【 FRAG-ILE-MENT 】 ≪ Gift 第1話 ≫


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今は何時頃なんだろう。10時過ぎに携帯が鳴ってから、多分30分は経っているはず。
カーテンを閉めた窓の向こうでは小雨が降り続いている。6月にしては肌寒い夜だった。ベッドに潜り込んで頭から毛布を被って喋っていた。温かい暗闇の中、 耳元で囁くように聞こえる匠くんの声は何だかすごく親密なものに感じられた。できれば匠くんが傍にいて直に声を聞かせてくれたらいいのに、なんてそんな願 望が頭を掠(かす)めた。
匠くんに告白して、匠くんと恋人同士になってから二週間が経とうとしていた。
平日で部活がない日は匠くんの部屋にお邪魔して、休みの日には一緒に出掛けて、毎晩電話で話して。すっかりあたしの日常は変わってしまった。ママやパパか らすればあたしは「悪い子」になってしまったのかも知れない。平日帰宅するのは決まって7時過ぎ、8時を過ぎることもしばしばだった。(匠くんはあたしの 帰りが遅くなるのをすごく気にしてて、いつも「もう遅いから帰らないと」って促されるんだけど、あたしが何かと言い訳して帰る時刻を引き延ばしているの だった。)休みの日になると毎回のように午前中から出掛けて日が暮れてから帰宅した。流石に9時、10時になるようなことはなかったので、ママもパパも気 にはしながらも余り口うるさくは言ってこなかった。何度か「最近帰り遅いのね」とか「今日も出掛けるの?」とか聞かれたりしても、あたしは「うん、ちょっ と・・・」って口を濁してそそくさと逃げ出してしまうのが常だった。ママ達の視線を気にはしつつも、それでも匠くんと会いたくて仕方がなかった。匠くんと 会い、匠くんと話す毎日がたまらなく幸せだった。

話題が途切れた時だった。唐突な感じで匠くんに聞かれた。
「今度の土曜の夜って出掛けられるかな?」
もちろん土曜は空いているに決まってる。匠くんを「匠くん」って呼ぶようになってから、あたしの休日に予定が入ることは殆どなくなってしまった。若しくは匠くんと過ごす予定で埋まってて全日予約済みであるとも言えた。そう匠くんから約束された訳ではないのだけれど。
でも夜っていうのは・・・あたしはちょっと迷った。そして質問した。
「夜って何時頃?」
「午後6時から多分8時、9時位。帰ってくるのは、だから遅くて10時位になっちゃうかも」匠くんは答えた。
随分具体的な返答だった。まず「午後6時から」っていうのはどういう事なのかな?映画か何か観るのかな?でも映画だったら夜にこだわる必要もない気がするし。あ、ライブとかお芝居とかそういうのかな?色々考えを巡らせた。
「何か舞台観たりとか?」
あたしは聞いてみた。
「いや、違うんだけど・・・」
匠くんはそう言ってすこし言い淀んでいる。はて?一体何なんだろう?
「何なの?匠くん」
じれったくなって聞き返した。
「うん・・・」って頷いてからも少し間が開いて、それからやっと匠くんは話し始めた。
「実はさ、友達から電話があってさ、今度会おうって言って来たんだけど・・・」
匠くんの友達からの電話があたしにどう繋がってくるのか、さっぱり分からなくて大人しく耳を傾けていた。
「それで、何処から掴んだのか、僕に彼女ができたっていう情報が流れたらしくて・・・」
ふむふむ。話を聞きながら、その彼女っていうのは当然あたしの事なんだろうな、なんて他人事のように考えていた。
「今度、連れて来て紹介しろって言われて」
・・・はい?
そこで初めてこの話があたしにとても関わりのあることなのを理解した。目が点になる、っていう喩えが浮かんだ。自分の顔を見てないので本当にそうなっていたのか分からなかったけど。
匠くんの声には弱りきったっていう心情がありありと読み取れた。
「誤魔化そうと思ったんだけど、ネタは挙がってるんだって向こうは譲らなくてさ・・・」
うーん、どうしよう・・・あたしは迷った。面と向かって彼女って紹介されるのは面映かった。でもその一方で、匠くんのお友達に匠くんの彼女として紹介され るのは、なんだか公式な彼女として認められるみたいで嬉しい気もしていた。(「公式な彼女」って言い方がそもそもあるのか知らないけど。)
あたしが黙り込んで思案しているのを、行きたがっていないって受け取ったのか、匠くんは何か予定が入ってるとかって言って行けないことにしようか、それとも自宅の門限があるから夜は出掛けられないって言おうか、なんて断るための口実を色々上げていた。
「うん、大丈夫だよ」
けろりとした口調で返事をした。
電話の向こうで匠くんが素頓狂な声で、は?と聞き返すのが聞こえた。
「だから、今度の土曜、行けるから」
もう一度あたしは答えた。
匠くんが「本当にいいの?」って念を押した。
あたしは笑いながら「うん。本当にいいよ」って返事を返した。
匠くんの仲の良いお友達にも会ってみたかったし。
「お父さんとか大丈夫?」
匠くんが聞いたので、「うん。ちゃんとあらかじめ言っておけば全然平気。うちのパパとママ、子供に理解あるから」って答えた。

今度会うことになった匠くんのお友達は、大学のゼミで一緒だった間柄でそれ以来の付き合いだっていうことだった。大学を卒業した今でも月に1回位会ってい るらしい。中でも九条(くじょう)さんって人は、面倒見が良くて顔が広くて仕切るのが上手で、今も当時のメンバーでの付き合いが続いているのは九条さんの 功績によるところが大きいらしかった。社会人になってからは九条さんは仕事とかで知り合った人も集まりに誘ってみんなに引き合わせたりして、メンバーの幅 が広がっているんだそうだ。初対面で慣れない者同士、場が白けたり浮いてしまわないように九条さんがちゃんと取り次いでくれて、九条さんはそういう才覚に 優れているのだと匠くんは評していた。
そもそも、匠くんはそれ程社交的でもないし友人が多い方でもないけれど、(それは付き合っているあたしも認めるところで、どちらかっていうと人付き合いが 悪いって言った方が正しいかも。)九条さんがいるから疎遠にならずにいられるって話していた。匠くんの話し振りからは、匠くんが九条さんをとても親しく 思っていて、信頼しているのが感じられて、匠くんがそんな風に思っているお友達に、あたしも会ってみたいって思った。

◆◆◆

「今度匠くんのお友達に会うことになっちゃった」
あたしは春音と千帆に相談した。
いつもの中学校舎の二階にあるビオトープのベンチに三人並んで座って。
昨夜の雨は上がって今日は晴天。目に映る緑は初夏になって濃く、深くなっていた。生命力に溢れてきらきら輝いて見えた。
「それって困ってるの?それとも喜んでるの?」
千帆が笑いながら言葉では意地悪そうに聞いてきた。
言葉に詰まった。もちろん困ってたし、でも喜んでもいた。図星を指されてあたしは顔を赤くした。
千帆はしてやったりの顔をした。
「萌奈美ってば正直」
あたしは困って言った。
「意地悪言わないでよ」
千帆は涼しい顔で答える。
「だーって、惚気(のろけ)られてもねー」
ううっ、惚気(のろけ)たつもりはなかったんだけど・・・
「それで何が問題なの?」
春音はあたしと千帆のじゃれ合いには全く関心を示さずに、極めて単刀直入に聞いて来た。
「ええーっ、だから、匠くんのお友達って言ったらみんな大人の人達ってことだよね」
「佳原さんと同年代っていうことであれば20代後半、年齢的には「いい大人」の範疇だろうね。中身が大人かどうかまでは知らないけど」
春音は皮肉めいたことをさらりと言ってのける。
「その人達から見れば、あたしなんてまるっきり子供だよね」あたしは憂鬱な気持ちで呟いた。
「はーん」
千帆が合点がいったように声を上げた。
「それを気にしてる訳」
「だって、彼女として紹介してもらうんだよ。それがやって来たのがあたしみたいな子供っぽいのだったら、みんなに呆れられちゃうんじゃないのかな。なんか匠くんに悪い気がする」
自分でそう言いながら、やっぱり断ればよかったかも、っていう気持ちがむくむくと湧き起こっていた。
「別にいいんじゃないの。佳原さんは萌奈美のことが好きなんだから。それで萌奈美のことを紹介するのに佳原さんが引け目を感じたりする筈ないんじゃない」
春音は素っ気無く言い放った。
本当にそうなのかな?いざその場に行ってみたらスーツ着た大人の男の人や、きちんとメークした大人の女性の中であたし一人だけ浮いてしまったりするんじゃないのかな。そんな不安が拭い去れなかった。
沈んだ表情でいるあたしを千帆も励ましてくれた。
「春音の言うとおりだよ。萌奈美は佳原さんの彼女なんだから、胸張って言えばいいんだよ。自分が佳原さんの彼女です、って」
うん。あたしは自信なく頷いた。
「それにね、知ってるコから聞いた話なんだけど・・・」千帆はそう前置きをして話し始めた。
「そのコはあたし達と同い年で、そのコの彼氏が8つだったかな年上なんだって」
千帆は他にもあたし達と同じような年の差カップルを知ってるみたいだった。あたしは真剣に聞き入った。
「それで彼氏の方の男友達に紹介された時、むしろすごく羨ましがられたって言ってたよ。彼女が十代の女子高生ってことで」
「若くてぴちぴちの女子高生の市場価値はすごく高いのよ」春音が他人事のように言った。
「なんか、それっておじさんの意見っぽいよね」
春音の言葉に千帆は気持ち悪そうに指摘した。
千帆に言われて春音はムッとして言い返した。
「あのね、あたしは世間一般に流布している女子高生に対する評価を言ったまでなの。誰がおじさんだっつーの」
「えー、でも春音って結構年寄り臭いこと言う時あるし、なんか食べ物の好みとかっておじさんっぽくない?なんかおじさん女子高生っていうか」
「千帆、てめー、この犯すぞ!」
「きゃーっ!変質者!」
二人は危ないことを大声で口走りながらじゃれ合った。周りにいた一部の生徒が何事かって顔であたし達の座っているベンチを振り返った。
あたしは二人とは無関係を装いたいって思いながら、二人と話せて少し気持ちが軽くなっていた。

◆◆◆

土曜日が訪れた。約束は午後6時から新宿っていうことだけど、匠くんと長い時間一緒にいたかったので午前中から匠くんのマンションに出掛けることにした。
ママには数日前から土曜日出掛けて帰りが遅くなるからって伝えておいた。誰と出掛けるのって聞かれたから、部活の先輩と一緒に部のOBも参加する集まりに出掛けるってことにしてあった。
此処のところのあたしの行動に、何となくママは薄々感づいているみたいだけど、特にはっきりと聞いてくるでもなく詮索されることもなかった。
出掛ける仕度を始めて、どんな服装をしていこうか迷っていた。少しでも大人っぽい服装の方がいいかなって思いながら、でもそんな服持ってなくて、クローゼットに掛けてある服を次から次へと引っ張り出しては姿見の前で合わせて見て、うーんって頭を悩ませていた。
「相変わらず何やってんの」
背後で声がしてぎくりと身を竦ませた。
振り返ったら聖玲奈がドアに寄りかかって呆れたようにあたしを見ていた。
「だから、何でいつもノックもせずに勝手に入ってくるのよ」
あたしは怒って言った。
相変わらずあたしが叱っても意に介した様子など微塵もなく、聖玲奈は涼しい顔で部屋の中に入って来た。
ベッドの上に散乱したあたしの服を退けると、腰を下ろしてすっかり居座ってしまった。あたしは呆れるしかなかった。
「また佳原さんとのデートに着てく服迷ってる訳?」
いい加減呆れ果てたって面持ちで聖玲奈はあたしを見た。
ムッとしながら言い返した。
「今日は匠くんのお友達に紹介されるの。だから迷ってるの」
いつものデートとは違うっていうことを強調した。
「ふーん」
聖玲奈は一応納得したように頷いた。
「それで何を迷ってる訳?」
「だから、匠くんのお友達って言ったらみんな20代後半だったりするでしょ。そういう中に入るんだからあたしも大人っぽい服装の方がいいかなあって思って」あたしは自信なく打ち明けた。
「でも、大人っぽい服装って言っても、あたしそんな服持ってないし・・・」
「ふーん」聖玲奈は頬杖をついてあたしをじいっと見据えた。あんまりじっと見つめられて、ちょっと居心地悪く感じた。
「そもそもお姉ちゃん、大人の女性っていう雰囲気じゃないし、まあ当たり前なんだけど」聖玲奈が口を開いた。
「お姉ちゃん、美人っていうより可愛い系なんだからさあ、無理して大人っぽい格好するより女の子らしい格好した方が絶対ポイント高いよ」聖玲奈は断言するように言った。
そりゃあ美人じゃないけど・・・「無理して」っていう聖玲奈の言葉にいたく傷ついた。どうせ無理やりにしか見えないわよ。胸の中で一人いじけていた。
「あれ?何ヘコんでんの?」
自分の発言のせいとも思わずに、目を丸くして聖玲奈は聞き返した。・・・時に殺意が生じるのはこういう瞬間だったりするのかも知れない。
「ねえ、ちゃんと話聞いてる?」
いじけるあたしにお構いなく聖玲奈は話しかけてくる。
「だからね、下手に大人っぽい格好してみたって、本当に大人の年齢の人達に肩並べられる訳ないじゃない。そうでしょう?むしろ歴然とした差があからさまに なっちゃうだけなんじゃない?それよりお姉ちゃんの魅力を引き出すお姉ちゃんらしい格好をした方がいいんだよ。その方が絶対魅力的で素敵に見えるから」
聖玲奈はあたしに力説した。
落ち着いて聖玲奈の言葉を受け止めてみて、それは確かに聖玲奈の言う通りだって思えた。
おずおずと聖玲奈を見返した。聖玲奈は自信満々の顔であたしを見て頷いた。
何で姉のあたしより聖玲奈の方がいつも自信に満ちていて、説得力も決断力もあって、そして揺るぎないのかって少し不思議に思った。

聖玲奈に見立ててもらって、「MERVEILLE H.」の濃いブルーのブロックチェック柄のキャミワンピースを選んだ。トップスはハイネックの白のシン プルなカットソーを合わせた。(匠くんの友達と会うってことで肌の露出の少ない服を選んだって聖玲奈がコメントした。一応そういう気配りはするのね、って 意外に思いながらも感心した。)
靴はあしながおじさんのパンプスにした。
リビングでくつろいでいたパパとママに「いってきます」って声をかけて玄関を出た。

◆◆◆

エレベーターを上がると匠くんが玄関の前で待っていてくれた。
「おはよう」
嬉しくなって駆け寄ったら、匠くんも「おはよう」って挨拶を返してくれた。
匠くんの前まで行くと匠くんは少し戸惑ったように目を瞬いた。
「どうかした?」
あたしが聞いても「ん、いや、別に」って素っ気無かった。
ちょっと素っ気無い態度に微かに寂しく感じたりもしたけど、匠くんはすぐ何事もなかったように笑顔を浮かべて「どうぞ」って玄関を開け、あたしを中へ招き入れてくれた。
「お邪魔しまあす」
気のせいかなって思い直し、元気よく挨拶して部屋に上がった。
「いらっしゃい」
麻耶さんがリビングから出てきた。いると思ってなかったのでちょっと慌ててしまった。
「あ、いらっしゃったんですか。おはようございます」
早口で挨拶をして頭を下げた。
「おはよう。今日はオフなのよ」
笑って麻耶さんは答えた。
顔を上げると、麻耶さんにまじまじと見つめられた。麻耶さんは頭から足の先までゆっくり視線を上下させた。麻耶さんの視線に気恥ずかしさを覚えて顔が熱くなった。
「うーん。やっぱり萌奈美ちゃんて可愛いよねえ。ねえ、ちょっと試しに事務所に一度来ない?」麻耶さんが言った。
麻耶さんが所属している事務所はモデルを中心にタレントや俳優のマネジメントをしているそうで、前にも一度誘われたことがあったんだけど、事務所に一度来 てみないかってことだった。でもあたしはそういうのにさっぱり興味がなかったので、せっかく麻耶さんが言ってくれて申し訳ないって思ったんだけど断ってい た。
「え、すみません。その話はあたし、全然関心ないので・・・」
気後れしつつも断った。
「そう?勿体ないなあ」
麻耶さんは残念そうな顔だった。
「おい。嫌がってるのに無理強いするなよな」
見かねたように匠くんが麻耶さんに言ってくれた。
「ふん。匠くんは萌奈美ちゃんがタレントになっちゃったりしたら手が届かなくなっちゃうから嫌なんでしょ」
からかうような麻耶さんの言葉に、匠くんはムキになって反論していた。
「ば、馬鹿、そういうんじゃなくて、本人が嫌がってるんだからって言ってるんだ」
あたしは匠くんの様子を見ながら、匠くんは麻耶さんが言うように思ってくれてたりするのかなって考えていた。もしそうなら嬉しいんだけどな。
「・・・僕達はもう出掛けるけど、お前はどうする?」
何だか無理やり話題を変えるみたいに匠くんが麻耶さんに聞いた。
「んー、6時からでしょ。今からだとまだ大分時間あるし、ずっと二人にくっついてお邪魔するのも悪いしな。・・・あたしは別に行くね」
「ん」匠くんは頷いて「じゃ、場所は知ってるよな?」って聞き返した。
「うん。新宿の「KEN’S DINING」でしょ。東口出てすぐの。大丈夫」
麻耶さんは笑いながらOKサインを出した。
二人のやり取りを聞きながらあたしは頭の中で「?」マークを浮かべていた。何だか聞いていると麻耶さんも今夜の集まりに参加するみたいな感じに聞こえるけど。
「匠くん」あたしは声を掛けた。
「ん?」匠くんがあたしの方を向いた。
「あの、もしかしたら、麻耶さんも今夜来るの?」
おずおずと質問した。
あたしの質問に匠くんはぽかんと口を開けた。今初めて気が付いたって顔だった。
「・・・そっか、萌奈美ちゃんにはまだ話してなかったっけ」
あたしは頷いた。
「あたしも今夜誘われてるの」
麻耶さんがあたしに向かって言った。
「麻耶も九条と顔見知りでさ。麻耶も同じ大学だったから」
匠くんは説明してくれた。
「あたしもお誘いを受けてて、今日は丁度上手い具合にオフだったから行くことにしたの」
麻耶さんが後を引き継ぐように言った。
「なんだ、匠くん、今日来るメンバー萌奈美ちゃんに教えてあげてないの?」呆れたように麻耶さんが匠くんに聞いた。
あたしは匠くんを見た。匠くんはあたしの視線を気にしつつ心外そうに言い返した。
「って言うか、僕だって今日来る顔ぶれなんて全然聞いてないよ。九条とあとは大学の時のメンバーかと思ってたんだけど違うのか?」
「えー、あたしは九条さんから電話貰って、あたしの友達にも声かけてって頼まれたから誘ってあるけど」
麻耶さんもよくは知らないって感じで答えた。
「匠くんも知ってるでしょ。あ、そういえば萌奈美ちゃんも一回会ったことあるよね。間中栞(まなか しおり)ちゃん。彼女も来るよ」
あたしは前に、最初に匠くんのマンションに来た時に会った女の人を思い出していた。麻耶さんのモデル仲間でふんわりした印象のとても愛らしい女性だった。
匠くんはぽかんとした顔で、誰にともなく呟いた。
「一体、どんな集まりなんだ今夜は?」
 


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