明日は麻耶さんが帰ってくる。いつも陽気で明るくてお日様のような麻耶さんと会えるのは待ち遠しくはあったけど、その一方で
匠くんと二人きりで過ごせる夜が終わってしまう、少なくとも昼も夜も二人だけで過ごす日々はしばらくはお預けになることを、少なからず残念に感じてるあた
しがいた。
多分、そんなあたしの気持ちを匠くんは察してくれて、あたしの肩に手を回して抱き寄せてくれた。
「お風呂一緒に入ろうか?」
今夜は匠くんの方から言い出した。思わず匠くんの顔を見返した。
「明日からまたしばらくは一緒に入れなくなるだろうし」
まるであたしの心を見通すかのような匠くんの言葉に、あたしは目を丸くした。ぱちぱちと瞬(まばた)きをする。
言いたいことがあたしの顔にはそっくり表れていたみたいで、匠くんはちょっと照れたように笑いながら言った。
「僕だって、萌奈美と同じ気持ちだよ。いつも」
それを聞いてたまらなく嬉しい気持ちになった。匠くんの肩にぎゅうっと頭を押し付けながら「うんっ」って頷いた。
少しして電子音のメロディーが流れ、機械の音声がお風呂が沸いたことを知らせた。
あたしと匠くんは今夜も仲良く一緒にお風呂に入った。もう身体の隅々まで知られてしまっているのに、バスルームの明るい灯りの中で裸を見られるのは、やっ
ぱり未だにちょっぴり恥ずかしく感じてしまう。匠くんも同じらしく何だか少し落ち着かないような、照れてるような感じに見えた。それに匠くんの股間は(連
日あれだけいっぱいエッチしてるのに)雄雄しく反り返ってその存在を主張していて、余計に落ち着かない様子だった。生理的現象なのかも知れないけど、そん
な様子が何だかちょっと微笑ましくて愛しく思えた。あたしを求めてくれているって気がした。それにあたしだって表向きは全然平然としているけれど、匠くん
がそうなっているのを目にして、すごくドキドキして来て、身体の深い部分が熱くなるのを止められなかった。身体の奥から熱いぬめりが流れ出すのがはっきり
と分かった。
あたしも匠くんも自分の中のたぎるような欲情から視線を反らすようにしながらお互いの身体を洗い合った。何の思惑もない素振りで相手の身体を洗いながら、
密かに誘うように相手の敏感な部分を、ただ洗うだけじゃない仕草で巧妙に弄んだ。決してささやかな域を越えないようにしながら、少しずつ少しずつ相手の欲
望を熱く焦がしていった。身体を洗い終えて浴槽に二人で沈んで、匠くんに抱きかかえられるようにして、匠くんの上に座っているあたしのお尻には、匠くんの
硬く強張ったものが強く押し付けられていた。あたしはその感触に全ての感覚を集中していた。
そうしてお風呂から上がり、あたしも匠くんももう我慢し切れないほどの欲情に急きたてられてベッドに滑り込んだ。唇を求め合い、舌を絡めてお互いの唾液を
啜りながら、相手の身体を弄(まさぐ)った。匠くんの左手があたしのパジャマの下の乳房を直に掴んで荒々しい手つきで揉んだ。乳房全体を揉みしだきなが
ら、親指と人差し指で尖った乳首を摘んで軽く引っ張るようにしたり、くりくりと転がすように弄んだ。その一方で匠くんの右手は真っ直ぐあたしの下着の中に
伸び、あたしの濡れた性器に手の平全体を押し付けてぐりぐりと擦り立てた。
「んっ、はあっ!」
乳房と性器の両方に強い刺激を受けて、ぎゅって瞼を硬く閉じて堪えながら喘いだ。
匠くんの右手は今度は中指であたしの陰唇を掻き分けるように擦り上げながら、熱く濡れたあたしの膣に根元まで中指を突き入れた。膣の奥まで中指を沈めながら匠くんは指の腹で膣壁を擦り立てた。
「ひあっ!」
一番感じる器官を擦り立てられて、悲鳴のようなよがり声を漏らした。
あたしの膣に深く分け入ったまま、匠くんの指はあたしの中を掻き回した。
あっ、んっ、ふあっ。
甘い媚びを含んだ艶かしい声が抑えようもなく口から漏れ続けた。匠くんの指に乱暴に描き回されても、熱く濡れそぼったあたしのその部分は全て快感となってあたしの身体をびりびりと貫いた。
激しく身悶えながら少しでも気を反らそうとして、匠くんの下着の中に手を潜り込ませて、熱く猛った匠くんのものを握り締めた。
すっかりぬめぬるとしたぬめりに塗れている先端を手の平に包んで、にぎにぎとするように強く揉み立てた。
「う、くっ」
匠くんは鋭く呻き、強すぎる快感から逃れるように腰を引こうとした。逃がすまいと匠くんのペニスの幹を握り締めて、上下に擦り立てた。あたしの手の中で匠
くんの強張りはびくびくって脈打った。速いスピードで幹を上下に擦り立てながら、時折敏感な先端部をくりくりと手の平でこねくり回すように刺激した。
はあっ、あっ!
あたし手の動きに匠くんは息を詰めるように度々身体を強張らせた。
あたしに負けまいとするかのように、匠くんはあたしの膣の中の指を激しく出し入れした。指を軽くくの字に曲げて膣襞を擦り立てながら引き抜き、指が抜け出
る寸前でまた素早く指を突き入れた。突き入れる時には指をぴんと真っ直ぐに伸ばして、あたしのぬかるみの奥深くに届くように指を突き立てた。匠くんの指が
激しく出入りする度、ぐちゅぐちゅっていう湿って粘ついた音があたしの股間から漏れ響いた。
あふっ、ああんっ、くふっ、あっ。
思わず匠くんのペニスを握り締めた手の動きを途切れさせて激しく身悶えた。
匠くんはその瞬間素早く身体を起こした。その拍子にあたしの手から匠くんのいきり立ったペニスは逃れ去ってしまった。
そして匠くんはあたしのパジャマのズボンと下着を一緒くたに引き下げると、あたしの足から抜き去った。
薄暗闇の中で匠くんの眼前にあたしの股間が曝け出されているのを感じた。
激しい羞恥が募って足を閉じようとした。
匠くんはでもあたしの開いた足の間に身体をこじ入れ、両手であたしの太腿を強く押し開いた。あたしの両足は左右に大きく押し広げられて、その付け根の濡れた恥ずかしい部分を隠しようもなく匠くんの前に晒していた。
「やっ、匠くんっ」
顔を火照らせながら頭を上げて匠くんを制止しようとした。
それなのに匠くんはあたしの声など耳に届いていないかのように、あたしの股間に顔を埋めた。
あたしが羞恥に身体を固くした次の瞬間、下半身から痺れるような甘美な快感が身体を立ち昇って来て、身体を震わせた。
あはあっ!あっ、あああっ、あふあっ!
匠くんの唇があたしの陰唇を啄ばみ、ぴったりと口をつけてあたしの中にたまったぬめりを啜り上げた。舌を尖らせてあたしの中にこじ入れ、膣襞をざらついた舌で擦り立てた。
言いようもない激しい快感に下半身をがくがくと戦慄かせながら、切れ目ないよがり声を放ち続けた。
尖らせた舌を素早く出し入れさせながら匠くんは、鼻先を膣の上にあるクリトリスに包皮の上からぐりぐりと押し当てた。
「あーっ、あーっ、あっ、ひっ、あふ、あああ!」
あたしは惑乱しながら頭を左右に振り立てた。ぞくぞくとした悪寒にも似た快感が絶え間なく背筋を這い上がって来て、あたしは快楽に沸騰してしまいそうな意識の中で予兆を感じた。
「あっ、た、くみっ、くんっ!あふっ!あっ、もおっ!もお、イクっ、イクのっ!ダメえっ!匠くんっ!あっ、あっ、イクよおっ!あっ!あっ、ああっ!あああっ、ああああああああーっ」
恥ずかしげもなく大きなよがり声を張り上げながら、全身を仰け反らせてがくがくと激しくうち震わせながら激しい絶頂に貫かれた。きつく閉じた瞼の内側で眩いスパークが爆ぜ、閃光の中に意識が溶けていった。
真っ白に白濁しばらばらになった意識が少しずつ回復して来て、ものすごく遠い意識の中で、絶頂を終えたあたしの膣に匠くんがまだ優しく舌を這わせていて、余韻のような快感にあたしの下半身がひくひくと小刻みにひくついているのを微かに感じていた。
荒い息をつきながら、ぼおっと蕩けきった意識のまま、弛緩した四肢をだらしなく投げ出していた。
時折、充血し切った性器に匠くんの蠢く舌が強い快感を与えてきて、思い出したようにびくりと身体が震えた。
「匠くん・・・」
あたしが力ない声で名前を呼ぶと、匠くんはやっとあたしの股間から顔を離し、あたしの顔を上から覗き込んだ。
匠くんの口の回りはぬめぬめとしたぬめりで濡れ光っていた。
あたしはあたしの愛液が匠くんの口の周りをこんなにぬめらせていることに激しい羞恥を感じて、両方の手の平で無造作に匠くんの口の周りを拭った。そのまま匠くんの頭を掻き抱くと自分に引き寄せた。
まだ濡れている匠くんの唇に躊躇うことなく口づけをした。舌を差し入れて匠くんの口蓋を舐め回す。
匠くんの舌を存分に味わってからあたしはやっと口を離した。長い口づけを交わして匠くんとあたしは深く息をついた。
「・・・イッちゃった。すごく気持ちよかった」
最高の絶頂を思い起こしてうっとりとしながら囁いた。
「すごく可愛かったよ」
あたしのことを愛しそうな眼差しで見下ろしながら匠くんは言った。
ちょっと恥ずかしくて、あたしは匠くんのペニスを弄(まさぐ)って探し当てると、手の平に包んで優しく刺激を加えた。匠くんのペニスは激しくそそり立ちひくついていた。
「匠くんのこと絶対負かしてやろうって思ってたのに」
ちょっと悔しそうに呟く。匠くんは小さく笑った。
「じゃあ、今度は萌奈美が僕をイカせてくれる?」
匠くんが耳元で囁いた。
「うんっ」
匠くんの頬にちゅっ、って音を立ててキスをして、匠くんと身体を入れ替えて横たわった匠くんの上になった。今度はあたしが匠くんの両足の間に身体を置いて匠くんを見下ろした。
あたしが見下ろす眼差しの先で、匠くんのものは激しく天を仰いでそそり立っていた。興奮を知らせるようにひくひくってうち震えている。その凶暴でグロテスクな様相に反して、あたしにはそれがとても可愛く感じられた。
ゆっくりと上体を屈め、匠くんの股間に顔を寄せていった。
目の前でひくつく屹立をじっと見つめた。とても愛しかった。
「愛してるよ」
すぐ目の前にある大きく勃起したペニスに囁いて、その先端に優しくキスをした。あたしの唇が触れた途端、ペニスはぶるんと大きく震えた。頭の上の方から匠くんの呻くような声が聞こえた。
太い根元に手を添えて先端部に舌を這わせた。つるりとした先端をざらりと舐め上げ、張り出した回りをぐるりと舌で舐め回した。
「あっ、うっく、うっ」
舌の刺激にペニスはびくびくと脈打ち、匠くんの快感に喘ぐ声が聞こえた。
その声に自信を感じながら、積極的に口での愛撫を開始した。
先端の割れているところに尖らせた舌をこじ入れるようにしながら、その中からじくじくと滲み出ているぬらついた粘液を舐め取った。亀頭部の裏側の敏感な部
分をぬるぬると舌先で擦った。ひくつくペニスの裏筋に舌を這わせながら根元へと移動していく。そして根元を舌先でやさしくくすぐるようにしたら、そこも感
じるみたいであたしの鼻先でペニスはびくびくって震えていた。
舌をペニスからその下にある陰のうに移し、皺の寄った袋にもくすぐるような刺激を加えた。
くうっ!
匠くんが鋭く呻き、下腹部を波打たせた。ぺろぺろと睾丸の隅々まで舐め回した。それから口に含んでくちゅくちゅと唾液に塗れさせながら転がした。
「あぐっ、うああ!」
匠くんの身体がしなり、途切れることのない喘ぎ声が聞こえた。
両方の袋にたっぷりと舌を這わせ口の中で転がしてから、あたしはまたペニスに戻った。睾丸をしゃぶっている間ずっとびくびくと脈打ち続けていたペニスは、
先端から滲み出した粘液が根元までべっとりと濡らしていた。激しく感じてくれているのが嬉しくて、根元に歯を立てないように注意しながら、かぷりと食いつ
いた。そして根元を唇でもぐもぐと刺激した。
「あうっ、ああ、おおっ」
ひくつくペニスを横笛のように唇に咥えてもぐもぐと動かしながら幹を昇っていった。そして先端部へと至って、今度は真上から口に含んだ。すっぽりと口の中に咥えると、舌で頭の部分を嘗め回しながらゆっくりと頭を上下させ、幹に唇でマッサージを加えた。
「あああっ、くああ!」
がくがくと腰を打ち震わせながら匠くんは快感に身を捩った。
あたしはもっと匠くんを感じさせたくて、頭をリズミカルに上下させ、咥えたペニスを唇で摩擦した。匠くんの喘ぎが大きくなるに連れ、次第にその動きを速めていった。
右手で幹の部分を強くしごきながら、左手で中の玉を転がすように陰嚢を優しく揉み擦った。そしてペニスを浅く咥えて頭を素早く上下させて張り出した先端を唇ですぽすぽとマッサージしながら、口の中で亀頭の裏側の一番敏感な部分を、ぬらぬらと舌先で擦り立てた。
あくっ、あう、ああっ、くうっ、も、なみっ、くっ、イクっ!
匠くんの言葉に励まされるように、頭の上下動を速めてペニスを刺激し続け、舌が痺れるくらいに亀頭の裏側を舐め回した。
あっ、あああっ、うっ、くう!出るっ!
口の中で匠くんのペニスの先端が膨らんだように感じた。その瞬間、匠くんはぐんっと身体を仰け反らせて腰を突き上げ、硬直した。
口の中ではペニスがびくん!びくん!ってメチャクチャに脈打ち、先端から凄まじい勢いで精液を噴出させていた。あたしはいつもながらの射精の勢いのすごさ
にびっくりしながら、慣れた要領で精液を噴出している先端部に舌を押し当てぬらぬらと舐め回した。手で太い幹をごしごしとしごき上げ、同時に睾丸もやわや
わと優しく揉んで、最後の一滴まで射精を促した。
やがて激しかった射精も下降線を辿り始め、まだ小刻みにひくつきながらも、遂にペニスは最後まで精液を吐き出し終えたみたいだった。
口の中いっぱいに溜まった粘液を、これももう慣れた要領でごくりと飲み込んだ。飲み慣れて来ても決して美味しいとは感じられなかったけど、でも匠くんがあ
んなに気持ちよく出したものだし、匠くんのものだって思うと愛しく感じられて全然抵抗感はなかった。濃くて粘ついて喉に絡む感じで一度には全部飲み込めな
いけれど、少しずつ唾液で薄めるようにしながら、口の中の精液を全て飲み干した。あたしが嚥下するたび口の中のペニスはびくっ、びくっ、って脈打った。
ちゅっと音を立てて唇をペニスから離して、あたしはやっと一仕事を終えた心地で深く息をついた。
顔を上げて匠くんを見ると、匠くんは放心したように全身を弛緩させたまま虚ろに天井を見上げている。激しい射精に息が乱れ胸が激しく上下している。ペニスだけはひくひくと小刻みにひくつきを繰り返しながら、未だに雄雄しくそそり立っていた。
匠くんを最高に気持ちよくさせてあげられて、いっぱい射精させてあげられて、満足感でいっぱいだった。
それでも身体はまだ満ち足りてはいなかった。匠くんの性器をしゃぶりながらあたしの中では再び激しい欲情が昂ぶり、身体の芯がジンジンと熱い疼きを帯びていた。
匠くんのズキズキと脈打っているペニスで身体の奥まで貫かれ、いっぱいに満たされたかった。
横たわる匠くんににじり寄って、熱く濡れた眼差しで匠くんの顔を覗き込んだ。
息を整えている匠くんがあたしを見返して視線が絡み合った。
匠くんに覆い被さって唇を塞いだ。身体の奥の疼きを訴えるように匠くんの唇を貪った。あたしから舌を差し入れ絡ませた。匠くんの舌を貪欲に舐(ねぶ)った。
匠くんも湧き上がる欲望に衝き動かされるみたいに、突然身体を起こしてあたしをシーツに押し倒し組み敷いた。
今度は匠くんから唇を重ねて来て、舌で乱暴にあたしの口腔を蹂躙した。そしてあたしの胸を荒っぽい手つきで揉みしだいた。乱暴な愛撫に唇を塞がれながら短く呻いた。匠くんの手の平はあたしの乳房を捏ね回し、尖った乳首を摘んで弄った。
匠くんの唇は不意にあたしの唇を離れ、顎、首筋と唇を這わせながら位置を変えていった。そして匠くんの唇が乳首に吸い付いた。ちゅっちゅっと何度も強く吸い付き、尖らせた舌先で乳首を舐(ねぶ)った。
はああっ!ふあっ、あっ、くふっ!
硬く尖った乳首に与えられる甘い刺激に、あたしの口からは淫らな喘ぎが漏れ続けた。
更に匠くんの手があたしの濡れた性器に伸び、人差し指と中指でぬらついた陰唇をぬるぬると撫でた。
あふっ、ああん。
甘美な快感にあたしの口からは甘えるような鼻にかかった喘ぎ声が漏れた。自分のものではないような艶を含んだ甘ったるい声だった。その声は明らかにもっと強い快感を与えてくれることを欲していた。
匠くんの中指があたしの膣にぬるりと潜り込んだ。膣内を満たしているぬめりに塗れながら匠くんの指はあたしの膣襞を擦り立てた。中指はあたしを焦らすよう
に入り口近くに留まり、浅い動きを繰り返した。奥深くまで突き入れられないことが焦れったかった。知らず、匠くんの指を奥へ迎え入れようと腰を浮かしてい
た。でも匠くんは意地悪であたしが腰を浮かすとその分だけ指を引いて、浅い部分を刺激し続けた。
ああんっ、た、くみっ・・・くんっ!やあっ!もっと奥までっ、あんっ、ちょうだいっ!
たまらずに匠くんにお願いした。
次の瞬間、あたしのお願いを匠くんは聞き入れてくれて、中指は膣の奥深くを抉るように突き入れられた。
あ、ひいっ!
満足げな嬌声を上げてあたしは身体を仰け反らせた。
ゆるゆるとした動きで匠くんの指はあたしの膣の入り口から奥深くまで出入りを繰り返した。指の腹がぬめった襞をゆっくりと擦り立て、指先が奥深くを突付くたびにじわじわと快感が増していった。
あたしの思考は快感に痺れて靄がかかったようにぼやけ、満足にものを考えることができなかった。
しばらく口と手であたしの乳房と膣を愛撫し続けてから、匠くんはあたしの身体から離れた。不意に快感が途切れてしまったことに不満を感じて、快楽に淀んだ眼差しで匠くんをなじるように見上げた。
あたしの視線の先で、匠くんはベッドサイドのチェストの引き出しから、避妊用のスキンを取り出していた。
手馴れた動作で匠くんはスキンを自分のペニスに被せ、またあたしの上に圧し掛かってきた。
匠くんはあたしの瞳を熱っぽい眼差しでじっと見下ろした。
「入れるよ、萌奈美」
あたしは期待に打ち震えながら無言で頷いた。
匠くんは目で確認しながらそそり立ったペニスの先端をあたしの膣の入り口に合わせ、ぐっと腰を押し出した。硬くて太いものがあたしの性器に強く押し当てら
れる感触を感じ取っていた。陰唇を割って、膣を押し広げながら匠くんの勃起したペニスがすぶずぶとあたしの中に入ってきた。
いっ、ひっ!
突然、膣にびりっと引き攣れるような痛みを感じて、思わず眉を顰(しか)めて悲鳴を上げた。
あたしの押し殺した悲鳴を聞いて匠くんは驚いて動きを止めた。
「萌奈美、痛いの?」
匠くんの心配げな声を聞いて、あたしは眉を顰めながら何とか笑顔を作った。
「うん・・・ちょっと、擦れる感じがして」
匠くんはあたしの言葉に思い当たったように言った。
「ここんとこ毎日激しくセックスしてたからかも知れない。萌奈美の中、擦れ過ぎてちょっと炎症を起こしかけてるのかも知れない」
言われて見れば確かにこの四日間で何回セックスしただろう?匠くんが言うように擦り過ぎたのかも知れない。
「痛みがひどくなったら大変だから今日はやめておこう」
あたしの身体を気遣って匠くんが言い、あたしの中に半分ほどまで埋まったペニスを抜こうとした。
あたしは咄嗟に匠くんにしがみついた。
「やだっ!止めないで!あたし、我慢できないよっ。匠くんので強く突き上げて欲しいの」
あたしの中で膨れ上がった欲望はもう後戻りなんてできなかった。匠くんの硬く怒張したペニスで貫かれ、奥まで突き上げて欲しかった。
「でも、ひどくなったりしたら大変だし・・・」
「こんなになってる匠くんだって可哀相だよ。匠くんだって我慢できないでしょ?あたしの中で気持ちよくなって欲しい」
匠くんを離すまいと必死でしがみつきながら、縋るような眼差しで訴えた。
あたしに覆い被さったまま、匠くんはしばらく逡巡していた。そして決意した眼差しであたしの瞳を見つめ返した。
「分かった。じゃあ、なるべく萌奈美の中を擦らないようにするから」
「うん。あたしは大丈夫だから」笑って精一杯平気であることをアピールした。
匠くんは頷いてゆっくりと腰を沈めた。匠くんのペニスがゆっくりゆっくりとあたしの膣に沈んでいく。今は全然膣が擦られる痛みはなかった。
匠くんはあたしの下腹部にぴったりと自分の下腹部を押し付けた。匠くんの強張りは根元まであたしの中に埋まった。
あたしの身体の奥深くまでペニスを突き立て、ぴったりと身体を寄せあたしを抱き締めたまま、匠くんはしばらく身動きせずじっとしていた。あたしも匠くんの
ペニスがあたしの中をいっぱいに満たして、一番奥まで達している感触を確かめていた。あたしの中で匠くんの強張りは時折びくっびくっと大きく震えた。脈打
つペニスが膣壁を押し上げる感触だけで、あたしはうっとりとなった。
「少し動くよ」
そう告げた匠くんは腰を引いてペニスを引き抜くことはしないで、深くペニスを沈めたまま更に腰をぐっと強く押し出した。膣の奥深くを強張った先端で突き上げられる感触に、ずしりとした重い快感があたしの身体を駆け昇っていった。びくりと身体を打ち震わせた。
匠くんは腰を振り立ててペニスを激しく出し入れしたりせずに、あたしの腰をしっかりと抱えて固定しながら根元まで埋めたペニスで更にあたしの膣の奥深くを強く突き上げるように腰を打ちつけた。
あっ、ああっ!んっ、あっ、やっ!すごいっ!
ペニスの先端で身体の奥の部分を突き上げられる度、言葉では言い尽くせないような強い快感があたしの身体を貫き、あたしの頭の中では青白い眩しい光が何度も何度も弾け飛んだ。
匠、くんっ!すごいのっ、それっ!ダメっ!奥まで当たってるよっ!あっ、ダメえっ!ダメっ、ダメっ!やーっ!来ちゃうっ、すごいの、来ちゃうよおっ!
がくがくと身体を震わせながら、叫ぶように匠くんに訴えた。凄まじい絶頂があたしを一気に連れ去っていくのを感じた。
あーっ!あっ!イクっ、イクのっ!ん、あっ、匠、くんっ!イクっ!イッちゃうっ!あーっ、あーっ!あーっ、やああっ、イクーっ!
あられもない声を上げながら絶頂に達し、身体を硬直させてぶるぶると震わせ続けた。
遠のく意識の中で匠くんのペニスが、絶頂に貫かれ激しく収縮しているあたしの膣の奥をずんずんと強く突き上げ続けているのを感じた。そう感じた瞬間、あた
しはもっと大きな快感の波に攫われ、更なる快楽の絶頂へと押し上げられた。眩い真っ白な光の中に溶けていきながら、あたしの意識はそこでぷつりと途切れ
た。
ふわふわとした、たゆたうような感覚があたしの身体を包んでいた。
まだ身体の隅々まで痺れるような快感の余韻に浸りながら、少しずつ意識がクリアになってくるのが分かった。
あたしに圧し掛かったまま、荒い呼吸を続けている匠くんに気付いた。匠くんのペニスは硬度を保ったまま、まだあたしの膣の深いところに留まっていた。時折びくんと打ち震えてあたしの膣壁を圧迫した。その度、あたしの中に甘い疼きが湧き起こった。
「匠、くん・・・」
おぼつかない口調で名前を呼んだ。匠くんは顔を上げてあたしを見返した。
「萌奈美、大丈夫?痛くない?」
心配げな眼差しであたしを見つめた。
「うん、平気」笑顔で答えた。むしろ匠くんがちゃんとイケたのか、その方が気に掛かっていた。あまりの快感に茫然自失になって匠くんが射精できたのかどうか分からなかった。
「匠くんは?イッたの?」
あたしの直截的な問いかけに匠くんは少し照れたように苦笑した。
「うん。お陰様で」おどけたような口振りで匠くんは答えた。それからふざけた言い方はあたしに失礼だって感じたのか、すぐ思い直したように笑いを引っ込めて真顔になった。
「とっても気持ちよかったよ。萌奈美の中」
匠くんの言葉に頬が火照るのを感じながら、でもあたしの中で匠くんが気持ちよくなってくれて、射精まで導けたことがとっても嬉しかった。
「よかった」
微笑んだあたしを匠くんはぎゅう、って強く抱き締めた。あたしも匠くんにぴったりと身体を密着させながら、匠くんの少し汗ばんだ素肌や匠くんの体温、匠くんの匂いを感じた。匠くんの全てが愛しくてたまらなかった。
ずっと匠くんのペニスを身体の奥に受け入れたまま、ひとつに繋がり合って抱き締め合っていられたらどんなに幸せだろうって思う。あたしにとって匠くんは、
匠くんさえいてくれれば他の何もいらないって思えるような、欠けることの許されない存在だった。そして匠くんにとってのあたしも同じ存在だって感じた。
「愛してる」
思わず言葉が零れ落ちた。口に出してしまうと解けてしまう魔法のように、言ってから急に不安に襲われて匠くんに強くしがみ付いた。
「僕だって愛してるよ。萌奈美が僕を愛してくれてるよりずっと多くね」
匠くんの言葉に顔を上げた。不満げにあたしは言い返した。
「そんなことない。あたしの方が匠くんをいっぱい愛してるよ。絶対」
「そうかな?僕の方がずっとずっと沢山愛してるんじゃないかな?」
「絶対あたしの方が匠くんよりいっぱい愛してるんだから。間違いないよ」
口振りこそ言い合っていたけど、お互い目は笑っていて口元にも笑みが浮かんでいた。じゃれあうようにしてあたし達はくすくすと笑い合った。
「ねえ、匠くん。もっと愛して」
あたしは笑顔で少しも臆せず自分の正直な気持ちを伝えた。
「大丈夫かな?」あたしを見下ろす匠くんの眼差しは少し不安げだった。
「今みたくすれば全然痛くないよ」
匠くんの不安を吹き飛ばすように弾んだ声で答えた。
「・・・うん、わかった。痛かったらちゃんと言うんだよ」
頷くあたしに匠くんは唇を重ねて来て、深く収まったままのものであたしの奥を突き上げるように腰を打ちつけた。
膣の奥を強く突き上げられて、匠くんに唇を塞がれたまま喘いだ。くぐもった声が漏れた。
あたしからも繋がり合ったままの部分を、ぎゅっと匠くんに押し付ける。より深く匠くんの逞しいペニスを受け入れたかった。
あたしの動きに応えるように匠くんは一層強く腰をぶつけて来た。身体の奥をずんずんと貫かれて身悶えた。
んふう!んんっ!んあっ
たちまちあたしの身体に火が点き、欲情に染まった。両足を匠くんに絡ませ深く繋がったまま離れないようにした。
突き破ろうとするかのような激しさで匠くんは腰を打ち据え、あたしの身体の奥底を突き上げ続けた。
んああ、んぶっ、ふむうっ!くぐもった喘ぎを漏らし続け、その声は匠くんの口腔に吸い込まれていった。
身体の奥を深く突き上げられて急速に昂ぶっていった。全身がぞくぞくとした悪寒にも似た快楽に染められ、あたしは身体を戦慄かせた。
ああ!あーっ、ふあっ、あっ、くう、んっ!あっ、はああっ!
たまらなくなって匠くんから唇を離し、快感に耐え忍ぶように頭を振り乱した。開放された口からとめどもなく快楽の喘ぎが漏れ続けた。後から後から絶え間な
く荒々しい快感が高波のようにあたしの身体を襲った。あたしの思考は沸騰したように熱を帯びて泡だった。ちりぢりに砕け散る意識の中で強い予兆を感じた。
あっ、やっ、匠っ、くんっ!イッちゃうっ!あふっ、ああん!ダメえっ!イッくっ!イクのおっ!あっ、イクうっ!やあっ!あーっ!あーっ!あ、ああっ!あああ!ああああああーっ!!
全身をがくがくと打ち震わせて、絶叫のような喘ぎを放ちながら絶頂に達した。快感が長く長く尾を引いてあたしの全身を駆け巡っていった。遠退くような意識
の中で、全身を震わせているあたしを強く抱き締めながら、尚もあたしの膣の奥深くを突き上げ続けていた匠くんが、鋭く苦しげな呻きを放って全身を強張らせ
たのが分かった。同時にあたしの中で匠くんのペニスはびくびくと激しく脈打っていた。匠くんとあたしは硬く抱き締め合いながら、じっと身体を強張らせてい
た。あたしの膣の奥で匠くんの猛ったペニスだけが、激しく射精しながら痙攣するように脈動を繰り返していた。
あたしから先に身体の硬直を解いた。快楽がくすぶり続ける身体を弛緩させて、うっとりと余韻に浸りながら放心していた。
それから少しして匠くんも深い吐息を漏らしながら、強張らせていた身体の力を抜いた。急に圧し掛かっている匠くんの重みを感じた。それでも下になっているあたしを気遣って、あたしに全体重を預けるようなことはなかった。あたしは受け止めるようにそっと匠くんを抱き締めた。
今度はちゃんと二人一緒にイケた瞬間を確認できてあたしは満足だった。
できればその射精の激しさも直に受け止められたらもっといいんだけど。それはあたしが大人になってちゃんと結婚してからじゃないと無理なんだろうな・・・
それは大分まだ先のことだった。そう思うとちょっと寂しく感じた。時々は安全日とか、付けないで直に匠くんのものを受け入れられないかな?匠くんはナマ
(って、なんかやけにエッチに聞こえる・・・)でしてくれないかなあ?そういうとこ、匠くんは割りと心配性なとこあるから駄目な気がする。でもあたしがお
願いすれば匠くんあたしのお願いには弱いから、心配しながらもお願い聞いてくれるかも・・・ちょっと恥ずかしいけど、今度おねだりしてみようかな?匠くん
と身体を重ねたまま、匠くんの重みを心地よく感じながらそんなことを考えていた。
ずっと身悶えたり激しく打ち震えたり、全身を強張らせたりして、けだるい疲労感を身体に感じていた。身も心も一つになって満ち足りた後の、このけだるい感
じが大好きだった。あたしはものすごく幸せな気持ちに包まれて、あたしに圧し掛かっている匠くんの首筋にそっと口づけした。
「ん・・・」
あたしに身体を預けながら乱れた息を整えていた匠くんは、身体を起こしてあたしを見下ろした。見上げているあたしと目が合って、匠くんは唇を寄せてきた。そっと唇を触れ合わせる。じゃれ合うように唇を啄ばんだ。すごく気持ちのいいキスだった。
「匠くん、あたしすごく幸せだよ」
胸がいっぱいで、あたしを満たしている想いを言葉にして匠くんに伝えた。
「僕も萌奈美と一緒にいられてすごく幸せだよ」
匠くんの言葉を聞いてもっともっと胸がいっぱいになる。温かい幸せで胸がはちきれそうだった。あんまり幸せ過ぎて何だか切ないような気持ちさえした。
「ずっと、これからもずっと一緒にいてね」
「もちろん。僕も萌奈美にお願いするよ。ずっと僕の傍にいて欲しい」
「うん。ずっと傍にいるから。何があったって、絶対」
あたしは強く断言して微笑んだ。匠くんも優しい瞳で微笑み返して、ありがとうの代わりみたいにまた唇を重ねてきた。あたし達は深く口づけを交わした。誓いを交わすように。
翌日、あたしと匠くんはすっかり朝寝坊した。どうせ麻耶さんは夕方にならないと帰って来ないので、あたし達はお昼過ぎまでまったりとベッドの中で睦まじく過ごした。
「ねえ、何だかエッチしてばっかりのお正月だったね?」
ベッドの中であたしと匠くんは裸のまま身体を摺り寄せて密やかに囁き合った。触れ合った肌から匠くんの温もりが伝わって来て心地よかった。
「僕はすごく嬉しいけど?萌奈美とこんなにくっ付いていられて」
そう言いながら匠くんがこつんとおでこをくっ付けて来た。
「もちろんあたしだって、とーっても嬉しいよ」
両手を広げて匠くんに抱きついた。わざと胸がぎゅって潰れるように匠くんに押し付けた。足を絡めると匠くんの股間でいきり立っているものがあたしに当たった。太腿を滑らせて強張りを擦り立てる。びくんびくんって勢いよく脈打ってあたしの太腿を打った。
「匠くんの元気になってるよ。もう一回しちゃう?」
匠くんの顔を覗き込みながら悪戯っぽく聞いた。
「でも、萌奈美、少し身体休めなきゃ」
気掛かりな表情であたしを見て匠くんが答える。
でもこんなに元気なのを我慢させるのは何だか可哀相に思えた。
「じゃああたしがしてあげるね」
はしゃいだ声で匠くんに言って、頭から布団の中に潜り込んだ。
あたしが手と口を駆使し始めると、布団の外から匠くんの切なげな喘ぎが聞こえてきた。もっともっとその声が聞きたくて一層熱心に手と口を動かした。
◆◆◆
日が暮れて外がすっかり暗くなってから麻耶さんは帰って来た。
「お帰りなさい」
「はい、お土産」
玄関で出迎えたあたしに、麻耶さんは沢山のお土産の詰まった手提げ袋を預けた。
「ありがとう」
お土産の中身にわくわくしながら受け取った。あたしの顔を見て麻耶さんは嬉しそうだった。
「萌奈美ちゃんは本当に喜んでくれてお土産の渡し甲斐があるなあ。匠くんなんか受け取ってもにこりともしないんだから。無愛想にぼそぼそっと“どーも”って言うだけで、別に大して嬉しくもなさそうにね」
そーなの?って隣に立っている匠くんに視線で問いかけた。あてこするように麻耶さんに言われて、匠くんはばつが悪そうな顔をしている。
リビングのソファに倒れ込むように深く腰を下ろして、麻耶さんはほっとしたように大きく息を吐いた。
「うーん、やっぱり我が家はいいよねー。ほっとするって言うか」
あたしもその気持ちはすごくよく分かったので笑い返した。
麻耶さんがいると家の中がぱっと明るく華やいだ雰囲気になる。別にあたしと匠くんの二人だと雰囲気が暗いとかってことじゃなくて。二人きりだともっと密やかで穏やかな空気が流れているような気がする。
「お風呂沸いてるから麻耶さんよかったら入って」
あたしの勧めに麻耶さんは「ありがとう」って答えた。
匠くんはそそくさと自室に戻ってしまっていた。お土産見ないのかなあ?ちょっと詰まらない気持ちで、匠くんの部屋のドアに視線を向けていた。
「萌奈美ちゃん」
麻耶さんに呼ばれて振り返った。近寄るあたしに麻耶さんは興味津々って表情を向けてくる。
「どうだった?四日間たっぷり匠くんと二人っきりで仲良く過ごせた?」
何となく含みのある物言いに、何だか見透かされているような気がして恥ずかしくなった。
「うん・・・えっと、お陰様で」
躊躇いがちに答えたら麻耶さんはニヤリと口元を曲げた。
「萌奈美ちゃん、だって、何かすっごく満ち足りて幸せそうな顔してるもん。さぞかしラブラブなお正月だったんでしょ?」
えっ?そんなバレバレな顔してる、あたし?麻耶さんの指摘に思わず顔を赤くした。
あたしの反応がいちいち面白いらしく、麻耶さんはくすくすと笑った。そしてソファから立ち上がってすれ違い様に耳元で囁いた。
「よかったね。気兼ねなく思う存分エッチができて」
あんまりストレートな麻耶さんの言葉に、あたしはもう耳まで真っ赤になった。慌てふためいて口をぱくぱくさせているあたしの様子に、麻耶さんは如何にも満足そうな顔をしながら「じゃあお風呂入って来るねー」って言い残して自室へと姿を消してしまった。
一人真っ赤な顔をしたままリビングに取り残された。
麻耶さんがお風呂に入ってから少しして匠くんがリビングに戻って来た。
「麻耶さん、お風呂入ってる」
あたしが言うと匠くんは「そう」って頷いた。そしてあたしの顔をまじまじと見た。
「萌奈美、何か顔赤くない?」
匠くんの指摘に、うっ、と言葉に詰まった。
「熱でもあるんじゃないか?」
眉を顰めた匠くんに聞かれた。確かに熱でも出そうな心境ではあった。でも違うんだけどね。匠くんに伝えるのも恥ずかしくて、また顔を赤くした。
「何だか麻耶さんにバレバレだったよ」
「バレバレって何が?」
匠くんはあたしの奥歯にものの挟まったような言い方に訝しそうな顔をした。
「えっと、だから、お正月あたしと匠くんが・・・その、エッチ・・・ばっかりしてたのが」
あたしはもごもごと言った。流石に匠くんもぎょっとした顔をしていた。
「あたしってそんなに分かり易いかなあ?」火照る頬を手の平で押さえながら匠くんに訊ねた。
「あたしの顔を見て、麻耶さんすぐ分かったって」
「どうだろう?・・・分かんない」
あたしと匠くんは二人して顔を赤らめて向かい合った。
「だけど、まあ、別にいいんじゃない?バレてたって」
やがて匠くんはすごく気楽そうに言った。匠くんの口から出た予想外な言葉に、目を丸くして匠くんを見返した。
「別に内緒にしなきゃならないことでもないし。学校とかは別にしてね」
穏やかに笑いながら匠くんは言った。
「それに恥ずべきことでもないでしょ?愛し合ってれば当然だと思うし。萌奈美と愛し合ってるって、僕は誰に臆することもなく言えるつもりだよ」
そう言ってから匠くんは急に自信が無くなったように言い直した。
「・・・実際にそう言えるかどうかは別として、僕はそういう気持ちでいるよ」
言い切ってくれればカッコよかったのに。・・・でも、セックスしてるなんてことを人前で堂々とは言えないよねえ、やっぱり。あたしにしたって、春音も千帆
も結香も、あたしが匠くんとエッチしてることは当然知ってるだろうけど、そうは思ってもみんなに堂々とエッチしてるとは言えないもんね。そのことを話題に
されてもやっぱりものすごく恥ずかしいし。・・・まあ、これだけのことを匠くんが言ってくれただけでも、十分満足だった。
「うん、そうだね。あたしも匠くんと同じ気持ちだよ」
少し照れながら笑顔で答えた。
「・・・おみやげ、開けてみれば?萌奈美、楽しみにしてただろ?」
匠くんが照れ隠しのように話題を変えた。
「匠くんも一緒に見ようよ」
あたしが誘ったら、匠くんは苦笑しながら仕方なさそうにあたしに付き合ってくれた。
と、あたしは突然、そうだ!って思い出していた。
「お守り、麻耶さんにあげなくちゃ。お風呂から出て来たら渡そうっと。取ってくるね」
匠くんにそう言って、匠くんの部屋に置いてある調宮神社のお守りを取りに行った。
袋から兎の絵が刺繍された白いお守りを取り出しながら、新しい年を迎えて、ものすごく楽しくて幸せだったこのお正月の四日間を思い浮かべ、明日からの毎日
も、とっても楽しくて幸せな日々になるに違いなくて、今年も絶対に素敵な一年になるって予感が胸いっぱいに膨らんで来て、あたしはものすごくわくわくして
嬉しくて、それからドキドキしていた。