【 FR(L)AG-ILE-MENT 】 ≪ Suger Love 第2話 ≫


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しばらく幸せな気持ちで一杯になりながら、あたしの上に覆いかぶさった匠くんを抱き締めていた。
ふとあたしは気が付いた。
「匠くん、あの、匠くんの・・・大きいまま?」
直接それを言い表すのは躊躇われたので、そんな風におずおずと聞いた。
匠くんもちょっとばつが悪いような困ったような照れた笑顔を見せた。
「うん。だって、萌奈美の中、うねって、締め付けてくるんだもん」
匠くんが言ったあたしのアソコの様子がすごく嫌らしく聞こえたので焦ってしまった。
「えっ、そんな、あたし、そんなことしてない」
「うん。萌奈美は意識してないかも知れないけどさ。すごくうねうねして、その上きゅうって締め付けてくるんだよ。萌奈美のアソコ」
匠くんはあたしが恥ずかしがるのを面白がって更に嫌らしく言った。真っ赤になりながら口を尖らせた。
「もうっ。匠くんの意地悪っ」
匠くんはあたしの様子にくすくす笑って、尖らせた唇にちゅっとキスをした。
「それに萌奈美とこうして身体を触れ合っているだけで、たまらなくなるんだ。萌奈美とこうして触れ合って、萌奈美の中にいるだけでずっと大きいままだし、何度だって出来ちゃうんだ」
まあ、何度だって出来ちゃうっていうのは多分大袈裟に言ったんだろうけど、でもそう言ってくれて嬉しかった。あたしの身体がすごく魅力があるからってことだもんね。
「匠くん、愛してる」
嬉しくて今度はあたしから匠くんにキスをした。あたしの方から積極的に舌を差し入れ匠くんと舌を絡め合い、口蓋の隅々に舌を這わせ舐め回す深く濃厚な口づけを交わしていたら、あたしの中で匠くんのものがびくびくと脈打ち、その硬度と容積を増していくのが感じられた。
悪戯っぽい笑顔で匠くんにその様子を教えた。
「匠くんのすごいびくんびくんして、硬くて大きくなったよ」
匠くんはキスひとつで簡単に操られてしまったことが悔しいみたいで、少し拗ねたような表情をしただけで答えなかった。
ちょっと意地悪だったかなって反省しながら改めて匠くんに言った。
「また、あたしの中で動いて」
あたしの言葉に、匠くんは躊躇った。
「でも、萌奈美、痛いだろ」
確かにすごい苦痛ではあった。でも匠くんが気持ちよくなってくれることであたしは嬉しかった。
「大丈夫だよ。我慢できるから」
強がって言った。
「いや、萌奈美とひとつになれたから十分だよ。無理はして欲しくない」
そんな無理をしているつもりではないんだけど。でも匠くんは頑としてあたしの言うことに応じようとしなかった。
でも匠くんのそこはあたしの中でびくんびくんと跳ね、その欲望を正直に伝えている。こんなになってるのに、そのままにしておくのも可哀相だった。
「匠くん、じゃあ手でやってあげる」
考えた末、そう提案した。
「えっ?」
匠くんは意外に思ったようだった。
「だって、こんなになってるの可哀相だもん。手だったらいいでしょ?」
あたしはすっかりその気だった。
いや、でも、と躊躇う匠くんを、あたしは手で気持ちよくしてあげる、って強引に押し切った。
匠くんは躊躇しながら、あたしの中から昂ぶったものを引き抜いた。引き抜かれる時やっぱり鋭い痛みが走った。やっぱりこれでもう一度するのはちょっと無茶だったかも。内心この苦痛を避けることができて、ほっとしていた。
自分で股間を見たら愛液に混じって血が流れ出ていた。匠くんも心配そうに見ている。
「出血しちゃってるね」
申し訳なさそうに言う匠くんに、あたしは精一杯元気な声で言った。
「これは初体験の証なんだから。女の子にとっては勲章みたいなものだよ。それにそもそも女の子は出血には慣れてるし。生理の時の出血ったらこんなもんじゃないんだから。まさにスプラッター、って位なんだから。多分男の人があれ見たら絶対引くと思う」
軽い感じで話した。
「そんなにすごいんだ」
匠くんが神妙な面持ちで聞き返す。
「だからこれ位何でもないよ。あたしにとっては匠くんとひとつになれたって最高の記念なんだから」
あたしのその言葉を聞いて匠くんも嬉しそうな笑顔だった。
「はい、じゃあ匠くんは横になって」
てきぱきと指示しながら、恥ずかしそうにしている匠くんを無理やり寝かせた。
横たわった匠くんの股間でそれだけが垂直に、まさにぴんっ!と起立したように屹立していた。
男の人のそうなった状態を初めてまじまじと見ることができて興味津々になっていた。まだゴムが付いたままだったのでぬるぬるのコンドームを匠くんのものか ら外すことにした。「こぼさないように気をつけて」って匠くんが言ったので、あたしはゴムの中で先端に溜まっている白く濁ったどろどろとした液体をこぼさ ないように気をつけながら外した。そして伸びきったゴムを摘んで眺めた。ゴムの先端の少し出っ張った部分に溜まっているどろりとした粘液をまじまじと眺め た。これが匠くんの精液なんだ。これってやっぱり量多いのかな。
少しぶらぶらと振ってみた。さてどうしようかって考えていたら、匠くんが根元を縛ってティッシュに包(くる)んで捨ててくれる、って告げたのでその通りにしてごみ箱に捨てた。何だか匠くんから出たものをそんな風にぽいっと捨ててしまうのは可哀相な気がした。
気を取り直して改めてベッドに上がったら匠くんは足を閉じていた。それだとあたしが身体を置く場所がないって思ったので、匠くんの太ももに手をかけぐいっ と両足を大きく開いた。匠くんは一瞬何か言いたそうだったけれど結局口を閉じたままだった。匠くんの開いた両足の間にあたしは正座するような格好で身を置 いて、改めて股間に視線を落とした。
ぬらぬらとぬめった粘液に覆われた匠くんの屹立したものはひくひくと震えていた。
その長さと太さに改めて息を呑んだ。これがあたしの中に根元まで突き込まれたのかと思うと信じられない感じだった。
精液に塗(まみ)れぬるぬるとした匠くんのペニスの先端に指先でそっと触れてみた。硬直したそれはびくん、って震えた。
すごく興奮してどきどきしていた。ごくりと唾を飲み込み、今度は張り出した先端を摘(つま)むように触った。その刺激にまた匠くんの強張りは大きくびくん、って弾んだけど手を離さず、ゆるゆると優しくさすってみた。
くうっ!匠くんは苦しげに呻いた。あたしの手の中でペニスは繰り返しびくんびくん、って跳ねている。
掌全体で包むようにしっかりと匠くんのものを握り直し、幹の部分を上下にこすり上げた。あく、うっ!匠くんの身体が大きく仰け反り、がくんと沈んだ。
あたしの手の中のものはとても変わった感触だった。すごく硬いようなのに、弾力があった。そしてとても温かかった。
見た感じは赤黒くて、ぬめぬめとした粘液に濡れたそれは、先端の部分が大きく張り出していて印象としてはグロテスクな感じだし、あたしの手からはみ出る程 大きくて硬くて、そして太く反り返った姿は凶暴な感じでもあった。でもそれが匠くんのものだって思ったら、むしろ可愛らしく愛しいとさえ思えた。
先ほどまであたしを激しく貫き、あたしの中で暴れ回り蹂躙していたものは、今あたしの手の刺激で何度も何度もひくつき、のた打ち回っている。それが愛しいって思った。
匠くんの顔を覗き見たら、最も感じる部分に絶え間なく与えられる強い快感に固く目を閉じ、はあはあと荒く息を吐き、時に喉の奥で切なげな喘ぎを発している。
匠くんに快感を与えられているのが嬉しくて、ペニスを握る手に力を加え、その動きを速めた。時々上下に動かす長さを変えたり、握る強さに強弱を付けたり、 擦る速さに緩急を付けたりして変化を加え、単調にならないように工夫した。そして先端の張り出した裏側の部分を弾くように擦り立てた。
匠くんは大きく喘ぎ、がくんと身体を仰け反らせた。
もっともっと大きな快感を与えたくて、強張りの下にある二つの袋をもう片方の手でやわやわと優しく擦った。匠くんの身体がまた大きく跳ね返り、喉の奥から ひくつくような呻きを漏らした。その身体から力が抜けるのを狙って、強張りの先端の裏側の敏感な部分を舌先で突付いた。匠くんが混乱したように叫んだ。
「萌奈美!?」
必死に頭を上げ、股間に蹲るあたしを見ようとした。
ちらっと匠くんの顔を見た。一瞬視線が合い、びっくりして目を見開いた匠くんの表情を確認すると、返事をせずにまた屹立したものに覆い被さり、舌でもう一 度ぬらついた先端を舐め上げ、粘液を掬い取った。舌に乗ったその味は苦いような渋いような感じだった。それ程我慢できなくもない味だった。そして青臭いよ うな生臭さが匂ったけどそれを我慢して、今度は口全体で先端の出っ張った部分を咥えた。唇をすぼめてちゅっと吸い上げる。
あたしの行為を予想していなかったみたいで匠くんは慌てて腰を引こうとした。
「萌奈美、そんなこと、いいよ!」
匠くんの制止に耳を貸さず、大きく口を開けてペニスを深々と飲み込んだ。口の中にペニスにこびりついていた生臭い精液の味と匂いがむっと広がった。慣れないその味と匂いを我慢して、頭を上下させ口全体で強張ったものを刺激した。
フェラチオっていう行為位あるのは知っていたものの、どうやったらより男の人を気持ちよくさせてあげられるかまでは分からないまま、自分なりに考えながら匠くんにもっと気持ちよくなって欲しいって願いながら、その行為を続けた。
きゅっと締めた唇で太い幹全体をぬるぬると擦り上げ、舌で張り出した先端を舐め回し、裏側の敏感な部分を尖らせた舌先でぐいぐいと擦り立てた。
匠くんの喘ぎが一段と激しくなり、口中で最大限に硬度と容積を増したペニスはびくびくと暴れ回った。続けざまの強い快感に匠くんの全身はずっと強張り続けていた。
頭を出来る限り速く上下させ、唇でペニスを擦り上げるスピードを速めた。
くうっ、あくっ!匠くんの喘ぎが切羽詰まったものになっていた。もうすぐ限界なんだ。そう思い、一心不乱に口唇での摩擦を続け、先端への愛撫も舌が痺れて感覚が無くなるまで続けた。
がくん、と匠くんの身体が大きく弾んだ。叫び声に近い喘ぎ声をあげ、その絶頂を知らせた。あたしの口の中で匠くんのペニスが一層大きく膨らんだように感じ られたその刹那、びくびくとのたうちながらその先端から爆ぜ割れたような激しい噴出があたしの口中に放たれた。余りに激しい射出にあたしは動きを止め無意 識に唇を引き締めていた。びゅくびゅくといった感じで匠くんの射精はしばらく続いた。喉の奥に詰まらせ咽(むせ)そうになるのを危ういところで避け、その 激しい迸りが止むのを待った。
いつまで続くんだろうって感じられた激しい射精はやっとその勢いを失い、やがてペニスはひくひくと小刻みなひくつきを残してその噴出は収まった。
射精の間中激しく全身を硬直させていた匠くんは、その勢いを失うのと共に身体の強張りを解き、がっくりとベッドに沈み込んで弛緩した。胸が大きく上下して荒い息遣いだけが耳に届いていた。
口の中にペニスを咥えたまま、どうしていいか分からず身動きできないでいた。口中いっぱいにどろどろとした粘液が溢れ、青臭いような生臭いような独特の匂 いが口から鼻腔へと抜けていった。その匂いに少し眉を顰(ひそ)めながら、あたしは逡巡した末、口の中に広がる精液を飲み下した。粘つく液は喉に絡んでな かなか嚥下できず、何度か戻しそうになりかけた。涙目になりながら数回に渡ってごくりと飲み込み、口の中のどろりとした精液をなんとか飲み干した。飲み込 む度に口の中が締まり、その刺激で匠くんのまだ硬度を保ったままのペニスはびくりと脈打った。
口腔の精液を飲み終え、ペニスに絡んだ精液を拭うようにちゅうっと吸いながらペニスから口を離した。ペニスを強く吸われながら引き抜かれる刺激に、匠くんは喘ぎ身悶えた。
ペニスから口を離すと粘液がペニスとあたしの唇の間で一筋糸を引き、あたしはそれをぺろりと舐め取った。我ながらその仕草がものすごく淫らに思えて顔が熱くなった。身体の奥が疼いた。

匠くんはまだ呼吸を乱しながら顔を股間から離したあたしを見ていた。匠くんと視線が合って急に恥ずかしさを覚えて、照れ隠しに軽い口調で「飲んじゃった」って言って笑いかけた。
匠くんは済まなそうな顔をしていた。
「無理して飲まなくてもよかったのに」
小さく笑って言い、あたしを引き寄せた。
匠くんの上に覆い被さるように寄り添い、その胸に頭を預けた。匠くんはしっかりと抱き締めてくれた。
「でも、そんな嫌じゃなかったよ。ちょっと飲みにくかったけど」
口の中に広がる青臭い匂いと喉に絡みつくどろどろした粘っこさを思い出しながら答える。
「それに男の人って、飲んでもらえると嬉しいんでしょ?」ってあたしは聞き知ったことを話してみた。
匠くんはちょっと苦笑していた。
「いや、それはAVとかの受け売りなんじゃないかな」
そうなのか。普通は余り飲んだり、顔に出されたりはしないものなのか。どうやらあたしの聞いた知識は誤りだったみたい。
「まあ、男としては嬉しいっていうのは、あながち間違っていないかも知れないけど」って匠くんは言い難(にく)そうに付け加えた。
匠くんが喜ぶんだったら、あたしは全然嫌じゃないよ。そう告げたら匠くんはくしゃっとあたしの髪を掻き抱き、強く抱き締めてくれた。匠くんの肌の温もりを感じてとても心地よかった。
あたしの太ももに匠くんのペニスが当たっていた。驚いたことに二度も激しく射精した後だっていうのに、未だにその強張りを失わず屹立していた。
「・・・まだ匠くんの大きいままだよ」
目を丸くして匠くんの顔を見た。
「何か、本当に萌奈美といると収まりがないというか、節操がないというか・・・自分でも我ながら呆れてる」
匠くんは情け無さそうに答えた。
でも男の人だったらむしろ自慢すべき事なんじゃないのかな。違うのかな?

上体を起こし、匠くんの唇へと自分の唇を重ねていった。精液を飲んだ口でキスされるの嫌かな、ってちらりと頭の片隅で思ったけど、匠くんは唇を重ねて舌を侵入させても嫌がる風もなく、自分からも舌を絡めて来てそれからあたしの口腔の隅々まで舐め回した。
身体の奥が熱く疼いていた。匠くんのペニスを唇で愛撫しその射精を口で受け止めながら、あたしは自分のしている行為に激しく興奮し、欲情していた。下半身の奥からぬめりが溢れ、じんじんとした疼きを感じていた。
熱い口づけを終えて唇を離すと、顔を熱くしながら自分の欲望を口にした。
「匠くん、あたし我慢できなくなっちゃった」
欲情して濡れた眼差しで匠くんを見つめた。
匠くんはあたしの身体を抱いたままぐるりと反転し、匠くんとあたしは上下を入れ替わった。匠くんに見下ろされながら、訪れる快楽への期待でどきどきしていた。
匠くんはあたしの乳房を唇で啄(つい)ばみながら、下半身へと指を這わせぬめった入口をぬるぬると上下にこすり愛撫した。あたしは快感を感じることに集中し、大きな喘ぎ声を上げた。
匠くんの唇はあたしの乳房を口全体で咥えるようにもぐもぐと揉みしだき、尖らせた舌で乳首を攻め立て、ちゅうちゅうと吸い上げた。下半身では入口の部分を ぬるぬると擦っていた指を曲げて、あたしの中の浅い部分へ差し入れ内側の襞を擦りたてた。指の挿入は始めの内浅い部分で留まっていたのが次第に深く侵入し て来るようになり、ぬるぬるとした指があたしの膣の内側の襞に摩擦を加えた。とめどなく湧き出る愛液で膣内はぬめり、指の動きはかなり速く肉襞を擦りたて ても引き攣れることもなく、激しい快感を生み出していた。ペニスを挿入された際傷ついた膣内も、指一本であれば全く痛みを感じず、快感だけを感じていた。
匠くんの中指は根元まであたしの膣内に没し、匠くんはその指を激しい速さで出し入れして、膣の中を摩擦した。顎を仰け反らせ激しく喘いだ。自分の耳に届くその声は荒々しく動物のように野性的な感じに聞こえて、自分が発しているものとは思えなかった。
ああっ、あはあっ、はくうっ、いいっ、いいのっ、ひいっ、あっくうっ、いいっ、匠くん、やあっ、いいっ。
完全に快楽の虜になっていた。
匠くんの口が乳房から離れ、乳房への刺激が無くなって不満に感じた次の瞬間、股間に新たな快感が湧き起こり一際高く啼いた。
匠くんの舌があたしの最も敏感な部分を舐め回していた。包皮の上からちゅうと吸い上げたかと思うと、包皮を押し開き、直接クリトリスを舌で転がした。
頭を振り立て、がくがくと身体を波打たせた。
強く甘美な刺激で大きく膨らんだクリトリスを匠くんの舌は激しく擦りたて、転がし、速い小刻みな刺激を与え続けた。
指の動きも舌に合わせるように激しさを増し、膣の内側を甘く擦り立てた。
加速するような快感を与えられ、すさまじい高みへと一気に引き上げられていった。頭の中で絶え間ない快感が弾けて爆ぜた。眩い光が明滅しあたしの視界はちかちかと火花を放った。自分の声をコントロールできず、大きく開いたままの口からは欲情に塗れた喘ぎ声を放ち続けた。
イくうっ!ひいっ、やっ、ああ、アアアーッ!
大きく仰け反ったまま全身が硬直し、絶叫のようなよがり声を放ち、激しい絶頂に達した。
達してからも匠くんは指と舌の動きを緩めず、更なる摩擦による刺激を加え続けた。
イッたままのあたしは、続けざまにイッていた。連続した絶頂に襲われ硬直させたままの身体をがくがくと戦慄(わなな)かせた。
留まることを知らない快感に絶頂を繰り返す中、あたしは恐怖さえ感じていた。絶頂の高みから降りることもできず、更なる絶頂に無理やりに引き上げられ、嵐 に舞う木の葉のように快楽の絶頂の中でその身を翻弄され、行くあても分からないまま巻き上げられ、自分が感じているのが快感なのか恐怖なのか判別できなく なっていた。大きく見開いたあたしの瞳からはとめどなく涙が流れ出していた。大きく開けた口からアア、アアッ、と声にならない喘ぎを漏らし続けた。

どの位絶頂が続いていたのか分からなかった。気付いたらあたしは呆けたように全身を弛緩させ、ベッドに四肢をだらりと投げ出していた。匠くんが抱きかかえるように寄り添い、あたしの髪を優しく撫でていた。いつの間にか気を失ってたんだろうか?
「大丈夫?萌奈美?」
匠くんの心配げな眼差しがあたしの顔を覗き込んだ。まだはっきりとしない感覚のまま、匠くんに手を伸ばし訊ねた。
「あたし、気絶してたの?」
意思の籠もらない、呆けたような声だった。
匠くんは伸ばされたあたしの手を取りしっかりと握ってくれた。
「気絶はしてないようだったけど、しばらく放心したようになっちゃって、動かなくなっちゃって、瞬きもしないし口もぽかんと開けたままで、どうしちゃったかと心配になったよ」
匠くんに弱弱しく縋(すが)りついた。匠くんは優しく背中に手を回し抱き締めてくれた。
「何だか恐かった。イッたまま、またイッて、イキ続けて戻らなくなっちゃって。気が狂っちゃうのかと思った」
まだふわふわした意識のまま喋っていた。
匠くんは少し後悔したみたいだった。
「ごめん。僕がやり過ぎだった」
あたしの顎に手をやり匠くんは自分の方へ上向かせた。視線を上げると匠くんの顔があった。まだ感覚がぼんやりとしていた。
「ううん、平気、だけど、あんな風になったの初めてだから、ちょっと恐かっただけ」
抑揚の欠いたたどたどしい喋り方だと我ながら思った。
「ごめん」
匠くんはあたしを抱き締め、もう一度謝った。匠くんの胸に顔を埋めながら頭を振った。

その後もあたし達二人は裸のままベッドの上で身を寄り添わせていた。互いの身体に触れ、欲情すると愛撫し、絶頂に達した。匠くんもまたさっきみたいになら ないように気を配りながらあたしの身体を愛撫してくれた。匠くんの愛撫で絶頂に達するのはとても気持ちよかった。快感が終わったあとも身体を摺り寄せ、そ の温もりを感じてとても満たされていた。あたしは匠くんの愛撫でその後も三、四回絶頂に達した。あたしも匠くんを三回射精に導いた。
二人とも欲望に取り憑かれたかのように快楽をむさぼった。
身体に疲労を感じ、いつしかあたし達は眠り込んでしまった。

匠くんが先に目を覚ましたようだった。
あたしは匠くんの声で起こされた。なんだかすごく身体が重く感じられた。瞼を開けるのさえ億劫だった。
「いつの間にか寝ちゃってたみたいだ」
匠くんの声もまだどこかぼうっとした感じだった。
まだぼんやりとした意識のまま、薄目を開けて隣にいる匠くんを見た。匠くんは上半身を起こしてベッドの頭のところに寄りかかっていたけれど、ひどく気怠そうだった。実はあたしもそうだった。ベッドから身体を起こすのも面倒くさく感じていた。二人とも身体は疲れ切っていた。
「セックスってすごい疲れるんだね」
初めて知った意外な事実を口にした。
「そりゃあ、あれだけすれば、疲れもするんじゃない?」
匠くんは億劫そうに答えた。
それもそうか、ってぼんやり納得した。
匠くんはふと気付いたように窓の方を見た。
「なんか、暗くない?」
部屋は既に薄い暗闇に包まれ始めていた。
言われてあたしも窓を見た。カーテンが閉まってて暗いのもあるけど、どうやらカーテンの向こうは既にかなり薄暗くなっているように感じられた。
「今、何時なのかな」
のろのろとベッドサイドに置いた携帯を開いて、画面の時刻を確認した。
暗いのは当たり前だった。携帯の時計は午後7時15分を表示していた。ぎょっとして日付を確認したら、日付は変わってなかったので少しほっとした。
力のない声で匠くんにその事実を伝えた。
「匠くん、今、午後7時15分」
匠くんは愕然としたように目を見開いた。
「え!?」
そう言ったきり絶句してしまった。
「どうしよう?」
途方に暮れた声で匠くんに話しかけた。
「どうしようって、萌奈美帰らないと」
匠くんは慌てた口調で答えた。
そうだよねえ、やっぱり帰らなきゃまずいよねえ。遅くなるなんて一言も言って来なかったから、もしかしたら既に心配してるかも知れない。
そうは思ってもさっぱり身体を動かす気にならなかった。すごくだるくてこのままベッドに横になっていたかった。
「泊まっちゃおうかな」
ポツリと呟いた。あたしの呟きを耳にした匠くんは慌てていた。
「え!?本気?」
匠くんの方へ顔を向け、「うん」って頷いた。
「だって、まずいでしょ。家に連絡しない訳にいかないし、何て言うの?」
明らかな動揺を隠せずに匠くんは聞いてきた。
「んー、友達の家に泊まるって言おうかなー」
よく考えずに思いついたままを口にした。
「友達って?」
「んー、春音か千帆のとことか」考えるのも面倒くさく感じながら答える。
「すぐバレるんじゃないか?」
匠くんはひどく不安そうな顔をしている。
「そうだね。じゃ、匠くんとこに泊まるって正直に言うとか?」
軽いジョークのつもりで言う。
「え、それってマジ?」
匠くんの不安は更に募ったようだ。
「駄目?」
おねだりするように上目遣いで匠くんを見つめる。
「駄目って・・・まず萌奈美の家が許さないだろ。いきなり男の家に泊まっていいかって電話してさ」
匠くんは苦りきった表情をしていた。
「でも、うちのママって話分かるから、意外といいよってOK出してくれるかも知れないよ。・・・パパはどうか分かんないけど」
明るい声でそう話した。
「それにしてもさ、電話したら僕も挨拶しない訳にいかないだろ。まだ付き合ってることの報告というか挨拶もそもそも済ませていないのに、いきなり電話で今 晩お嬢さんを家に泊まらせてくださいって、一体どういう奴だよ。印象最悪だよ。絶対、即座に帰ってきなさいって叱られるのがオチだよ」
そう言って匠くんは頭を抱えた。
そうかなあ。匠くんて意外と悲観的なんだね。匠くんの様子を見ながら暢気なことを考えていた。
匠くんは乗り気ではないけれど、あたしの中では帰る気なんか全然無くて、もうすっかり今夜匠くんの部屋に泊まるつもりだった。怒られたら電話切っちゃえばいいやっていう位のノリで、あたしは携帯で自宅へ電話をかけていた。
何度か呼び出し音が続き、「はい、阿佐宮です」って声が響いた。すぐにママの声だって分かった。気楽に考えていたのも束の間、いざママの声を聞いたら緊張してビビってしまっていた。
あたしが無言でいると「もしもし?」って問い質すママの声が響いた。
「あ、ママ?」
考えがまとまらないまま口を開いていた。
あたしの声に頭を抱えていた匠くんがギョッとした表情で顔を上げ、あたしが電話している光景を目にして愕然としていた。
「萌奈美?どうしたの、こんな遅くまで帰って来ないで。今何処なの?」
ぎくり。いきなり核心に迫る質問だった。
「えーとね、今日泊まっていってもいい?」
内心びくびくしながら聞いてみた。
「泊まるって、萌奈美、大体、貴女今何処にいるの?」
うう、やはりそれを言わないと話が進まないか・・・。
あたしは諦めたように告げた。
「ええと、今・・・匠くんの部屋」
電話の向こう、ママがはあ?と頓狂な声を上げた。
「匠くん、て誰?」
それはそうだ。ママは匠くんのことを何も知らないし。
「えっと、ね、佳原匠くん・・・」
迷った末に仕方なく白状した。
「あたしがお付き合いしている人」
ちらっと匠くんを見たら、匠くんは絶望したような顔で話の行く末を案じていた。
電話の向こうでしばしの沈黙があった。
「・・・ふーん。お付き合いしてる人、ねえ」
含みのある口調でママが呟いた。
「うん。あたし達恋人同士なの。それでね、今晩匠くんの部屋に泊まっていっていい?」
あたしは畳み掛けるように訊ねた。
「萌奈美、貴女ね、恋人の部屋に泊まるって自分が言っていることの意味理解してる?」
ママの呆れたような声が聞いた。
そんなの、分かってるもん。当たり前じゃない。あたしだっていつまでも子供じゃないんだから。恋だってするし、恋人と一晩中一緒にいたいって思うし、そうしたらどうなるか位分かってて言ってるよ。
「もちろん、分かってるよ」
口を尖らせて答えた。
「ふーん。じゃあ、既にそういう関係なのね?」
ちょっと厳しさを含んだ問い質すようなママの声だった。
毅然とした声で答える。
「そうだよ」
・・・実を言えば今さっきそういう関係になったばっかりだけど。
もし、ママが有無を言わさずに帰ってきなさいなんて言おうものなら、絶対嫌!って答えて電話をたたっ切る位のつもりだった。絶対後に引かないんだから。
ママがはあっと大きく息を吐いたのが聞こえた。
「萌奈美、貴女、変わったわね」
先ほどまでと違って柔らかい声だった。
「貴女、今迄は本当に品行方正っていうか、優等生っていうか、手がかからない子で、親に全然心配かけさせない子だったわよね」
ママは突然何を言い出したんだろう。ママが何を言いたいのかさっぱり分からず、ただ黙って聞いていた。
「ボーイフレンドの話だって全然聞いたこと無かったし、むしろちょっと心配してたのよ。17歳でボーイフレンドの一人もいないなんて、って。まあ、聖玲奈や香乃音と較べちゃうと余計にね」
聖玲奈は分かるけど、香乃音って?
「香乃音って?」
香乃音が何なのか分からなくて聞き返した。ママはあら、と意外そうな声を漏らした。
「萌奈美、もしかして知らなかった?香乃音、あの子、ボーイフレンドいるのよ」
は?あたしは耳を疑った。だって、香乃音そんな素振り全然見せないし、そもそも香乃音まだ中三だよ。
「あら、中三だったらボーイフレンドの一人や二人いるでしょ、今時。って、ママの頃だってママ中学生でボーイフレンド位いたわよ。チューだってしたし」
がーん。初めて聞く事実だった。ママの話はともかく、香乃音にボーイフレンドがいるなんて、今の今までぜんっぜん知らなかった。そしてはっと思った。
「あの、香乃音、まさか、もう?」
あたしが核心を避けるような言い方でしか聞けないのを、ママは笑いながら答えた。
「あら、キス位済ませてるんじゃないの?あの子のことだから。まあ、流石に最後まではまだ未経験だと思うんだけど」
すごいショックだった。まだまだ子供だと思っていた香乃音にボーイフレンドがいて、恐らく少なくともキスはもう済ませているなんて。
「聖玲奈に関してはあの通りだしね」っていうママの声も耳に入っていなかった。

「それで、ちょっと話が反れちゃったけど、娘達の中で萌奈美はなんでそんな優等生に育っちゃったのか不思議な位品行方正でいい子だった訳ね」
ママの娘なのにね、って言ってママはくすくす笑った。
「だけど、萌奈美もやっぱりあたしの血を受け継いでたというか」
ママは感慨深そうに言葉を続けた。
「情熱的な性格を秘めてたのね」
ああ、そうだ。ママはとっても情熱的で恋に一途な女性なんだった。パパと出会って恋に落ちてからの、そのドラマティックなエピソードの数々、その末にゴー ルインしてから今日まで続くラブラブなハッピーライフをあたし達子供に何度も聞かせてくれたし、その度にあたし達にもパパのような素敵な男の人と素敵な恋 をしなさい、って諭していたんだった。(パパのことはもちろん大好きだけど、パパが相手でそんなドラマティックで情熱的な恋愛が展開したのかどうか、あた しも聖玲奈もちょっと首を傾げたものだった。そんなこと言おうものならパパを侮辱したってママが激怒するから決して口には出さなかったけど。)
パパとは今だってラブラブだし、ママのパパへの恋心は途絶えることを知らずに今現在に至っているんだった。高校二年にもなる娘がいるっていうのに、ね。
そしてはた、と気が付いた。そう言われて見れば確かに匠くんと出会ってから殆ど一心不乱に匠くんを想い慕って来たあたしの姿は、ママの娘に違いなかった。その事を今更ながらに知ってちょっとショックを受けた。
「ねえ。今迄の反動みたいに一度(ひとたび)恋に落ちたら、もう周りが見えなくなっちゃってひたすら好きな人のことしか頭に無いのね」
ママは意外にも嬉しそうだった。でも、自分の娘が男の人に現(うつつ)を抜かしているのが嬉しいっていうのは、母親としては果たしてどうなんだろう?ママの話を聞きながらそんなことをふと思ったりした。
「今迄、貴女が我が儘なんて言ったのを聞いた覚えないけど、こと好きな人のこととなると丸っきり子供みたいに聞き分けなくなっちゃうなんてね。なんか、実は萌奈美が三人の中で一番恋に盲目で情熱的だったりするのかしら」
笑いながら不思議そうにママは言うのだった。
あたしは何とも言えなくて、ただママの話を黙って聞いていた。
「大体ねぇ」って呆れた口調でママは話を続けた。
「親に恋人の紹介を済ませてもいないのに、いきなりその恋人の部屋に今日泊まっていっていいか電話で聞くなんて、順番は滅茶苦茶だし支離滅裂だし、普通常 識的に考えたらそもそもそんなこと聞かないでしょう。ねえ。普通もうちょっと上手くやらない?女の子の友達の家に泊まるとか。もうちょっと上手にアリバイ 工作するものだと思うんだけど」
ママの口から「常識的」とか「普通は」なんて言葉を聞くのがそもそも意外だったし、娘が男の人と外泊しようとしてるのを、もっと上手にアリバイ工作するも のだって指摘するなんてどういうつもりなんだろう。やっぱりママは決して常識的じゃないと思うんだけど。ママの話を聞きながらそう思ったものの口には出さ なかった。
「まあ、でもその壊れっぷりというか、優等生だった萌奈美の支離滅裂ぶりはちょっと面白いわねえ」
ママは心の底から愉快そうにころころ笑っている。
「そんなこと言ったって仕方ないじゃない」
からかわれているような気がして拗ねるように言った。
「ねえ、泊まるのを許してくれるの、許してくれないの?」
「あら、その調子じゃ許さなかったところで、帰ってくるつもりはなさそうね。まるっきり駄々っ子ね」
ママは挑発するかのような口振りで答える。
むっとしてもうちょっとで電話を切りそうになった。
「それで、今、佳原さん、だっけ?そこに居るの?」
不意にママの口調が改まった。突然冷水を浴びたような気持ちになった。
「できれば佳原さんとちょっと話したいんだけど」
ママの言葉に、あたしは躊躇うような視線を匠くんに向けた。
あたしの眼差しに浮かぶ躊躇の色に気付いた匠くんがはっとした。
「ええと・・・」
ここで匠くんを電話に出していいものだろうか?普通だったらここで世の中の母親は娘の交際相手を非難するものなんじゃないだろうか?曰く、まだ高校生の娘に外泊を勧めるなんて一体どういうつもりなのか?とか。
「あのね、ママ、言っとくけど泊まって行きたいって言い出したのはあたしの方なんだからね。匠くんは帰るようあたしに言ってたんだから。匠くんはちっとも悪くないから」
今更ながら言い訳した。
「あら、そうなの。・・・まあ、そうなんでしょうね」
ママは妙に納得したような口調で呟いた。
「それはいいんだけど、取りあえず佳原さんと話させてくれる?」
諦めて匠くんに顔を向けた。
「ママが話したいって」
匠くんは一瞬顔を青くしたけど、すぐ気を取り直してこちらに手を差し出した。おずおずと携帯を渡した。あたしの考えなしの行動で匠くんが非難されるかと思うと申し訳ない気持ちだった。
「もしもし?」
匠くんは硬い声で電話に出た。
「萌奈美さんのお母さんですか?萌奈美さんとお付き合いさせていただいてます、佳原匠と申します。あの、初めまして」
隣で聞いていて、匠くんもこういう時にはちゃんと改まった話し方するんだなあ、やっぱり大人なんだなあ、とかこの状況で不謹慎なことを思っていた。
「ああ」
電話の向こうからママの朗らかな声が聞こえた。
「佳原さん?こちらこそ初めまして。萌奈美の母です。いつも萌奈美がお世話になっているみたいで」
ママが何を言うのか気になって、匠くんにぴったり寄り添うように携帯に耳をくっ付けて盗み聞きした。
「いえ、こちらこそ・・・」
匠くんはもごもごと返答した。思わず心の中で「頑張って、匠くん!」って励ました。
「ところで佳原さん、お幾つなの?」
聞こえるママの声は、普段聞き慣れているのとはかけ離れたよそ行きの声だった。ちょっとつんと澄ました感じの。
「え、あ、26です」
ちょっと躊躇うように匠くんが答える。匠くんの手をぎゅっと力を込めて握った。匠くんは弱弱しい視線であたしをちらっと見返した。
「ああ、意外と年上なのね。萌奈美の様子から相手が年上だとは思っていたんだけど」
やっぱり歳が離れてるっていうのは気になるんだろうか?余り世間に捉われない感じのママにしても。歳の差を理由に反対するのは親の常套手段だし。あたしは心配になった。
「そ、そうですか・・・」
匠くんもそのことについては自信がないのか、気弱な返事をした。
「お仕事とか何されてるの?」
ママは遠慮なくずけずけ聞いてくる。
「はあ、あのイラストレーターというか、絵を描く仕事をしてます」
匠くん!恋人の親の手前、もうちょっと自信持って答えて!心の中でお願いした。
「あらあ、素敵なお仕事されてるのね」
聞いていて絶対お世辞だって思った。声にちっとも真実味が感じられない。
以前に近所の人の自慢話を聞いているとき、こんな声音で返事していたのを見かけたことがある。あとで聖玲奈相手にけらけら笑いながら、その人の自慢話をけちょんけちょんに貶(けな)していたのをあたしは知っている。
匠くんが何してようと勝手でしょ!きちんと働いて生活してるんだからいちゃもんつけないでよ!よっぽど携帯をひったくって言ってやろうかって考えた。
「お一人暮らしなの?」
「え、妹と二人暮らしです」
「アパート?」
「え、あの、マンションです、一応」
「ふーん、賃貸?」
「あ、はい」
「どちらにお住まいなの?」
「はあ、武蔵浦和です」
二人のやり取りを盗み聞きしながらあたしは舌を巻いた。まるでお見合いの席のやり手の仲人さんのように、相手の身辺情報をスピーディーに聞き出している手際の鮮やかさは見事っていう他なかった。
そしてこの情報は数時間後には漏れなく聖玲奈に伝わっているに違いなかった。なにしろビール片手に男の人の値踏みをするのが二人の趣味なのだ。因みに聖玲 奈は高校一年生だっていうのにアルコールにやたらと強い。ワインでもビールでも日本酒でも泡盛でもウオッカでもスピリタスでもなんでも来いって豪語してい たのを聞いたことがある。(そう聞いてもあたしには泡盛もウオッカもスピリタスもどんなものだかよく分からなかったけど。)前にママと聖玲奈が飲んでいる ところを見つけて、母親が未成年の子供にお酒勧めてちゃ駄目じゃないってあたしが注意したら、ママはけろりとした顔で、あら、家で飲んでるんだからいい じゃない、って妙な理屈で言い返したことがあった。そういう母親なのだ。
あたしの脳裏には今晩ママと聖玲奈が入手した情報を元に、匠くんについてああだこうだって品定めしている光景がまざまざと浮かんでいた。
「それで萌奈美ったら、毎日のようにそちらにお邪魔してるんでしょう?ご迷惑じゃない?」
「いえ、そんな、ちっとも」
「そお?それならいいんですけど。萌奈美ったら、親もびっくりする位すっかり大胆になっちゃって。前はそんな子じゃなかったんですけど」
「はあ・・・」
「聖玲奈と性格が入れ替わっちゃったんじゃないかって思うくらいの変わりようで。あ、聖玲奈っていうのは萌奈美の妹なんですけど」
「はあ・・・」
「その妹の聖玲奈がすごい男の子に積極的な性格なのね。親のあたしが言うのも何だけど、すーぐボーイフレンドを変えちゃうようなコでね。あのコ、男の子と半年続いたことないんじゃないかしら」
「はあ・・・」
「その割にはいつも誰か付き合ってる人いるのよね。要領いいっていうか、まあ男の子受けいいのよね。そういうところずば抜けて上手っていうか、秀でているっていうか。ひとつの才能としたら大したものだと思うわ、ホントに」
「はあ・・・」
「あ、そうそう、それで萌奈美と1コ違いなんだけど、何でこんなに正反対なのかって親が不思議に思うくらい真逆の性格でね」
「はあ・・・」
「そもそも、萌奈美が母親のあたしからすると、何がどうなってあんなに真面目な優等生に育っちゃったのかしらって首を傾げたくなる位の真面目さだったのよね」
「はあ・・・」
「で、ボーイフレンドの話はおろか、男の子の名前がその口から出てくることを聞いた覚えがない位の堅物だった萌奈美が、今や毎日のように男の人の部屋に入 り浸ってるわ、電話で男の人と外泊するって言うわの乱れようでしょ。ねえ、180度の変わりようって正にこういうことを言うんだと思わない?」
「はあ・・・」
矢継ぎ早に喋るママに、匠くんは相槌を打つのがやっとっていう有様だった。隣で聞いていて、それは防戦一方っていった感じだった。
それにしてもママの言い方は、娘を評してあんまりなんじゃないかって腹が立った。なんかあたしが超軽薄なイケイケギャル(?)のような物言いじゃない?言っとくけど、あたしは匠くん一筋なんだから。思わずそう抗議してやろうかって思った。
「あの・・・」
その時だった。唐突に匠くんがママの話しを遮って言った。
「はい?」
ママもちょっとびっくりしたように聞き返した。
「本来ならば、きちんとお伺いしてご挨拶してというのが筋ですが、こんな形でのご挨拶になってしまって本当に申し訳ありません」
匠くんが恐縮した口調で喋りだして、あたしも思わず背筋を伸ばした。
「お母さんとしては非常に憤慨されていらっしゃることだと思いますが・・・」
「あら、貴方のお母さんじゃないわよ」
匠くんの緊張など知らんぷりで、けらけら笑いながらママは茶々を入れる。
我が母親ながら少しは真面目に話を聞きなさい!って怒鳴りたくなった。
匠くんは話の腰を折られて焦っていた。その様子はとても可哀相だった。
「は、えっと、・・・あの、弁解の余地は全くありませんし、全て僕の至らなさが原因です。だらしないと言われても仕方ありません」
気を取り直して匠くんは話を続けた。
「あの、年上の僕がもっとしっかりするべきでした。責任は全部僕にあります」
匠くんは本当に自責の念一杯の様子で話している。それを見ていて胸が痛んだ。悪いのはあたしなのに。
「萌奈美さんは悪くありません、どうか怒らないであげてください」
匠くんは悪くないじゃない!全部あたしが悪いんだよ!あたしが我が儘なのがいけないんだから!匠くんとママに大声でそう言いたかった。
こんな状況に匠くんを追い込んで、今更になって自分の軽率さを後悔していた。
「あの、これからすぐ萌奈美さんを送って行きますから」
あたしは思わず電話でそう告げている匠くんを見た。この状況にあっても、まだあたしは帰りたくなかった。
どこまで我が儘なんだろう。自分に嫌気が差しそうだった。
「あら、帰すの?」
その時、こちらの緊張した空気をぶち壊すような暢気な声が、電話の向こうから返って来たのだった。
は?
あたしも匠くんも目が点になった。
匠くんはママの言っている意味がよく理解できないようだった。頭上に大きな?マークを浮かべながらあたしの方へ視線を送った。
あたしもママの突飛な言動について、ただ首を振るしかなかった。
「は?・・・あの?」
よく分からずに聞き返す匠くんに、
「その子、帰るつもり全然ないと思うわよ」けらけらと軽く笑いながらママはそう言ったのだった。
ママの言葉にぎょっとしていた。あたしの考えていることなんてお見通しだった。流石は母親だけのことはある。ママ、侮(あなど)りがたし。
「頑固なところは誰に似たのか、自分で一度決めたらてこでも動こうとしない強情なところあるし」
「はあ?」
「どうせ親が駄目って言ったところで聞こうとしないと思うわよ」
「いや、ですが、しかし・・・」
全く予想しない展開に匠くんは完全に虚を衝かれてしどろもどろになっていた。
「まあ、あんまり若い娘の親としては言うことでもないのかも知れないけど」
ママは匠くんの様子など全く意に介さず、一方的に話を進めていく。
「別に悪いことやってる訳でもないし、いいんじゃないの?」
あたしも匠くんも耳を疑った。
「あ、流石にパパには面と向かって娘が男と外泊してくるなんて話したら、ショックで倒れちゃうかも知れないから適当に上手く言っとくわね」
そう言ってまたけらけらと笑った。
「いや、あの・・・」
二の句が告げないっていうのはこういうことを言うんだろうなって匠くんの様子を見ながらあたしは思った。
「あ、あと」
思い出したようにママの声が高くなった。
「佳原さん立派な社会人だし収入もそこそこあるみたいだから、いざ責任取る時は心配いらないとは思うんだけど、一応、高校卒業するまではちゃんと避妊してちょうだいね」
匠くんと二人で絶句した。
「生が気持ちいいのは分かるけど」
とても母親とは思えないようなことをママは平然と付け加えた。
「それじゃ、あんまり一途過ぎて時々迷惑に思うようなこともあるかも知れないけど、萌奈美のことよろしくね」
匠くんに向かってママはそう言い、あたしにも「萌奈美、そのうちでいいから佳原さん、家に連れて来てちゃんと紹介して頂戴よ」って釘を指してから、「じゃあね」って一方的に告げて電話を切った。
あたしと匠くんは両側から携帯に耳を押し当てて寄り添った格好のまま、電話を切るのも忘れてしばらくの間固まっていた。静まり返った部屋にツーツーっていう音が微かに携帯から響き続けていた。
 


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