【 FR(L)AG-ILE-MENT 】 ≪ The Picture 第5話 ≫


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佳原さんは帰ろうとして、ふと思い出したようにチョコちゃんに訊ねた。
「そう言えば、仲里先生ってまだ市高にいらっしゃるんですか?」
「化学の仲里先生ですか?」
チョコちゃんが聞き返すと、佳原さんは「そうです」って頷いた。
「ええ。いらっしゃいますよ」
チョコちゃんは笑顔で答えた。
「じゃあ、ちょっと挨拶して行きます」
佳原さんがそう言ったので、チョコちゃんは「それでしたら、お連れしましょうか」って申し出た。
「いや、一人で行けますから」
遠慮がちに言う佳原さんに、チョコちゃんは説明した。
「仲里先生、化学準備室にいらっしゃると思うんですけど、中学校舎を建てる時に理科棟の方は一緒に建て直したそうなんです。だから理科棟は配置が丸っきり 変わっちゃってて、多分案内しないと分からないと思います」
二年前それまで高校しかなかったこの学校に、付属中学校が開校したのだった。中学校の校舎は高校の校舎に併設されて建てられ、その際老朽化していた理科棟 も建て直されたのだ。って言っても、あたしが入学した時にはもう理科棟は建て直されていたので、あたしも話に聞いて知っているだけだった。
チョコちゃんの話に佳原さんは納得したようだった。
「あの、それなら、あたしがご案内します」
思わずそう申し出た。
「阿佐宮さんが?」チョコちゃんは意外そうにあたしを見た。
「はい。仲里先生、あたしのクラスの担任ですから」
言い訳めいた主張をした。でもチョコちゃんは特に疑問も感じず、納得したみたいだった。
「ああ、そういえばそうだったわね。じゃあ、お願いしてもいいかしら?」
チョコちゃんに言われて、あたしは「はい」って頷いた。
美術室のある芸術棟から中学校舎への渡り廊下を、先に立って佳原さんを案内して歩いていたら佳原さんが話しかけて来た。
「・・・阿佐宮さん、仲里先生のクラスなんだ」
振り返って返事をした。
「はい、そうなんです」
それから佳原さんは打ち明けるように言った。
「僕も三年の時、仲里先生が担任だったんだ」
それを聞いてびっくりした。「そうなんですか?」
よくよく考えれば別に大したことでもないのかも知れないけど、あたしにとってはそんな些細な事だって、何か特別な縁があるように思えて嬉しかった。
「何だか色々と奇遇ですね」
笑顔になって言った。
あたしの言葉に佳原さんはきょとんとした顔をしていた。
少し間があって、大してそんな気もなさそうに「そうだね」って答えた。

仲里先生が普段いる化学準備室は理科棟にあって、美術棟から理科棟へは中学校舎を通り抜けていくのが早かった。
中学校舎を歩いていると、中学の生徒とすれ違う度に「こんにちは」って挨拶をされた。
中学校が開校した時からのことだって聞いてるけど、中学校の生徒は高校の生徒と会うと、いつも礼儀正しく挨拶をするのが習慣になっていた。当然高校の生徒 も挨拶を返すんだけど、市高に入学した時からのこととは言え、未だになんだかくすぐったいような慣れない感じだった。でもその一方で、高校生として中学生 のお手本にならなきゃっていう責任感を感じたし、中学校の生徒が憧れと敬意を込めてあたし達高校の生徒を見てくれているようで嬉しくも感じていた。
あたしは慌てて「こんにちは」って返事をして軽くお辞儀を返した。後ろで佳原さんもどぎまぎしながらも、同じように「こんにちは」って言ってお辞儀をして いたのがちょっと可笑しかった。
思わずくすくす笑いながら説明した。
「彼女達は中学校の生徒なんです。あの、制服は高校も中学も同じデザインなんですけど、襟のラインの色が違ってるんです」
説明しながら自分のセーラー服の襟に入っている二本のラインを示した。
「あたし達高校の生徒は紺色で、中学生は緑色なんです。ちょっと見ただけだと分かりづらいんですけど」
佳原さんはあたしの話を聞いて、今すれ違った中学校の女子生徒を振り返って、その後ろ姿の襟の色を確認していた。前に向き直った佳原さんは興味深そうに 「へえ。ほんとだ」って答えた。
「ちょっと変わってますよね」前から抱いていた感想を伝えた。
佳原さんは頷いてから、考えるように言った。
「昔っから、市高の女子の制服って人気あるんだよね。だから中学も同じデザインにしたのかもね。で、一応中学と高校の生徒の見分けが付くように襟のライン の色だけ変えたとか」
佳原さんに指摘されて、あたしも白状するように答えた。
「あたしも実は制服が可愛かったから市高を志望したんです」
あたしの言葉に、佳原さんはやっぱりね、っていう表情をした。少し笑ったみたいで、あたしはそれを見て何だかどきどきした。考えてみたら、佳原さんがあた しに笑顔を向けてくれたのは初めての気がした。そう気付いて、やっぱり佳原さんを案内するって申し出て良かったって思った。

化学教室とその隣の化学準備室は理科棟の二階にあって、あたし達は中学校舎から理科棟に入って二階へ上がった。
化学準備室の前まで来たら、準備室のドアは開いていて中で仲里先生が男子生徒と話しているのが見えた。あたしは開いているドアをノックしてから声を掛け た。
「失礼します。仲里先生」
名前を呼ばれ、話していた仲里先生は入り口に立っているあたしに気付いた。
「阿佐宮。どうしたの」
「えっと」
あたしが何て説明しようか考えていたら、後ろで佳原さんが口を開いた。
「仲里先生、お久しぶりです」
佳原さんの姿がよく見えるようにあたしは脇に一歩退いた。
仲里先生は佳原さんの事がすぐには分からないみたいだった。8年ぶりとのことだから無理もないって思う。
「ご無沙汰してます。佳原です」
佳原さんが改めて名乗って、仲里先生はやっと思い出せたみたいで笑顔になった。
「佳原!佳原匠君。いやあ、久しぶりだねえ」
いつも飄々としている仲里先生のとても嬉しそうな笑顔を見て、あたしはちょっとびっくりしていた。
「はい、本当に。先生もお元気そうで」
佳原さんは笑顔で恐縮したように答えた。
「いやあ、どうしたの、突然」
先生は嬉しそうに言いながら出入り口の方へと歩き出しかけた。
と、今迄話してた生徒のことを思い出して、仲里先生は中にいた男子生徒に向かって「ごめん、貫井。ちょっとお客さんが来ちゃったから、悪いんだけど、話は また今度ね」って謝った。その男子生徒は素直に「分かりました」って答えた。ドアの前で先生に向き直って「失礼します」って一礼して、彼が通れるように脇 にどいていたあたし達にも一礼するようにして準備室から出て行った。
仲里先生は男子生徒が退出するのを見届けてから、「まあ、中へどうぞ」って佳原さんを招き入れた。そして佳原さんの隣に立っているあたしを見て気が付いた ように言った。
「あ、それで阿佐宮は、どうしたの?」
そう聞かれて戸惑ってしまった。どうしたって言われても、佳原さんを案内して来ただけで、別に用事がある訳でもなく。
「いえ、僕を案内して来てくれたんです。理科棟が建て直されて、僕が在学してた頃と変わっちゃったので、分からないだろうって」
佳原さんがあたしに代わって答えてくれた。
「あ、そうだったの。阿佐宮、どうもご苦労さま」
仲里先生に感謝を告げられ、あたしは「いえ・・・」って小さく返事をした。
それ以上佳原さんと仲里先生の話にあたしが居座っているのは場違いな気がして、あたしは挨拶をすると仕方なく化学準備室を後にした。でも本当は、これで佳 原さんとお別れしてしまったらもう話をする機会はないって思って、廊下を歩きながら何か話を引き延ばす理由がないものか必死に考えたんだけど、何の妙案も 思い付けなくて後ろ髪を引かれる気持ちで理科棟から美術室に戻った。

美術室に戻って身が入らないまま部屋の片付けを手伝った。春音は用事があったみたいで、あたしが佳原さんを化学準備室に案内している間に帰ってしまってい た。
のろのろとした動きで不用品をビニール袋に詰めているあたしに、チョコちゃんが話しかけて来た。
「これ、じゃあ処分しちゃうね」
ぼんやりと視線を向けた。
「せっかく、阿佐宮さんが連絡までしてくれたのにね」
残念そうに言うチョコちゃんの両手には、佳原さんの絵が掲げられていた。
目を見開いて思わず叫ぶように言った。
「駄目です!」
突然あたしが大声を上げたので、チョコちゃんも室内にいた美術部員のみんなもびっくりしてこちらを向いた。
急に恥ずかしくなって顔を赤くしながらも、ずんずんとチョコちゃんの方へ近づいて行った。
あたしの迫ってくる勢いに、チョコちゃんは怯(ひる)んだように一歩後退(あとじさ)りした。
「ど、どうしたの、阿佐宮さん?」
「絶対駄目です!処分なんて!」
強い口調で言い立てた。
「でも、佳原さんもいらないから処分して欲しいって言ってたし」
困ったようにチョコちゃんが言う。
そんなの絶対駄目だった。この絵を処分するなんて許せなかった。
「あたしが貰います」
「え?」
あたしの言葉が思いがけなかったらしく、チョコちゃんは目を丸くして聞き返した。
「あたしが貰って帰ります」
意地を張るような気持ちで言った。
「でも・・・」
躊躇するチョコちゃんに、「佳原さんもいらないって言ってたんですから、あたしが貰って帰っても構いませんよね?」って迫った。
結局あたしの勢いに負けたように、チョコちゃんはあたしが持って帰ることを了承してくれた。
あたしは美術室の片付けも途中で放り出して、絵を持ち帰るための支度を始めた。美術室にあった模造紙を何枚か貰って絵を包装し、その上から荷造り用の紐で 十字に縛った。
重さは大したことはなかったけれど、何て言っても嵩張(かさば)った。両手で抱えるようにしないと持てなくて、これを学校から持って帰る自分の姿を想像し た。混雑する電車にも乗らなくちゃいけないし改めて大変だとは思ったけど、それでもこの絵が処分されてしまうことを考えたらそんな苦労どうってことないっ て思えた。

外が薄暗くなり始め、不用品で溢れ返って雑然としていた美術室も、二日がかりの片付けですっきりしてこれでお終いとなった。
鞄を教室に置いたままだったので、包装した絵を抱えながら教室へ戻った。チョコちゃんが一緒に美術室を出るとき、無理に今日持って帰らなくてもいいって 言ってくれたけれど、大丈夫です、持って帰ります、って言い張った。
先生は諦め顔で、「そう。気をつけてね」って言った。
教室に向かう途中、絵を抱えて階段を登っていたら、階段を下りてきた顔見知りの先生とすれ違って目を丸くされた。
「阿佐宮さん、何大変そうに抱えてるの」って聞かれ、「美術部からいらない絵を貰ったんです」って説明した。
教室へ戻るだけで結構な大変さだった。この上教科書の詰まった重い鞄まで持たなくちゃいけなくて、改めて家に持ち帰るまでの困難さを覚悟しなくてはならな かった。

ようやく生徒用の昇降口まで辿り着いて、上履きを下足入れに仕舞って革靴を履いた。
嵩張る絵を抱えて運ぶのは思った以上に大変だった。昇降口から校門へ向かうほんの僅かな距離の間で、何度も立ち止まって絵を抱え直した。
次第にあたしは諦めモードになりつつあった。校門を目前にして立ち止まって休みながら、今度の土日にでもパパにお願いして車で運んでもらおうか、なんて考 え始めていた。
すっかり陽は落ちて暗くなって、生徒の多くも部活を終えて下校しているようだった。あと残っているのは野球部とかサッカー部とか、ものすごく熱心な運動部 くらいのものだ。そんなことを思っていたら、校舎を隔てた校庭の方から「ありがとうございましたーっ」っていう野球部員の挨拶の声が聞こえた。あたしは溜 息をついた。
途方に暮れていたところに、突然「きみ」って声を掛けられて、文字通り心臓が飛び出るほどびっくりして、思わず「きゃあ!」って悲鳴を上げた。
辺りは薄暗かったし、考え事もしていたので人影に全然気付けなかった。怯えながら恐る恐る視線を上げて暗がりに目を凝らした。
あたしは一瞬目を疑った。
そこに立っていたのは佳原さんだった。あたしは何度かぱちぱちと目を瞬(しばた)いた。間違いなく佳原さんだった。
「佳原、さん?」
化学準備室に案内してから優に一時間以上経っていて、まだ学校にいたのが信じられなかった。
「あの、今迄学校にいらしたんですか?」
おずおずと訊ねた。
「ああ、うん。仲里先生と話が結構盛り上がっちゃって」
相変わらず佳原さんの返事は素っ気なかった。でもあたしは佳原さんと会ったり話したりする機会は、もう二度とないんじゃないかって半ば諦めていたので、ま た佳原さんと会えた事が嬉しかった。やっぱりあたしと佳原さんとは、何か見えない結びつきみたいなものがあるんじゃないかとさえ思えた。
あたしが一人で何気に嬉しそうにしていたら、佳原さんはあたしの抱えている大きな包みをじっと眺めていた。
「それ、どうするつもり?」
「あ、あの、佳原さんがいらないって言われたので、あたしが貰いました」
佳原さんに聞かれ、あたしはどぎまぎしながら答えた。
「で、家に持って帰る訳?」
あたしの答えを聞いて佳原さんは呆れたようだった。
「あ、はい・・・」
身を竦めるようにして答えた。
佳原さんは何か考えているみたいで、少し沈黙していた。
「きみ、家までは歩き?」
唐突に聞かれて、いいえ、って首を横に振った。
すると佳原さんは呆れ果てたような顔をした。
「それ抱えて電車に乗るつもり?」
ええと・・・あたしは口ごもった。それはあたしも少なからず不安に思っていたことだった。そろそろ帰宅する人達で混雑し始める時間帯で、混み合った電車に こんな嵩張る物を抱えて乗車したら、他の乗客の人達に迷惑がられるに違いなかった。
そう思いながら、何も言えずにもじもじと俯いていると、佳原さんは大きな溜息をついた。あたしはびくっとして顔を上げた。
「あのさ、何だったら、送ろうか?」
佳原さんは言った。でもその口調は仕方なくって感じで、気が乗らない様子だった。
それを感じ取ってあたしは、「いえ、そんな悪いですから」って断って、「大丈夫です」と付け加えた。
全然大丈夫じゃないのはひと目見て明らかで、それは佳原さんも絶対分かってたと思う。
佳原さんは何も言わずにあたしが抱えていた包みに手を伸ばして、半ば強引にあたしの手から奪い取った。そして、踵(きびす)を返してすたすたと歩き出して しまった。
「あ、あの!佳原さん?」
突然断りもなく絵を奪われてあたしは焦った。呼びかけても佳原さんは何も返事してくれなくて、急いで佳原さんの後を追いかけた。
佳原さんに追い縋りながら何度か呼びかけたけど、佳原さんは振り向きもせず、大股ですたすたと今や閑散としている駐車場に向かって歩いて行った。
そして佳原さんは一台の車の前で立ち止まった。佳原さんのすぐ後ろをくっついていたあたしは、危うくぶつかりそうになった。
「ちょっと持ってて」
唐突に佳原さんが言って持っていた絵を差し出したので、あたしは慌てて受け取った。
佳原さんはポケットから車のキーを取り出して、リモコンのスイッチを押してドアロックを解除した。
佳原さんの車はホンダのミニバンで人気のあるよく見かける車種だった。家の車を買い換えるので家族みんなでホンダのショールームに行った事があって、その 時飾られていたのを見た覚えがあった。確か「オデッセイ」っていう車だった。(家(うち)はその時は結局、前の車と同じ日産のお店で「エルグランド」を 買ったんだけど。)
佳原さんは車の後部座席のドアを開けて二列目のシートを倒し、続いて車の後ろに回って後部ハッチを開けて、三列目のシートも倒した。
二列目と三列目の座席を倒してしまうと、かなり広いカーゴスペースが出来上がり、自分の家の車の座席の動かし方さえ知らないあたしは、車ってこんな風に座 席が動かせるものなんだって感心しながら見つめていた。
ぼおっと突っ立っていたら、車の後部ハッチの所にいた佳原さんが「それ、くれる?」って手を差し出した。
あたしは慌てて「はいっ」って返事をしながら、後ろの方に回って佳原さんに絵の包みを手渡した。絵を受け取った佳原さんは車に積み込んで後部ハッチを閉め た。
後部ハッチの閉まる重い音を聞いてあたしは我に返った。何だかよく訳の分からないまま佳原さんの車に絵を仕舞われてしまった。
どうしようってまごついているあたしに、佳原さんは助手席のドアを開けた。
「どうぞ、送ってくよ」
そう言われて余計戸惑ってしまった。それは、よく知りもしない人の車に乗るのに不安を感じてっていうんじゃなくて、そんな心配はちっともしてなかったけ ど、わざわざ送って貰っていいんだろうか、っていう気持ちからだった。本音を言えば、車で送って貰えたらとても助かるし、それに何よりその間佳原さんと一 緒にいられるんだって思うとすごく嬉しかった。でもこれでほいほいと乗り込んだりしたら、何だかひどく厚かましい人間だって思われたりしないか気になっ た。
そんな心の葛藤があって躊躇していた。

あたしが車に乗るのを躊躇っていたら、しびれを切らしたように佳原さんは口を開いた。
「あのね、あんな嵩張った物、学校から駅まで持ち運ぶのさえ大変でしょ。さっきだって昇降口から校門までの距離も辿り着けないで立ち往生してたよね」
佳原さんには昇降口から絵を運んでいた姿をすっかり見られてしまってたみたいだった。あたしは恥ずかしくて俯いた。
「況して混み合った電車にも乗らなきゃならないし」
佳原さんは付け加えた。
佳原さんの指摘に、すっかり項垂(うなだ)れてしまった。意地を張って持ち帰るなんて威勢のいい事を言ったのに、校門まで運ぶことさえ出来なくて、自分の 判断力の無さに落ち込んだ。
「ええと、阿佐宮さん?」
佳原さんに名前を呼ばれ、はっとして顔を上げた。
「早く乗ってくれる?」
助手席のドアを大きく開けて、佳原さんはあたしを促した。
佳原さんに促されて大人しく助手席に乗り込んだ。あたしが乗ったのを確認してから佳原さんはドアを閉め、自分も運転席側に回ってドアを開け運転席に座っ た。
エンジンキーを回すと車は小刻みな振動と共に唸り出し、運転席のパネルの計器類が明るく灯り、カーナビの画面も点灯した。佳原さんがハンドルの脇にあるス イッチを捻るとヘッドライトが灯り、車の前方が明るく照らし出された。
「シートベルト締めてくれる?」
佳原さんに言われ、あたしは「はい」って答えて、慌てて左肩の辺りに収納されているシートベルトを力一杯引っ張って、右側の腰の辺りにあるバックルまで伸 ばそうとした。でも家の車では助手席に乗ることなんて殆ど無かったから、シートベルトの操作に慣れてなくて一度で上手く締められず、「あれ?」って呟きな がら何回か引っ張り直してやっと締めることが出来た。
佳原さんはあたしがシートベルトを締めるのに手間取っている間ずっと待っていてくれて、あたしがシートベルトを締めたのを確認してから、車をスタートさせ た。


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